第5話 ゆめのなか
瓦礫まみれの道も、街に近づくにつれて平に整った石の道に変わっていった。
木々をくぐり抜けた先は、まるで夢でも見ているように。
「___綺麗。」
あり得ないはずだった。
だって、こんなにきれいな街は、もうこの世界には残っていなかったはずなのに。
だって、今残ってる建造物なんてみんな荒んで滅んでぼろぼろの廃墟しかなかったのに。
だって…私の理想は存在しないと思っていたのに。
普通に生きていたら見るはずのないオリジナルモデルの蒲公英、存在しない滅びる前の街。
私は第一に自分の夢だと考えた。
それで、自分の頬をつねろうとして、やめた。
絵本の中にしかないと思って夢にまで見た景色がそこにあるんだから、起きる必要なんてない。
嬉しかった。
ここは夢の中で、起きたらアリサは隣りで寝ていて、またあの甘いデザートをたくさん食べるのだろう。
きれいな街の、ちいさなお店に入った。
看板には記号のような、絵のような何かが書かれていたが、おそらくそれらは旧世代の文字だから私には読めなかった。
お店に中は客がいて、店員がいて、店主が居た。
「いらっしゃい。ゆっくりしていきな。」
とカウンターに居た店主が私を見て歓迎してくれた。
あとに続いて派手な髪色の店員が私を席に案内してくれた。
雰囲気から察するにここは酒場なのだろう。
大柄な男性から華奢な女性、精巧なアンドロイドまでさまざまな客がいる。
とても元気でばか騒ぎしているから、私だけが場違いのような気がした。
「お水とメニュー表です!それと、あなたには
と言い、先程の店員がにこりとする。
「ありがとう。ネモフィラは食べても平気なの?」
「はい!でも花を食事として売っているのはここのお店だけなので、自然に生えている花は毒性だから食べちゃダメです!」
「食べたら3日は寝込むことになりますよ〜」
と実際そんな目にあったような口ぶりで店員は続けて言った。
この地域は自然に生えている花さほど珍しくないのだろうか。
おすすめの品物を頼めば、5分もしないうちに運ばれてきた。
綺麗な模様の刻まれたガラスの平皿に、塩につけられて色が濃くなったネモフィラが乗せられている。
オリジナルモデルの形の花は、何度見ても本物か疑ってしまう。
覚悟を決め、花びらを一枚口に含む。
爽やかな塩味とほのかに花の香りが口の中にふわりと広がる。
味わおうとすればするほど、花びらはシャボン玉のように溶けて消えてしまう。
儚いその味を知ってしまうと私の箸は止まらず、ガラスの平皿の上にはこぼれた小さな結晶だけになってしまった。
突然外から騒がしい音が聞こえた。
その場に居た全員が振り返る。
両開きの扉が勢いよく開き、警備員のような格好の男が走り込んできた。
「はぁ、はやくにげてください!魔物が」
男はすべてを言い切る前に、後ろの黒いもやに包まれた。
もやが過ぎ去ると男はもういない。
その次には赤黒い血溜まりができた。
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終わりのない星に句点を。 水瀬 @minase_syu02
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