第10話
私には意図的にと無意識に頭の中から消し去っている記憶がある。それらは「思い出したく無い記憶」である。防衛反応とでもいうのだろう。
しかしそれらの記憶がフラッシュバッグという形で思い出す。私は「思い出したく無い記憶」の事を『パンドラの箱』と呼んでいる。
『パンドラの箱』はここ最近いとも簡単に開いてしまう。フラッシュバックや夢という形で…。
『パンドラの箱』が開くのは起きていようが寝ていようが関係無い。そして突然開く。
そうなるとどうなるか?
精神的、身体的に支障をきたす。
身体的には酷い頭痛、過呼吸、意識の混濁などである。精神的には、余りにも思い出したくなかった記憶のせいで主人格がいきなり消え日常生活がおくれなくなる。
食べることも寝ることなども出来なくなる。そして
記憶が無くなる。
流石に若い頃とは違い自傷行動はしなくなったが…。多分それすらも出来ないくらい追い詰められる。
それがここ最近の私である。
かろうじて仕事だけは出来る。言い換えれば仕事しか出来ない。それ以外はほぼ日常生活が送れない。
ここに書き込んでいるのも記憶がある時だけである。主治医からは「本格的な治療が必要だから入院して欲しい」と勧められている。
しかし私には簡単に入院出来ない理由がある。
その一つに家族が関係している。
私は家族にほとんど障害の事を話さない。話せない。家族の中で私の抱えている障害はほぼ無かった事にされているからだ。もちろん話題にするのはタブーだ。家族の中で私は腫れ物扱いである。
世の中には無かった事にされているモノがたくさんあるだろう。タブーとされているモノもある。
ほんの少しだけでも話題にしてはいけない事がある。暗黙の了解のような形で…。
そして誰にだって『パンドラの箱』は存在するであろう。私みたいに開いてしまうか、一生開かないままか…。でも『パンドラの箱』は些細な事で開く。
誰にも言えない記憶は誰にだってあると思うから。
障害を抱える少し前から私の世界はブラックに限りなく近いグレーである。色鮮やかだった世界の事はもうとっくに忘れてしまった。
どんな世界だったろうか…?
目の前に広がるブラックに限りなく近いグレーの世界で今日も私は生きている。
限りなくブラックに近いグレーな世界 立花万葉 @sumire303
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