鈍色の祭典
電咲響子
鈍色の祭典
△▼1△▼
「よお、例のもんは出来てるかい?」
こいつからは
「ああ。きっちり調整済みだ」
「へえ! 機械音痴の俺からすりゃ、なんもわからん。が、まさか
「
私は客の要望に
「……なあ。
「
「ちっ。相変わらず素っ気ねえな」
札束と腐臭をぶちまけて
△▼2△▼
椅子に腰かけ、瞳を閉じ、ゆっくりと思考を巡らせる。
私、いや、私たちが
それが権力者どもには気に入らなかったのだろう。
されど私の目的を果たすにおいて
「よっ。いい
心臓が跳ねた。
突然の来客に対する備えは充分にしているが、あまりにもタイミングが悪すぎた。
「せめてノックぐらいしろよ」
「すまん、こんなに驚くとは」
情報屋のリクドは謝罪の弁を述べる。
「鍵がかかってなかったんで、つい入っちまった。だが
「こいつを創るためだ」
私の指が示した先には
「新作か?」
「新作だ。が、新作じゃない、とも言える」
「そうかい。よくわからんが、ま、それはどうでもいい。俺がこんな僻地まで足を運んだのは、当然ながら商売のためだ」
「また
「いや、今回は違う。こないだまで
リクドが一枚の紙片を渡してきた。
「なるほど…… 実に興味深い情報だ」
「ふう。あんたの働きっぷりからして、たんまりカネ持ってるもんだと思ってたんだがなあ。ま、ちょっとばかりサービスしてやるさ。いつもの半値でどうだ」
「……考えておくよ」
「お! 肯定と受け取っていいのかな? ま、腹決まったら連絡よろしく」
△▼3△▼
その紙に書かれていた文言は断片的なものだった。
私の命を狙う者がいる。その動機は、かつて私に
例の件、か。
奴らの
だから私は依頼を受けたのだ。
効率よくカネを稼ぐためには、すべての依頼を
「ご主人様」
E-0614が話しかけてくる。
「ご主人様、あの方はどのような」
「ただのケチな情報屋だ。気にするな」
「ご主人様」
E-0614が話しかけてくる。
「私はあの方に
「当然だ。
「ご主人様」
E-0614が話しかけてくる。
「ご主人様。あなたは私を創るために多額の金銭を用いたと、先ほど聞きました。それはいったい」
「なるほど。
「ご主人様……」
私はリクドに連絡し、
△▼4△▼
先手必勝。
連中が集まる場所を知り、時刻を知り、武装を知った私は、戦地に向かうための行動を迅速に開始した。
「アヤ、きみの出番だ」
「はい、ご主人様」
私は
「いつにも増して厳しい仕事となるだろう。敵の数は膨大だ。基部を
「はい、ご主人様」
その直後、激しくひび割れた
「私も
E-0614の言が飛んできた。
「お前は私の日常生活をサポートする存在だ。そのために創った」
「私も戦えます!」
「確かに戦闘機能は持っている。だが、アヤとは用途そのものが違う。わかってくれ」
「…………」
「さあ。往こうか、アヤ」
「はい。ご主人様」
△▼5△▼
私の
「貴様がどれだけ
今現在、私とアヤに急襲された集団の
かつて、私とリタに組織の頭を
「それがどうした」
私は煽り返す。
「それがどうした。わざわざ
「ふん」
キグスが煽り返す。
「地下街において、殺し屋の命はとても軽い。使い捨てありきの存在だ。それゆえ、長らく生き残っている奴らは全員例外なく擬態している。そう。貴様のようにな」
「…………」
その通りだ。私は殺し屋の
「それがどうした。数分も
私がそう言い終わるや否や、眼前に展開されていた予想内の戦力に加え、新たな予想外の戦力がぞろぞろと姿を現した。
「ふん。こればかりは例の情報屋も知らなかったらしい」
「だが。そいつらは全部
「ほう。ならば物量で
「さあ。
△▼6△▼
ひどい光景だ。
それは他の誰でもない、私とアヤが完遂せし
「ご主人様」
もはや修復不可能なまでに損壊し、それでもなお
「ご主人様。状況は」
「よくやった。それだけだ」
「はい。そして私が負った傷は修復不可能。そういうことですね」
「その通り。そして私は次のきみを創る。何か不満が?」
「ありません、ご主人様」
「そうか」
そうか。そうなのだな――
だから私はE-0614を創ったのだろう。
△▼XX△▼
私は覚えている。私が創った機械によって死んだ人間たちの悲痛な最期を。
私は覚えている。彼らの断末魔の悲鳴を。
私は覚えている。自分自身が
そして今、地獄に堕ちる
△▼7△▼
!!ガガンッ!!
未明。静
私は狂った
「なにが目的だ!」
と叫ぶ。
「おおおお…… てめえの言動、ずっと気に食わなかったァ! そんでもって、てめえのその
例の
例の
「――なるほど。お前は私の
「ぎゃはは! んの通り! どうせなんかやった後だろ? すっかり弱り切っちゃって、
この感じ。
どうやら、ヘヴィな
そもそも鍵などなく常時開いている扉を壊す行動自体が異常だ。
「死ねェ!」
奴が私の
「ご主人様!」
E-0614が私と奴の間に飛び込んできた。
△▼8△▼
E-0614の腕から
「ああ、ご主人様…… 護りきれませんでした……」
奴が放った散弾の一部が、E-0614のガードをすり抜け私を貫いたのだろう。
あふれ出た血液が白い床に広がってゆく。
「今すぐ治療を開始します。心身の安静を保ってください」
「いや、その必要はない」
「あなたの日常生活をサポートするのは私の役目です」
「お前にもわかっているはずだ。もはや手遅れだということが」
「…………」
予感はあった。そろそろ終わりだな、という予感。
だが、それが訪れる前に
悔いはない。
私は最後の気力を振り絞って立ち上がり、自室に向かって歩き始めた。
△▼9△▼
愛用の安楽椅子に横たわり、
「ご主人様…… なぜ、どうして、私に名前をつけてくださらなかったのですか」
「名前ならあるだろう。E-0614という名前が」
「それは製造番号にすぎません! だって他の機械はすべて名付けられていた!」
「そうか」
「この間の戦闘で破壊された機械にも、"アヤ"という立派な名前がありました!」
「そうか」
「あ。……申し訳ありません、ご主人様。傷病
そうか。
「どうやら、私は、成功したようだ…… ごほっ!」
「ご主人様!」
「き、機械に……
「ご主人様!」
「E-0614は、製造番号などでは、ない…… 私の、私の大切な――」
「ご主人様! ご主人様!?」
「…………………………………………」
「カエデ様!!」
△▼△▼
私は私の創造主の
見上げれば漆黒の夜空に満点の月。星々とは比ぶべくもない妖艶な輝きが、
ああ。
頬を伝う水滴が、ぽとり。
<了>
鈍色の祭典 電咲響子 @kyokodenzaki
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