第43話 合言葉は『クラゲ』

「ここは土産物屋だね。何か買っていかない?」

 一通り展示を見終わって、夏子に連れられてきたのは、限定グッズとかを扱っているショップだった。折角だから何か記念になるものでも買っていこうかなと。


「ねぇ、これ可愛いですね。買っちゃおうかな♡」

 安藤さんが持ってきたのは、デフォルメされたクラゲのぬいぐるみだった。結構な大きさだったが、触ってみると柔らかくて手触りが気持ちいい。

「柔らかくていいんじゃない?」

「そうですね。う~ん買っちゃお♡」

 何か安藤さんが小動物みたいに可愛く思えてきた。

「あ~ん♡可愛いよぉ♡」

 早速、ぬいぐるみを抱きしめて頬ずりする安藤さん。安藤さんはクラゲのぬいぐるみにメロメロだった。何か微笑ましいな。


「じゃあ、俺も何か買おうかな。」

 冬馬も夏子と一緒にショップを見て回った。流石に可愛いものを買うつもりはなかったが、ふと気になるものを見つけて手に取ってみた。


(これは……)

 冬馬が手に取ったのは、クラゲの形のプレートが付いているキーリングだった。安藤さんが気に入ったデフォルメされたクラゲのぬいぐるみと違い、これはデザイン化されているものの、リアルな姿を残していていい感じに見えた。

「これ、買ってみようかな?」

「わたしも買う~♡」

 夏子は、クラゲのキーリングの絵柄違いを手に取って来た。

「冬馬くんとお揃いの~♡」

 ニコニコしている夏子は可愛い。語彙が少ないと言われようと、可愛いものは可愛いのだ。

 ミズクラゲとタコクラゲ。それぞれの色は、水色とオレンジ。二人のイメージカラーみたいでいい感じだ。


 そんな中、冬馬はクラゲグッズの中でも変わったものを見つけた。

「こういった土産屋で和三盆は珍しいんじゃないかな」

 高級な砂糖である和三盆糖を使用している干菓子で、カラフルなクラゲをイメージした形になっている。冬馬の好みにもぴったり合ったので、自分用に購入する事にしてみた。なんだかんだで今日一日で、すっかりクラゲの魅力にハマってしまった冬馬であった。


 後は、職場用の土産としてデフォルメされた魚を形にしたクッキーを。石塚さんにはチンアナゴのスティックパンを……。というわけにはいかないので、ハーブティーを選んでみた。もちろんただのハーブティーではない。クラゲの形をしたティーバックとなっていて洒落た感じだ。更にバタフライピーティーというもので、なんとお湯を入れると青い紅茶が出てくるという。レモンを加えると色が変化するのも面白い。


「石塚さんにもクラゲのおすそ分けですか。気に入ってもらえるといいですね」

 安藤さんは、さっきからずっとクラゲのぬいぐるみを抱きしめている。安藤さんがクラゲのぬいぐるみに夢中になるなんて、流石に予想だにしなかった事だ。

「安藤さん、すっかりクラゲのぬいぐるみがお気に入りだね」

「はい。可愛いし、抱き心地もいいので♡」

 安藤さんは、更にぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。よっぽど気に入ったんだな。

「夏子さんも、クラゲのキーリングが気に入ったみたいですしね」

「うん♡これ可愛いし、冬馬くんとペアで持ってるって何だか嬉しいから♡」

 安藤さんと夏子はすっかり意気投合して仲良しになっている。

 まるで仲のいい姉妹みたいだ。



「さて、この後はどうしようか?何か見ていきたい所あるの?」

 冬馬は二人に尋ねた。安藤さんは、ちょっと悩んでいるみたいだ。

「う~ん。私は特に考えてないですね……」

 夏子はどうだろう?

「わたしも別に……冬馬くんと一緒ならどこでもいいよ♡」

 折角、苦労して滅多に来ないような所に来たのだから、時間ギリギリまで楽しみたいなと、冬馬は思っていた。


「水族館はこれくらいにして、このビル、色々な店があるみたいだから、時間ギリギリまで見て回ろうか」

「賛成です!善は急げと言います。すぐ行きましょう、先輩♡」

「ちょっと安藤さん、慌てないでよ」

 そんなわけで、三人は時間の許す限り、他の店を見て回った。本当は、お洒落なカフェとかも行きたかったのだが、今回は安藤さんを優先して、ファッションフロアを中心に見て回った。他の所に出店している店もあったけれど、なかなか見かけない店もあったりで、安藤さんは凄く満足していた。夏子も趣味に合いそうな服もあったようで、こちらも楽しんでいる感じで、良かったのではないかと。冬馬は冬馬で、お洒落なシャツを見つけたので、買おうかどうか一瞬迷ったが、値札を見てそっと元の場所に戻した……。

 (桁が一つ違うんじゃ、どうしようもないじゃないか。どうしたらこんな値段になるんだよ?)

 冬馬は心の中でボヤくのだった。やっぱりファッションっていうのは、わからないねぇと。

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