さよならは言わない

蠱毒 暦

無題 彼女にマリーゴールドの花束を

物心ついた頃から城内に監禁されていた。


「……」


だが、不自由な暮らしという訳ではない。


食事は豪華。

外の知識を得られる図書館や運動場も完備。

自室にはあらゆる物が揃っていた。


けど外には出れない。最上階の自室の窓から見える街並みと、輝く星空だけが…僕の世界の全てだった。


よく僕の事を詰ってきた兄弟たちは数日前、流行病に蝕まれて他界。唯一生き残った僕が少女故に次期国王になれない事に失望し、前国王は自害した…とされている。


その実態は…前国王の妃が毒を盛って殺し、次期国王の繋ぎである僕を裏で操り、この国の実権を握ろうという計画だと廊下ですれ違った大臣達がヒソヒソと話しているのが聞こえた。


「……」


いつものように僕の背丈よりも遥かに大きいベットから窓の外に広がる満天の星空を眺める。このひと時だけは何も考えずに済むから…


「ぁ…流れ星。」


本でしか見た事がない現象が見られて、少女の心が一時的に高揚する。


「…え、あれ?」


だが、その一筋の光がこちらに向かって来ているとなれば……話は別だ。


「…っ!」


ベットから急いで降りようとして…窓ガラスが割れる音とともに、その衝撃波でドアの近くまで体が吹き飛んだ。


「……」


ぶつかった痛みで蹲っていると…僕以外誰もいない空間に、見知らぬ声が聞こえる。


「あいたたたぁ…ここ何処?地面の裂け目から落ちたのは覚えてるけど…むむむ?」


顔をあげると、20代程であろうオレンジ色のロングヘアの女性がさっきまでベットだった残骸の上に立っていた。


「ねえ、君!ここどこだか知ってる?」


「体…大丈夫なの?」


原型が分からないくらいに服が破けていて、そこから酷く出血しているのに…女性は軽く笑って答えた。


「あ〜…これファッションだよファッションっ!痛くも痒くもありませ〜ん♪」


「…でも、」


そうやって問答をしていると、ドアが強く開かれぞろぞろと武装した兵士が入ってきた。


「…ロネ様!無事でごさいますか?」


「えっ…ええ。」


「何処から侵入して来たのか…ご安心を。我々で侵入者を撃退いたしますので。」


女性は周りの兵士を見渡してから、鼻で笑う。


「ははっ……何言ってんの君達?」


「なっ!?貴様こそ、城内に侵入し、ロネ様に怪我を負わせた事…処刑台に送られる覚悟は出来ているのだろうな?」


「貴様じゃないし…私の名前はユティだよ。大体さ、本心では誰もその子の心配とかしてないのに…マジ人間ってさ…よく心にもない事とか言えるよな(笑)」


空気が一瞬にして凍りついた。


「あ、ごっみーん☆厳密には、心配はしてるのかな?後継者がまだいない以上、ここで死なれると面倒そうだしねぇ〜。」


「…殺せ!!」


誰かが叫ぶと同時に兵士達は、女性に向かって突撃する。


「あらぁ。図星かにゃ?…そんなにすぐ怒ると、女の子にモテないゾ☆」


「…ぐぁ。」


いつの間にか一本の黄金に輝く剣を持ち、兵士の心臓を貫いていた。


「ほほいの…ほいっと♪」


軽い掛け声と共に、剣を引き抜き…無造作に襲いかかる兵士に剣を振う。数秒も掛からずに、僕の服は血や臓物で紅く染まった。


「……」


そんな僕に女性は手を差し伸べる。


「さぁ、次は何をしようか…悲劇のお姫様気取りの可愛らしい革命家ちゃん??」


「何って…」


「いやいや、王様になるんでしょ?私は悪魔じゃないけど…最期は楽しくバカな事やって死にたいんだよね。ラスット的に言うと…利害の一致って奴?」


「…どうして、分かったの?」


「そりゃあ勿論」


——神様だもん。


後に『一夜革命』と呼ばれる騒動はこうして始まり瞬きの間に終結した。結果を述べるのなら


異世界スンアム最大の国家である、クレス王国第107代目の国王は……ロネ・ケリエドゥエセという少女が襲名したという事である。


……



二年後。


少女は玉座にて、職務に没頭する日々を送っていた。


「ロネ様!大雨で川沿いの家に浸水被害が発生していると…」


「うむ。余の宝物庫にあるアレで…」


「東区が干ばつで、既に食糧や水がないとの報告が!」


「バカ者っ!何故それを早くに言わぬか…早急に手配せよ。」


「大変ですっ。近隣の町で獣人との争いが…」


「…直接出向く。余が戻るまで他の議題を纏めておけ。」


「「「はっ!」」」


ひと段落ついて、他の人がいないのを確認してからため息をつく。


「正に忙殺だねぇ…エリアちゃん?」


ユティは余の金髪を撫でながら言う。


「余はエリアという名ではないが…」


「いいでしょ〜…今決めたんだ。」


「む、少しは余の話を聞けと…全く。」


「本当、身長変わらないよね。胸だけは成長してるけど♪」


「ぶ、無礼者っ!…余は絶対にユティよりも伸びてやるぞ!」


「……」


ユティと余は天井を見る。


「ガラス張り…やっぱいいね!星空が見えてさ。うん」


——楽しかったな。


「それはユティが決めた事で…ユティ?」


いた場所には誰もおらず、ただ黄金の剣が刺さっているのみだった。



「…バカ者。」




星空をまた見上げても、もう流れ星は落ちてこなかった。

                  了


                  






















































































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