第20話 茨姫と剣の王

「影王の剣」の主となるべく、呼ばれた影王の血を引く男は、流斗たちといくつも違っていないように見えた。


 


「意思のある無機物」の所有者になる方法は、いくつもあるが、ここでは、その物と「対話」を行う。


それは、多くの場合、「意思のある無機物」が作り出した精神世界で行われる。


 


時間は。


外で見つめる流斗たちには、ほんの数十秒にしか感じられなかった。


 


連れてこられた影王の子孫は、ずっとにやにやと笑い続けていた。「影王の剣」が作り出した精神世界がどんなものかは、わからないが、さぞかし楽しいものだったのだろう。


 


彼はその楽しそうな表情のまま、身体を、折り曲げると、自分自身のイチモツを自分の口に咥えたのた。


げっ・・・


 


見たくもない見世物に、魔人の末裔も槐の精鋭も、変な声を出した。


バキっ!


 


静まり返った決闘場にかわいたものが、折れる音がした。


 


「うごごごごっ!」


そこに至って男は、はじめて悲鳴をあげた。正確にはあげかけたのだが、口いっぱいに怒張したそれをほうばっていては、声もでるものではない。


 


男の体はさらに、丸まり、体の各所で骨が折れ、関節の外れる音がした。


呼吸もままならないのだろう。


顔が紫色に変色していく。


 


「ぐげけげげっ」


 


男の口元から、目から鼻から、白濁した液体が溢れた。


ごぼごぼ、という音が喉元から響いた。


 


影王の子孫が、自分の精液で溺れ死ぬまで、10分以上かかった。


 


 


「似たようなものだな。」


海堂が答える。


「1人は剣で自分で自分を解体し、もう1人は、自分の体内から出現した剣に、切り裂かれた。」


 


「しゃしゅがっ! きゃげおうのつるぎだわぁ。」


水琴が、空のカップを差し出したので、流斗は、オカワリをついでやる。


お酒はちょっぴり、大半は水だ。


「おにょれがふようとはんだんしたものには、かくもようしゃないのじゃ。」


 


「なんだ、その目は?」


海堂に言われて、ああ、すいません、と、流斗は謝った。


知らず知らずのうちに、「困った人」を見る目で、水琴を見つめていたのである。


 


「これじゃ、いくらでも犠牲は出ますよ。」


流斗は言った。


「剣が承継者として認める資格が、なんだかわからないんですから。」


 


 


「きゃまわん。」


気高い伯爵令嬢は、芳しくも酒臭い息をはきながら言った。


「こんにょは、わらしがでるじゃ。むにやにでも、けいしょーしゃと、みとめさせれやる。


ちからで、くっぷくさせるというほうほうもあるんじゃぞ。」


 


「しかし、そうすると、また影王教団の言ってることが、気になりますね。」


転校生は(もはや只者ではないことを隠そうともせず)言った。


 


「どういう」すわった目で、少年を睨みつけながら水琴はかみついた。「意味じゃ。」


 


「正規なやり方での所有者認定で、なければ『剣』の好き嫌いが、もろに反映されるってことですよ。元の所有者が、『影王』なら、あなた方に無理やり所有されるのを是としないかもしれない。」


「残念ながら、無理にでも承継者として認めさせる。意思のある無機物の主となるには、力で相手を屈服される方法もある。」


さっき、茨姫がいったのと同じことを、こちらは明瞭な発音で言い切った。


 

海堂は、少し姿勢を正して言った。それまでの正座をくずさず、黙々と酒を口に運んでいたのだが。


「俺と・・・・・姫にはそれだけの力がある。そう自負している。」

 


流斗は、諦めたようにため息をついた。


「まあ、こればっかりは、やってみないとわからないので、やるまえから、否定はしません。でもそれはそれで、当たり前の継承よりは、著しく困難になることは、間違いないでしょう?


それに、影王教団の出方も気になります。デュエルの勝敗にかかわらず、力ずくで剣をものにしようとするかもしれません。」


 


「ふじゃけるにゃああっ」


伯爵令嬢は、手足をばたばたさせて叫んだ。大変、かわいらしい。


「そんな無法が許されるわけがないじゃろっ!」


 


「向こうも、随分と犠牲を出してしまいました。掛け金のベットが釣り上がるほどに、選択の自由は狭められるものですよ。


なにより、あなた自身が、今回それをやろうとしましたからね。」


 


むう、と言って水琴は、押し黙った。


 


「なにか、案はあるか、転校生?」


海堂がゆっくりときいた。


 


「なるべく、時間を稼いでください。欲しいのは情報です。アレが後継者になにを求めているのかを、判別しないことには、死体が増えるばかりです。」


 

 


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光華諸学院奇譚 此寺 美津己 @kululu234

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