タイガーアイ2
応接室に通されたデルフィーナは、深々と頭を下げた。
「皆さんのおかげで、偽聖女は捕まり、私は殺人者にならずに済みました。……ありがとうございます」
「頭を上げてくれ。俺は、ガブリエラを守りたかっただけだ」
「それでも、お礼を言わせて下さい。ダリオ様は、私が罪を犯す事を望んでいなかったでしょうから……あの方は、優しく、正義感の強い方なんです」
ダリオは、子爵としての職務が忙しいながらも、街に薬物中毒者が出る状況を憂い、独自に麻薬密売についての調査をしていたらしい。
「あの方は、本当に素敵な方です。本来なら、私のような服屋で働く平民とは釣り合わないのですが、私の事を愛しているとおっしゃって下さいました。……身分差もあって、引け目を感じていましたが……もっと、愛していると伝えれば良かった……もっと、側にいれば良かった……」
デルフィーナの目からは、涙が零れていた。
それからしばらく経ったある日の昼、ガブリエラはまたバルト邸を訪れ、庭でマティアスの両親の墓に花を供えていた。
「また花を供えてくれたのか、ありがとう」
庭に出て来たマティアスが声を掛ける。
「お礼なんていいですよ。私がしたくてしているので」
「……ところで、知ってるか?俺とお前が初めて出会ってから、丁度一年経ったんだ」
「え、そうだったんですか?……日付、覚えてなかったです」
「まあ、色々大変だったからな。……俺は、あの日お前に会えて、本当に良かったと思ってる。……それでだな」
マティアスは、スッと跪くと、ガブリエラに向けて小箱を差し出した。
「ガブリエラ・サヴィーニ、俺と結婚して下さい!」
「え……ええっ!!」
マティアスは、少し言いにくそうに言葉を続けた。
「……本当は、お前が『ジーリオ』での修行に慣れたら求婚しようと思っていたんだが……デルフィーナ嬢を見ていて、後悔しない内に伝えておこうと思って……」
マティアスの気持ちが嬉しくて、ガブリエラの目には涙が浮かんでいた。
「……これ、受け取っても?」
「ああ、もちろんだ」
ガブリエラは、震える手で小箱を受け取った。小箱を開けると、茶色い宝石の嵌った指輪が現れた。
「これは……タイガーアイ……」
「ああ。値が張る物じゃないけど、俺の目と同じ色の宝石を身に着けてもらえたら嬉しい」
「……嬉しいです。……ありがとうございます……!!」
「俺が赤い宝石の嵌った指輪を着ける事を許してくれるか?」
「もちろんです!」
ガブリエラの瞳の色は、赤だった。そして、この国では、相手に自分の瞳の色の指輪を着ける事を許すという事は、求婚を受け入れるという意味を持っていた。
「……ありがとう……」
マティアスは、そう言ってガブリエラを抱き締めた。そして、二人は微笑んだ後、唇を重ねた。
唇が離れた後も、ガブリエラはしばらくマティアスと夫婦になれる喜びを噛み締めていた。
そして一か月後、二人は小さな教会でささやかな結婚式を挙げた。神父の前での宣誓等が終わり、教会の外に出ると、リディオ、ベルナルド、プリシッラ、ロマーナ、ヨハンが口々におめでとうと言ってくれた。
そして、ガブリエラの両親が二人の元に近づいてきた。
「ガブリエラ、幸せになるのよ」
「もしバルト伯爵がお前を泣かせるような事をしたら、言いなさい。私がまっさ……注意しよう」
父親が抹殺と言いかけたのは気のせいだろう。
「ありがとう。でも、大丈夫。マティアス様は優しい方だし、困った事があれば、お父様達を始め、周りの皆様が助けて下さると信じています」
そう言ってガブリエラは青空の下、穏やかな笑顔で皆の顔を見渡していた。
悪役令嬢はヒロインに命を狙われているので、ヴァンパイアと契約します ミクラ レイコ @mikurareiko
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