第2話 うなぎが食べたい…とか

「全身にがんが転移しているんだ」

「はぁ?」

「来週から入院するから、三人で夜うなぎを食べにいかないか」

「え...じゃあ、出前にしようか」

「そうだな...」

父は同意した。

”私は最後の最後まで、「お父さん、ありがとう」という言葉を

本人の前で言えない親不孝な人間だと思う"

世間は、SNS上に学生達の卒業ショート動画で溢れかえっていた。

そんな季節の日だった。


「ピンポーン」

「特上うなぎになります♪」

2階にいる私にまで響いてきた。


いつも安い寿司ばかり頼んでいるせいか、お祝い事かと勘違いされているのか、どちらかは分からないが、あまりいい気持ちにはなれなかった。


下を向いて黙々と食べる自分。母はいつものようにたわいもない話を父にしている。何も変わらない。いつものように。


自分が食べ終わったタイミングを見計らって、父が口を開いた。

「あとは二人仲良く暮らしてくれ」

「いや、まだ死ぬわけじゃないだろう」

と私は口にした。

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父ががんになりました。相談する人いないのでエッセイにしました。 杉浦 万葉 @hagi54585

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