夢の中なら
ガタンゴトンと電車が揺れる。
はしゃぎ過ぎて疲れた体。炎天下の中で削られた体力。冷房の効いた車内。
窓に映った横並びの私たちには、もはや喋る元気はない。
今日は楽しかった。
みんなで行きたかった遊園地。暑いし、人は多いし、待ち時間は長いし。
けれど、それは些細なことだ。
恨めしそうに太陽を君を睨む君。
ショーで濡れた髪をかきあげる君。
アイスを早食いして頭を押さえる君。
新しい君を見つけて、その度に嬉しくなって。こっそり君を見ていたなんて、君は気付きもしないんだろう。
最後に行ったお土産屋さん。
人混みの中、みんなと逸れないように後を追っていると、不意に肩を叩かれた。振り返ると嬉しそうな君の顔が。
「こっち」と手招きする君の後を少しドキドキしながら着いて行く。すると私の好きなキャラクターのぬいぐるみが並んでいた。
実はすでに持っている。今も枕元で私の帰りを待っているはず。
『もう、同じやつ買ってきて……』
お母さんに見つかったら、そうやって呆れられるんだろう。
でも、君が私の好きな物を覚えてくれていた。
その事実が何よりも嬉しくて。
ガタンゴトンと電車が揺れる。
今もなお私の膝を占領するビニールの袋。そこから君が見つけてくれたぬいぐるみが顔を覗かせる。
この子の目には私たちはどう映っているんだろう。
隣から聞こえる静かな寝息。じんわり伝わる体温。肩に感じる重み。ふわりと香る優しい匂い。
君は私の肩で寝ていた。
他の人のなら電車で何度も目にしてきた。見かけるたびに妄想の世界に入って、隣に君を思い描いて、勝手に諦めて。
まさか現実で起こるなんて思いもしなかった。
隣も、その隣の男子も君にもたれて寝ているからだと思う。ドミノ倒し状態になった体は私に預けられる。
触れ合った部分が熱い。心臓の音がうるさい。脳みそだって、すでにキャパオーバーしていた。
自分が自分じゃなくなる感覚。もう制御なんて出来ない。
ふと寝息が聞こえた。肩を動かさないように覗き込むと無防備な寝顔が。
電車の音も車内の揺れも小さくはないのに、君は起きる様子は一切ない。
隣の人がこんなに必死になっているのに。
モヤっとした感情の後に、君の寝顔を愛おしく思う気持ちが心を埋め尽くす。
次第に全身から抜けていく力。熱かった肩の温もりが今は心地良い。
このまま私も目を瞑れば、夢の中で君に出会えるのかな。
2人で同じ夢を見て、今度はもっと積極的に慣れて、そして夢から覚めた後も私を意識するようになって……
今はまだ、君にもたれることは出来ない。
だから、せめて夢の中くらいは。
そんな願いを込めて私は静かに目を閉じた。
すいーと・あそーと 栗尾りお @kuriorio
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