漫画論2

@turugiayako

ドラえもんのシナリオを文章化してみた

4月1日、スネ夫の「四月馬鹿」に騙されたのび太とドラえもんは、渡された「宝の地図」に記された「宝の埋められた場所」で大穴を掘る。もちろん見つかるはずもなく、だまされたと気づいたのび太は「きー」と癇癪を起して地図をびりびりと破る。

ドラえもん「だから言ったろ。宝なんかあるわけないって。四月馬鹿だからな。スネ夫に騙されたんだよ」(ドラえもんから最初から気づいていたが、のび太に付き合って掘っていた)

のび太は、近くで崖を叩く老人を見つけ、自分と同じように、四月馬鹿で騙されて宝を掘っているのだと誤解する。ドラえもんもそう思い込む。

 ドラえもんは老人に近づき、老人に向かって親切心から「掘っても無駄ですよ。四月馬鹿で騙されているのですよ」と言うが、老人から、宝ではなく、化石を掘っていると伝えられる。誤解を解いたドラえもんとのび太は興味を持ち、ここで化石が出るのかと老人に聞く。老人は嬉しそうに自分の勘では出るはずだと答える。のび太とドラえもんは、自分たちも化石を掘ろうとするが、出鱈目にスコップで崖を叩く二人に老人は、「貴重な化石をもし壊したらどうする」と怒る。のび太とドラえもんはその場から去るが、老人の態度に不快感を抱きながら帰宅する。

 野比家に戻った二人に、玉子が「どこに行っていたの。はやくご飯を食べちゃいなさい」という。二人は食事を始めるが、のび太はスネ夫に騙されたことが悔しいために、自分も誰かを四月馬鹿で騙したいと思い始める。箸で挟んだ魚の骨を見てあるアイデアを思いつき、ドラえもんもそれに同意する。二人は魚の骨や貝殻を庭に持っていき埋めた後、地面にタイム風呂敷を置く。埋められた骨と貝殻はたちまち数億年の時間経て、化石へと変貌。二人はその化石を掘り出し、先ほどの発掘現場へと戻る。そこでは老人がまだ発掘を続けていたが、一つも化石が出てこないので弱気になっている。再びやってきたのび太とドラえもんを見て「また邪魔しに来たのか」と不快になるが、二人がさっきそこで掘り出したものだといって見せたもの(タイム風呂敷で捏造した化石)を見て顔色を変える。

「大発見だ!」

 喜ぶ老人を見て二人は笑いながら「そんなに大発見なの?」と聞く。老人は興奮しながら「化石は、何億年も昔に埋まった生物なんだ。だから今の生き物とは全く違う姿をしているはずだが、この化石は今の魚や貝と全く変わらない。こんな化石は世界でも初だ」と喜ぶ。ドラえもんは思わず笑いながら「そりゃそうでしょ。だって昼ご飯のおかず……」と思わず真相を語ろうとするが、同じく笑っているのび太に制止される。

「わしも負けてられんぞお」と張り切りながら発掘を続ける老人をあとに残して去りながら、のび太とドラえもんは爆笑し、もっとだましてやりたくなる。

 のび太はゴミ捨て場で蝙蝠傘を拾う。ドラえもんは苦笑しながら「さすがにばれるよ」と指摘するが、のび太は「ばれたところで、四月馬鹿だと明かして大笑いさせる」と語り、ドラえもんもそれに乗り、「何でもかんでも化石にしちゃえ」と言いながらごみを先ほどと同じように化石へと変える。

 再び二人が発掘現場に着くと、老人の姿はなかった。二人が構わずに即席化石を老人が掘っていた場所に埋めていると、老人が女性を一人連れて戻ってきた。彼女は老人の娘であることを告げ、化石を見つけてくれたのび太とドラえもんに感謝する。老人は若いころ古生物学者になりたかったが、いろいろな事情でそれが叶わず、年を取ってやっと好きな研究に打ち込めるようになっただと。だからこそ、今日の発見がうれしいのだと二人に言う。

 自分たちが付いた嘘の残酷さに今更気づいたのび太とドラえもん。のび太は「早く打ち明けて謝れよ」とドラえもんに言うが、ドラえもんも「君が謝れ」とお互いに押し付けあう。発掘を手伝う娘の後ろに立って、二人で一緒にいようとしたところで、老人が「また化石を見つけた」と歓声を上げる。

