最終話 四月二日の告白



 サユのマンションは知っている。でも、どこの部屋なのかは知らない。


 川沿いのマンションだ。あそこまでに追いつかないと。


 走る。全力で走る。追いつくために。


 このまま追いつかなければ、もう会えないような気がする。だから、今日に会わなければいけないんだ。


 今なんだ。今じゃなきゃ、もう今までの僕らではいられなくなる。


 僕はそんなの嫌だ。何が嫌なのか、それは上手く言葉にできないが、とにかく嫌なんだ。


 僕は、僕は、ともかく今すぐ会いたい。


 走る。全力で走る。君を見つけるために。


 必死で走り、川沿いの道へ出る。夕陽に反射した川の水が眩しい。思わず目を細めてしまう。


 視界が悪い中で見つけた。君の後ろ姿を。


「サユっ!!」


 僕は叫ぶ。大きな声で叫ぶ。


「サユっ!!」


 君が気がつくように大きな声で叫んだ。


 僕の声で君は振り返る。涙で赤くなった目元に驚いて固まった表情。僕がこんな顔にさせてしまったのか。


 僕はサユに追いつくと、そのまま抱きしめた。


「ごめん、ごめん!」


 僕は何をしているのだろう。何を口走っているのだろう。ちゃんと話さなければいけないのに。きちんと君に伝えなければいけないのに。僕は感情が昂っているのだろう。


「……ケン……ゾウ」


 君の声が聞こえてきて、ようやく僕は君を離した。少しは頭が冴えてきた。


「いきなりごめん」

「ううん。大丈夫」


 戸惑ったような表情に僕は何を言うのか考える。そんな考えている時間も君は待ってくれて、じっと黙っていた。


「……サユ。ごめん。嘘を吐いて」


 伝えるべきことを頭に浮かべているはずなのに言葉は上手く出てこない。


「昨日はエイプリルフールで、だから嘘を吐いて、でも許されるんだ」

「う、うん?」


 僕の言葉に君は首をわずかに傾けた。


「エイプリルフールの嘘は許される。それでエイプリルフールは終わった」


 伝えたいことが上手く言えない。伝えたいのはもっと単純なんだ。


「だから、僕と君の罰は許される」


 僕と君は間違いを犯した。僕たちは罰を受けているんだ。そう思っていたけど、そうではない。


「僕たちの嘘は許されるんだよ」


 だから……。


「僕は君が好きだ。もう泣かせたくない」


 君はとぼけたような表情して、徐々に耳を赤くさせた。


「……わ、私も好き。ずっと好きだった」


 言っていることはめちゃくちゃだったかもしれない。それでも伝えたいことは伝わったのかもしれない。


 四月一日の嘘。一年で唯一嘘が許される日。しかし、嘘も大概だった。


 嘘が連れてきた存在を僕は大切にしたい。

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四月一日の嘘 永川ひと @petan344421

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