終章

 総代会のバタバタは収まり、新たに神楽保存会が立ち上げられ、地元の小学校、中学校も協力して、神楽を保存していこうということになった。

オレと三國さんは笛を、松崎さんと長谷川さんという人が太鼓を、穂高と辰哉くんが舞を、子供たちに教えた。


今年はいつになく、賑やかな秋祭りになった。


 神輿渡御から戻り、装束に着替えて境内に出ると、神楽殿の前で相澤さんが腕組みして舞台を眺めていた。

オレに気が付いた相澤さんが、

「穂高は?」

と聞いた。

「装束に着替えながら、集中してる」

頷いた相澤さんが微笑んだ。

「どうなる事かと思ったけど、お前も穂高も戻ってくれて、こうして祭りが出来て良かった。ありがとな」

オレは首を振った。

「こっちこそ、色々動いてくれてありがとう」

今度は相澤さんが首を振った。

「俺はよ、先代から受け継いだ総代を、穂高に引き継ぐまで、そのまま何も変わることなく守らなきゃなんねぇって思ってた。でも、違うな。守らなきゃならないもの、変えていかなきゃいけないもの、それを見極めていかなきゃ、時代にそぐわなくなりすたれていく。ピンチはチャンスって言うけど、その通りだ。繋げる為に変えるチャンスをもらったよ。見ろ、次に繋がっていってる」

三國さんが、教えていた中学生の女の子2人と舞台に出て来て、オレたちに嬉しそうに手を振った。

「お前も支度にかかれ」

オレは頷いて、その場を離れた。


 神楽殿の裏で、装束に着替えた穂高が舞の確認をしている。

まるであの日のように。

オレに気付いたヤツが、左手を上げて組紐を見せて笑った。

「緊張してる?」

「ちょっとね」

ヤツの眼が、オレを見つめた。

「でも大丈夫。フレッドのおまじないと……」

穂高の左手が、俺の右手をしっかりと握った。

オレはその手を見つめてから、顔を上げた。

穂高が優しく笑っていた。

「お前がいるから」


松崎さんの合図の太鼓が聞こえる。

そろそろ神楽が始まる。

「さあ、いこうか」


オレたちは一緒に、一歩を踏み出した。


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【完結】草木萠動〈そうもくめばえいずる〉 じーく @Siegfried1111

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