9「蜂の巣駆除だ。満ち足りねェとなぁ⁈」

新宿歌舞伎町に店を構えるホストクラブ『clubクラブQsPALACEクイーンズ・パレス』。その煌びやかな店内にて、祝勝の宴が行われていた。


VIPルームの高価な革張りソファの中央に座るのは、『威虎添翼いこてんよく』のリーダーである横山よこやま馬喰ばくろ。その周囲では彼の部下達と店のホスト達が飲み騒いでいた。


「我らQsPALACEと、闇のカリスマ威虎添翼の永遠の絆を祝して!!」


マイクの音声に続いて、何度目とも知らない乾杯が行われる。キャップを深く被りヘッドホンを首にかけたラッパー風の男が叫んだ。


「おいおい、なんでこうも野郎ばっかなんだよ。美女の一人二人でも連れて来れねーのかー?気が利かないなあ」


「すみませんねライムさん。なにぶん、ここはホストクラブなもので」


隣のホストがヘラヘラ笑って言った。


「美女なら、ほらここにいるじゃない」


身なりの良いスーツ姿の青年『壬生狼ミブロ』が自身を指して言う。韻は苦笑いした。


「ミブ姉の相手は俺には荷が重ぇよ。……ん?『ニガヨモギ荷が重い』。これ韻踏んでね⁈リリック降りてきたー!」


「だからそれのどこがラップなのよ」


壬生狼ミブロは呆れ顔を浮かべた。それから何も言わず騒がず無言で飯を食べ続ける小柄な青年に声をかけた。


「クチナシちゃん、ゆっくり食べなさい。喉詰まらせるわよ」


クチナシは一瞬壬生狼ミブロを見てから、何も言わずに頷いてまた食事を続けた。


それぞれマイペースな部下に対して、横山は満足げに笑う。


「良いねェ、良いぜお前ら。周りへの配慮が足りてる壬生狼ミブロに、ユーモアが足りてるライム、食欲が足りてるクチナシ、俺は良い仲間を持った」


「そう言ってくださるのは嬉しいですけどねぇ……」


ため息を吐きつつ笑みを浮かべて、壬生狼ミブロは横山へ問う。


「みんな馬鹿みたいに盛り上がってるけど、ちゃんと分かってる子は何人いるのかしら?これから戦争が始まるってことを」


「俺とお前ぐらいだろうよ。ここにいる馬鹿どもはどいつもこいつも頭が足りてねェ」


クククッと笑いながら横山は続ける。


「ま、そう言う俺もよくは知らないんだが。『海尻組』ってのはそんなにヤバイのか?」


「ちゃんと分かってるのはあたしだけみたいね」


壬生狼ミブロはなるべく簡単な言葉を選んで説明する。


「あたし達はこれからこの国最大の犯罪組織と敵対するという、とっても新鮮な体験ができるわ」


「そいつぁ最高だ。刺激が満ち足りてる」


「……横山さんならそう言うと思ったわよ」


呆れつつ、彼の胸中に不安は無かった。例えどれだけ巨大な相手に喧嘩を売ったとしても、自分達のボスが負けるなどあり得ないという信頼があったのだ。さらに加えてなにより、血生臭い争い事は彼自身大好物でもあった。


「ま、『海尻組』のことも大事だが……今俺が気になってんのは『蜂』だ」


ハイボールを口にしつつ、横山は言う。


「今月だけで、うちの奴らが何人やられた?」


「十二人。ま、下っ端の雑兵どもですけどね。それとこのクラブのホストちゃんも何人か。例えば、あそこのレンヂちゃんとか……」


壬生狼は、顔に包帯を巻いたまま飲みはしゃぐ輝星レンヂを指した。


「雑兵といえども俺の部下だ。このクラブだって、言っちまえば俺のシマだよなぁ。それはつまり、『蜂』のやつは俺に真っ向から喧嘩を売ってきてるってことになる」


「あたし達が海尻組に対してやってるのと同じことね」


「その通りだ」


ゴキュ、ゴキュと喉を鳴らしてハイボールを一気飲みしてから、乱暴に空のグラスを置く。即座に新しいハイボールが横山の手元に置かれた。再びそれに口をつけつつ、彼は続ける。


「放ってはおけねェよなあ?海尻組とやる前に、邪魔な害虫は駆除しとかねェとなぁ。安心感が足りねェ。駄目だよな?満ち足りねェとなぁ⁈」


「仰るとおり」


静かに同意してから、壬生狼は自身の部下を呼ぶと、何やら耳打ちをした。部下は無言で頷き、部屋から出ていった。


「あたしのできる限りの伝手を使って探ってみますわ」


「ああ。俺も一つ情報源がある。当たってみるさ」


 横山はつい先ほどのシェフとの会話を思い出していた。


「有益な情報を持った『探偵』がいるらしいからな」


やがて時間は流れ、宴会はお開きとなる。朝日が登り始めた新宿の街を、ライムが一人気持ちの良い千鳥足で歩いていた。裏の細い路地を進むと、ふと彼の目の前に、進行を妨げるように立つ人物が現れた。


黒いフードで顔を隠した小柄な人物であった。ライムは少し首を傾げてから、口を開く。


「……邪魔なんだが。どいてくんね?」


「お前、『威虎添翼いこてんよく』とか言うもんだろ?」


声変わり途中の少年のような、高めのハスキーボイスであった。フードに顔を隠した少年は、さらに続ける。


「あんたに恨みはねェが……これも契約なんでなァ。悪ィが……见鬼去吧地獄に落ちろ!」


そう叫んで少年はライムへ向けて襲いかかった。


 

 




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蛇憑きコンプレックス 繭住懐古 @mayuzumikaiko

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