第32話 シュタインという男 其のニ

シュタインが目覚めるのを待ち、三人は部屋を移動した。

船の主の案内のもと向かったのは、カフェテリアと思しき広間だ。

椅子やテーブルもまた、木材のようでありながら、どこか温かみのある生体素材で形成されていた。


「はっはっは。ここまでサイエンティスト・ジョークが通じないとはね」


 シュタインは愉快そうに笑いながら、ジローとノヴァのそれぞれに飲み物を差し出した。

 植物の樹液を加工したようなマグカップ。中身は何かしらのハーブティーのようで、ほのかに甘い香りが辺りに漂う。


「どう考えても冗談には見えなかったデス! おかわり!」


 ジローは熱い茶を一気に飲み干すと、カップをテーブルにドンッ! と勢いよく置いた。


 シュタインはジローのカップを手に取ると、カウンターでポットを傾け、再び席についた。


「心外だな。その気なら君たちが眠っている間に、とっくにを済ませているさ」


 至極真っ当な言い分で納得せざるを得ないが、言っている内容はマッドそのものだ。


「たしかに……。いきなり殴ってごめんなさいデス」


 ジローはしょんぼりとして謝り、なみなみと注がれた二杯目を啜った。


「なに、気にすることはない。それにしても良い動きだった。  さすが、惑星トロルのサイボーグ技術といったところか」


「なんで私がトロルから来たって分かったデスか!?」


 驚いて目を丸くするジロー。


「君のスーツはフォルムが特徴的だし、強化された身体能力は明らかに戦闘用だ。おのずと出身は限られてくる」


 言葉が通じている段階で、シュタインが自分たちの出身を把握していることをノヴァは予想していた。ただ、驚くべきはその知識の深さと、一瞬で正体を見抜く鋭い洞察力だ。


「すごいな。俺の故郷じゃ、外宇宙の情報なんて都市伝説レベルだっていうのに」


 ノヴァは素直に驚きを口にした。


「それはそうだろう。私のところが特別なだけさ」


 事も無げにシュタインは答える。


「シュタインさんは、どこから来たデスか?」


 興味を抑えきれないジローは、ズイッとテーブルに身を乗り出した。


「“どこから”というのは表現が微妙だね。私は宇宙を移動し続ける、ある巨大な船団に属していてね。そこには銀河中の様々な情報が蓄積されているんだ」


「移動する船団……。ということは、その船団が今、この星の近くにいるということか?」


 もしそうならば、テラフォーミングのプランや帰還方法について、新たな選択肢が生まれるかもしれない。

 ノヴァは期待を込めつつ、ここで初めてハーブティーを口にした。

 味わったことのない芳醇な香りと、深い甘みが口の中に広がる。極上の味だ。


「いや。事情があってね、現在は単独行動さ」


 そこには何かしらの含みが感じられたが、シュタインとしてはこの点については深く語りたくないようだった。


「独りぼっちで来たんデスね。私たちと一緒デス」


「……君たちこそ、どうしてここに?」


 シュタインは話をそらすように、今度は質問を返した。

 これまでの経緯から、情報を隠す必要はないだろうとノヴァは判断する。


「俺はテラフォーミングの調査でこの星系までやってきた。本当は別の惑星を調査するはずだったんだが……」


 ノヴァは一呼吸置く。


「ほう?」


 シュタインが興味深げに頷いた。


「こいつのせいで、この星に墜落しちまったんだ」


 ノヴァは親指を隣のジローに向けて言った。

 その言葉にジローはあからさまに動揺し、三杯目の茶を一気に飲み干すと、即座に話をすり替えた。


「わ……ワタシは、故郷の星から逃げて、たまたまここに来たデス。それで、そのあとノヴァさんに命を救われたデス!」


 ジローは大げさな身振り手振りで説明する。


「フフ。自分を撃ち落とした相手を助けるとはね」


 シュタインの表情はヘルメットで見えないが、楽しそうに肩を揺らしている。


「助けた時は知らなかったからな」


 ノヴァは照れくささを感じ、ぶっきらぼうに答えた。


「面白い。……よかったら、私も君たちのチームに加えてくれないか?」


 唐突なシュタインの申し出に、ノヴァは少し面食らう。


「そっちも目的があってこの星に来たんだろ? それはいいのか?」


「ああ。私も調査の一環でこの星に来たんだが、船がエネルギー切れの状態になってしまってね。活動を続けるのも難しい状態だったんだ」


「どこも似たようなもんだな」


 ノヴァが苦笑する。


「今はエネルギーの光合成充填中なんだが、十分に回復するには相当に時間がかかりそうでね。その間、ただ眠っているよりは、君たちに同行するほうが実りが多そうだ」


 ノヴァとしては、仲間は多いほうがありがたい。それに医師であり科学者であるシュタインの知識は、この先の探索で間違いなく役に立つ。  何より、ここまでのやり取りで、彼は信用に足る人物(多少マッドだが)であると思えた。


「旅は賑やかな方がいいからな。歓迎するよ」


 ノヴァは立ち上がり、シュタインに向かって右手を差し出した。


「ありがたい」


 シュタインも立ち上がり、その手を力強く握り返した。


「デス!」


 ジローもすかさず立ち上がり、握手をしている二人の掌を覆うような形で、自らの手も乗せた。


「……なんだか、ワクワクしてきたよ。こういった感覚は久しぶりだ」


 心底愉快そうに、シュタインは言った。

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