桐ケ谷先輩は、私を不意打ちでキュンキュンさせて来るからずるい

福山典雅

桐ケ谷先輩は、私を不意打ちでキュンキュンさせて来るからずるい

 放課後、私は若干どぎまぎしつつ、返却本の整理に勤しんでいた。


 ここは私の通う高校の図書館。一年生図書委員の私は緊張とは別の意味で、作業に集中しきれない自分を自覚している。その理由は明白だ。


「夏川さん、悪いけどこれもお願いします」

「は、はい!」


 そう、それはこの桐ケ谷先輩のせいだ。


 この先輩、実はとってもずるい人だ。


 艶々なマッシュヘアにスクエア型の黒眼鏡。涼し気なその目元はめっちゃクール。だけど3年生なのに丁寧な敬語で、年下の私にも気を使ってくれる表向きはいい先輩だ。だけど、ずるいんです、この先輩!


「夏川さん、疲れてますか? 少し休憩されてもいいですよ」

「はっ、はひ! いえ、大丈夫です、がんばりましゅ!」


 あっ、噛んじゃった。

 すると先輩は軽く微笑みながら、すっと私の顔を覗き込んだ。


「夏川、大丈夫か? 顔赤いぞ、マジで風邪ひいてね?」


 どへぇえええええええ、近い、近いから、ふぉおおお! 


 先輩は、私にだけ敬語モードとタメグチモードを絶妙に切り替える。それってずるいから! 


「だ、大丈夫です!」

「そうか? じゃあ、頼むね」


 先輩は優しくそう言うと、すごく自然に私の頭を軽くポンポンとした! 


 あひぃいいいいいいい、気持ちいい~、じゃなくて! 


 先輩の身長は180cm。私は152cm、28cmの差だ。この落差が効くわ~、って違うから!


 もう、もう、ずるい、ずるいから、もう! 


 桐ケ谷先輩って、ホントにずるい! だから私は不意打ちばかりするずるい先輩を、影で「二年後の流れ星」と暗喩している(いみふ笑)。





 さて、思い起こせば、本好きの私が図書委員になったのは三か月前の春。そこで先輩と出会ったのだ。まぁ、ちょっと、かっこいいかなぁ、なんて思っていたりもしたけど……、だけど桐ケ谷先輩って、ホントにずるい!


 例えば私がわちゃわちゃと失敗して焦っていると、


「それ可愛いな、もう一回(笑)」


 とか言ってからかって来るし、


 図書館が閉館すると、「お疲れ様」ってグーパンあいさつとかして、私をドキドキさせるし(なんかめっちゃ嬉しいけど)。


 そもそも普段は「夏川さん」って呼んでる癖に、絶妙なタイミングで、


「夏川」

「夏川?」

「夏川~(笑)」


 って苗字を呼び捨てにする。なんかね、私は名前を呼ばれるよりも苗字の呼び捨てに弱いんだからね、知っててやってるでしょ、もう、ほんとにずるい! 


 こうして私はいつも先輩にドキドキさせられているのだ! う~、う~(赤面)。






「ふ~、ちょっと小休止にしましょう」


 今は夏休み、当番である桐ケ谷先輩と私は、休館中の図書館で新刊入荷処理の作業を行っていた。


「夏川さん、ジュースおごりますね」

「あっ、ありがとうございます」


 先輩のおごりだ、わーい、わーい、と心の中で小踊りしながら、私達は図書館のすぐ外にある自販機の所に移動した。何にしようかなと、私が考えていると先輩が先に自分のを買った。


「俺は午後ティでと。そんで夏川は俺と一緒な」


 急にそう言うと、先輩は買ったばかりの自分の午後ティを、私に軽くトスして来た。


 ぶへぇええええええええ、おそろですか、おそろなんですね! もう、先輩は、なんでジュース買う時ですら、いちいちずるいんですか、嬉しいじゃないですか!




「ところで先輩って、受験生ですよね? 図書委員の仕事してて大丈夫なんですか?」

「内緒ですけど、少し自信がないんです」

「えっ?」


 そう言うと先輩はタメグチモードに切り替わった。


「実は今好きな子がいるんだ。それで勉強に集中出来ないとか、馬鹿みたいだろ?」


 その告白は、私にとってとてもショックだった。


 私は密かに先輩って私の事が好きなんじゃないかなって思ってた。でも違った。こんな話、本命が私だったら絶対にこんな場所で気楽にしない話だ。


 くやしいけど、私は先輩が好きだ。


 初めて会った時からずっと好きだ。


 先輩に不意打ちでずるい事を言われるのがすごく楽しみで、毎日が夢の様に楽しかったのに……。


 我慢しなきゃ、ここで泣いちゃ駄目だ、絶対に我慢しなきゃ。


 そう思えば思う程、胸がどんどん苦しくなって、私は思わずぽろぽろと泣いてしまった。


「えっ、夏川?」


 突然の涙に先輩が驚いたけど、もう駄目だ。気がつけば私は一番言ってはいけない事、知りたくもない事を叫んでいた。


「先輩、先輩はずるいです! 私は先輩の事が好きだったのに! こんな話ひどいです! 先輩の好きな人って誰なんですか!」


 涙ながらに私はみっともない事を言ってしまった。その瞬間だった。


「お前だよ」


 そう聞こえたと思ったら、先輩は私にキスをした。


 ほ、ほぇえええええええええええええ、ちょ、いま、ちゅー、ちゅーしました? 先輩、ふぇええええええええええ!


 そのまま狼狽えまくる私を先輩は抱きしめてくれて、また不意打ちでずるい事を言った。


「お前が大好きなんだ」


 そのまま私達は、身長差28cmの幸せなハグをぎゅとした。



                            FIN














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桐ケ谷先輩は、私を不意打ちでキュンキュンさせて来るからずるい 福山典雅 @matoifujino

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