第31話 シュタインという男 其のニ

 シュタインが目覚めるのを待ち、部屋を移動する三人。 船の主の案内のもと船のカフェテリアへと向かった。


「はっはっは。ここまでサイエンティストジョークが通じないとはね」

 シュタインは笑いながら、ジローとノヴァのそれぞれに飲み物を差し出した。

 木素材のマグカップに入れられた飲み物は何かしらのハーブティーのようで、ほのかに甘い香りがあたりに漂った。


「どう考えても冗談には見えなかったデス!おかわり!」 

 ジローは飲み物を一気に飲み干すと、コップをテーブルに勢いよく置いた。


 シュタインはジローのコップを手に取ると、カウンターで飲み物を注ぎ、再び席についた。

「心外だな。その気なら君たちが眠っている間にをしているさ」

 至極真っ当な言い分で納得せざるを得ないが、言っていることは恐ろしかった。


「たしかに・・・・。いきなり殴ってごめんなさいデス」

 ジローはしょんぼりとして謝った。


「なに、気にすることはない。それにしても良い動きだった。さすが、トロルのサイボーグ技術といったところか」


「なんで私がトロルから来たってわかったデスか!?」

 驚いた様子のジロー。


「君のスーツはフォルムが特徴的だし、強化された身体能力は戦闘用だとわかるからね。おのずと出身は限られてくる」

 言葉が通じている段階でシュタインが自分たちの出身を把握していることをノヴァは予想していた。  ただ、驚くべきはシュタインの知識の深さと鋭い洞察だった。


「すごいな。俺の故郷じゃ、ほかの星系の文明についてほとんど情報なんてないってのに」

 ノヴァは素直に驚きを口にした。


「それはそうだろう。私のところが特別なだけさ」

 ことも無げにシュタインは答えた。


「シュタインさんはどこから来たデスか?」

 興味を抑えきれないジローはズイッとテーブルに身を乗り出す。


「どこからというのは表現が微妙だね。私は宇宙を旅するある種の船団に属していてね。そこには宇宙の様々な情報が蓄積されているんだ」


「ということはその船団が、この星の近くにいるということか?」

 もし、そうならばテラフォーミングのプランについてはいろいろと練り直しが必要になるなと考えつつ、ノヴァはここで初めてハーブティーを口にする。


 味わったことのない芳醇な香りと深い甘みが口の中に広がった。


「いや。事情があってね、現在は単独行動さ」

 そこには何かしらの含みが感じられたが、シュタインとしてはこの点については伏せておきたいようだった。


「独りぼっちで来たんデスね。私たちと一緒デス」


「君たちこそどうしてここに?」

 シュタインは話をそらすように今度は質問を返した。


 これまでの経緯から、情報を隠す必要はないだろうとノヴァは判断する。

「俺はフォーミングのための調査でこの星系までやってきた。ほんとは別の惑星を調査するはずだったんだが」

 ノヴァは一呼吸置く。


「ほう?」

 シュタインが興味深げにうなずいた。


「こいつのせいでこの星に墜落しちまったんだ」

 とノヴァは親指をジローの方に向けて言った。


 その言葉にジローは動揺した様子で、再びコップの飲み物を一気に飲み干すと即座に話を変えた。


「わ・・わたしは、故郷の星から逃げて、たまたまここにきたデス。それで、そのあとノヴァさんに命を救われたデス!」

 ジローは大げさな手ぶりで説明した。


「フフ。殺されかけた相手を助けるとはね」

 シュタインの表情は見えないが、笑っているらしい。


「助けたときは知らなかったからな」

 ノヴァは照れくささを感じ、ぶっきらぼうに答える


「面白い。・・・・よかったら、私も君たちのチームに加えてくれないか?」


 唐突なシュタインの申し出にノヴァは少し面食らう。

「そっちも目的があってこの星に来たんだろ?それはいいのか?」


「ああ。私も調査の一環でこの星に来たんだが、船がエネルギー切れの状態になってしまってね、活動を続けるのも難しい状態だったんだ。」


「どこも似たようなもんだな」

 ノヴァが笑って言った。


「今はエネルギーの充填中なんだが、十分に回復するには相当に時間がかかりそうでね。その間、眠っていようと思っていたところさ。ただ眠るより君たちに同行するほうが実りが多そうだ。」


 ノヴァとしては仲間は多いほうがありがたかったし、ここまでのやり取りでひとまずシュタインの信用に足る人物であると思えた。 


「旅は賑やかな方がいいからな。歓迎するよ」

 シュタインに向かって握手を差し出した。


「ありがたい」

 シュタインはその手を握り返した。


 ジローもすかさず立ち上がり、「デス!」といいながら、握手をしている二人の掌を覆うような形で自らの手も乗せた。


「なんだか、わくわくしていきたよ。こういった感覚は久しぶりだ」

 心底愉快そうにシュタインは言った。

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