第4話 孤独とそら
突然私の脳内に私の声が語りかける。
『予測不能なトラブルがおきた場合、政府に連絡すること。』
私は政府から支給された携帯端末を手に取り、メールを作成する。
アリサが消えたこと。さっきまでの出来事をすべて。
✧ _ ✧ _ ✧
夜が明ける頃、政府から連絡が帰ってきた。
アリサのことは失踪したことにするという内容だった。
「覆水盆に返らず…か。」
つまり政府は私の親友…いや、家族を切り捨てると言っているんだろう。
穢れた文を映す端末を壊れる程強く握った。
最先端の技術で作られたそれは何の音も立てなかった。
私は付近の街へ向かうことにした。少しでも情報が必要だ。
✧ _ ✧ _ ✧
独りで進む道はとても長く感じた。
歩く速度は変わらないのに、目的の青い屋根の塔は一向に近づいた気がしない。
退屈で退屈でしかなかった。
影に咲く蒲公英がいた。
私はしゃがんで、それをまじまじと見つめた。
オリジナルモデルそのままの形を保つそれは、岩の隙間に孤立していた。
今の時代は植物が生えない環境になった影響で、造花や遺伝子組換えの花、魔法で作られた幻像などが売買されている。
私もオリジナルの花は質屋の高級商品エリアで見たきりだった。
それはとても貴重な品だけど、私には必要がない。
だけど、なにか惹かれるものがあった。
わたしと同じ匂い。
あなたも、あなたに価値を与えてくれる何かを待っているのね。
でもそれは叶わない。誰も見つけてはくれない。
待ってるだけじゃ、なにも残らないんだよ。
アリサはどうしてるのかな、私が迎えに来てくれるのを待ってるのかな。
そもそもどこにいるかすら分かってないのに…。
___私が両親とはぐれた日。
その日は、公園で遊んでいて、私の親は私のことを遠くの長椅子から見ていてくれた。
公園にいた子供数人でかくれんぼをする話になり、私も参加した。
隠れたのは森の奥にある、壊れかけのピアノの影。
隠れてから数時間も立つのに誰にも見つけてもらえなかった。
空の色はすっかり群青に染まって、森は静寂に包まれた。
聞こえるのは息が上がった自分の呼吸だけ。
私は臆病で、その場に留まることしかできなかった。
存在しない奇跡を信じて見つけてくれる人を待ち続けた。
幼い私には、さみしい、不安などと簡単に表現できる恐ろしさではなかった。
冷たい風が吹いた。
瞬く間に私の追憶は現実を投影する。
同時に、黄色の花びらが風で靡く。
風に身を任せて揺れる蒲公英の姿は、私の知らない自然だった。
…あなたは最初から’’自分’’という価値をもっていた。
私は勘違いしてたみたいだ。
同じ孤独を味わってるんだって勝手に思って。
結局、独りなのは私だけ。
私は貴方とは違う。
こんな道草をする余裕なんてなかったのに。
これは当たり前のことを知らない私のせい。
…アリサもいっしょに居たらどうだったんだろう。
多分、花に話しかけてた。
といっても、私もさっきまで心で蒲公英に話しかけてたんだし、
私達って似たもの同士なのかな。
苛立ちを焦りで冷静さを失っていたけど、少しだけ落ち着いたような気がした。
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