第1章「ヒキサキ女」瀬戸翔一郎編
其ノ壱
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西町城址公園の怪談知ってるか?
公園内に封鎖された公衆トイレがあるんだけどさ
そこの女子トイレの鏡の前に深夜2時丁度に立つと、背後から女の声が聞こえてくるんだって
「ドコ・・・ドコナノ・・・?」
その質問には必ず答えないといけないらしい
もし、適当に返事をしたり、逃げたりすると…
”顔の皮を引き裂かれて殺される”らしいぜ
マジな話、城址公園で猟奇殺人が何件かあってさ
その事件も、殺された奴の顔の皮が剥ぎ取られてたんだって
これが、公園内で何かを探す女の幽霊「ヒキサキ女」の噂
いいか、夜は絶対城址公園に近づくな
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「これが、ヒキサキ女の怪談です。夜になったら城址公園に立ち寄るな、という教訓が込められている、にしては残酷な内容です」
朱沢さんの説明の後、番場さんが思い出したように言った。
「城址公園の殺人事件、確か5件じゃなかったか?顔の皮が剥ぎ取られてたってやつ」
「えっ、5件全部ですか!?」
一色さんが声を上げる。
「ああ、全部手口が同じだったってよ。一番初めは、確か…3年前だ。犯人はもう捕まったらしいけどな」
「じゃあ、殺人犯の幽霊ってことですか…?」
「捕まったのは一件目の犯人だけ。その後の4件は模倣犯じゃないかって、新聞で見た気がします」
黒須さんがそう補足した。
つまり、怪異が4件の殺人事件を引き起こしたという事になる。しかしそんな事があり得るのか。とはいえ、自分は既にツクヨミ様とやらを目撃し、更には不可解な痣のお土産まであるのだ。怪異という存在に対して懐疑的になる事自体が間違っているのかもしれない。
「怪異というものは、現世に何らかの未練や、恨み、強い感情を残した者の末路です。怪異には必ず、いわくがあるのです。ツクヨミ様は、ヒキサキ女を倒すように皆さんにアソビを科した。怪異を倒すには、まず怪異の生み出されたきっかけ、つまりいわくを知る必要があるでしょうね」
「まあ、普通に考えれば…殺された被害者の幽霊が復讐してるとか?ていうか朱沢さん、何でこんなに心霊系に詳しいんですか!?」
一色さんが朱沢さんに疑うような目を向けた。
「まあ、郷土史家というのは肩書だけでして。実際の仕事の多くは研究より、もっぱらオカルト雑誌に都市伝説や怪談のコラムを寄稿する事なんです…。ツクヨミアソビを調べていたのも、オカルト雑誌の来月号に掲載するコラムのネタにするためでして…」
朱沢さんは苦笑した。郷土史家の研究だけでは、生活は出来ないという事なのだろう。
何やかんや話し込んでいれば、いつの間にか時刻は午前2時を回っていた。
「いずれにせよ、今日の調査は難しそうですね。そのヒキサキ女が、午前二時丁度に現れると仮定するならですが…。まずは事件の概要だけでも調べて、明日城址公園を調査してみませんか?」
自分の提案には三人とも納得したようで、明日の夜に朱沢さんの家に一旦集合する形となった。
「それでは、また明日よろしくお願いします。呪いの痣で死んでなければ、ですけど」
別れ際、黒須さんがいたずらっぽく笑った。
ツクヨミアソビ 百川アキセ @akise_momokawa
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