 老人は、リンゴの芯の化石を娘に見せて「リンゴは外国から近代になって入ってきた植物だ。だけどこの化石は、古代の日本にリンゴの木が生えていたことを示している。大発見だ!」と興奮して語り、娘も喜ぶが、それがゴミ捨て場で拾ったリンゴの芯をタイム風呂敷で化石に変えたものに過ぎないことを知っているのび太とドラえもんは、泣きそうになる。老人はさらに、二人によって捏造された化石を次々と見せてゆく。こうもり傘の化石化したものを「始祖鳥以前に生きていた、現在の蝙蝠そっくりの新種の生物」、缶ジュースの空き缶の化石を「オウム貝の一種」、ほうきの化石を「巨大なウミユリだ」と語り、のび太たちの必死の説明も耳に入らない状態で、「これを発表したら、世界の古生物学会はひっくり返るぞ!」と喜びのあまり泣き出し、娘も「良かったわね。お父さん。本当によかったわね」といい、親子で抱き合いながら泣き出す。のび太とドラえもんはついにいたたまれなくなり、「聞いてよ」と大声を出したので、親子はひっくり返る。

 二人から「真相」を伝えられて、老人はショックを受ける。タイム風呂敷を使って、自分が発見したと信じていた化石が元のゴミ捨て場のゴミへと戻った姿を見た老人は、失望のあまり、座り込む。娘は「しっかりして」と言いながら、父親を慰めようとする。のび太とドラえもんはこっそりとその場を去ろうとするが、タイム風呂敷から出てきた小さな生き物を老人は見つけ、手に取る。生き物は三葉虫だった。驚いた老人は、こっそり立ち去ろうとするのび太とドラえもんに「待ってくれ」と声をかける。怒られると思い込み、「許して」と叫んで平身低頭する二人に、老人は握りしめた三葉虫を見せて「君たち、これをどうやって作った?」と聞く。

ドラえもん「そんなの、作れるわけがないでしょ」と答える。

娘「ということは……」←何かに気づく

老人「本物の化石が、タイム風呂敷によって復元されたんだ!」←失望から一転、元気が戻った様子。

老人「しかも、こんな形の三葉虫は見たことがない! これは新種だよ!」

 今度こそ、本当の大発見をしたことに喜ぶ老人、娘、それを見てのび太とドラえもんも、自分たちの行動が結果的に本当の大発見につながったことを知り喜ぶ

 ラスト、のび太とドラえもんは笑いながら、道であったスネ夫(傍らにジャイアン)に

「宝の地図をありがとう。素敵な宝物が見つかったよ」と声をかける。

 言われた言葉の意味が分からないスネ夫の吹き出しに「?」マーク。(終わり)


 以上に書いたのは、「ドラえもん」の一エピソード「化石大発見」の筋書きの文章化である。こうして書いてみて改めて気づいたが、わずか10ページの枚数の中に、高い密度の感情の流れが込められている。ドラえもん、恐るべし。

 このエピソードの特徴は、感情の「転調」の多さだ。騙されたことを知ったのび太とドラえもんが、化石を掘る老人と出会い、彼に一度は反感を覚える。その反感が、老人を騙す行為へとつながる。騙したことで高まった二人のテンションは、老人の娘の登場と、彼女の語りによって老人への印象が「感じの悪い爺」から「若いころに叶わなかった夢を追う人」へと変わることで、一気にネガティブな方向=「老人を騙した罪悪感」へと転調する。そして、老人が化石だと思い込んだゴミ捨て場のゴミが提示される段階で、読者の笑いをつかむと同時に、のび太とドラえもん二人の焦りの進行を示す。二人が老人に真実を明かし、後味の悪い幕切れを迎えるかに思えたタイミングで、タイム風呂敷から登場した三葉虫が、再び状況をがらりと変える。のび太とドラえもんのいたずら「四月馬鹿」が、結果的に老人の夢をかなえた。それは物語のスタート時点から見るならば、スネ夫がのび太に仕掛けた「四月馬鹿」によってもたらされたものだ。のび太を騙した「宝の地図」が本当の宝=「老人の夢の成就」をもたらしたのである。この複雑な因果関係の連鎖を、わずか10ページ足らずで分かりやすく展開した手際こそ、藤子F不二雄の天才性を物語っている。

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