第8話 日曜19時放送『アイドル発見!』

 あの出来事から、数日が立った。


 「もっとここの部分の抑揚が欲しい」


 「ここの吐息が足りない」


 「テンポが少しズレてる」


 相変わらず私は、三上さんの厳しいレッスンを受けていた。


 「はい、もう一回同じところからね」


 「はい!!」


 これがいいんだ。私が望んだ道なんだ。例え、ピンク髪で卑怯だと思われようとも、私は私。どんな形でもアイドルを目指すんだ。


 絶対に大好きなアイドルに私はなるんだ!


 

 「よし、まぁ及第点かな」


 (やっぱ厳しいな三上さんは...笑)


 「遂に明日だね、『アイドル誕生!』の収録」


 「応援しているわよ」


 「はい!」


 その日は、中々寝つけられなかった。明日の『アイドル誕生!』という番組で、私の人生が大きく変わってしまうのだ。


 番組は視聴者参加型で、ポイントが高かった上位5人が勝ち残り、その参加者を事務所がスカウトするという形式だ。


 


 勝ちたいけど、違う事務所にスカウトされて入ったら、もう三上さんに会えないのかな... それは嫌だなぁ...


 「けど、そんな事言ったら三上さん怒るだろうなぁ」


 「真剣にやりなさい!!って」


 三上さんのモノマネをしてたら、自然と口角が上がっていた。


 「あ、てか前の番組で同率1位だった子も参加するのか」


 あの子もきっと沢山練習してるだろうなぁ。けど、今回は私だって他の人に負けないぐらい練習してきた。


 結果がどうなろうと、あの子とは話しておきたいな。


 「明日、会ったら話かけよっと」


 そんなことを考えていたら、勝手に眠ってしまった。



 ~『アイドル誕生!』収録当日~


 「さぁ、いってきなさい」


 「うん、行ってきます!」

 

 三上さんに背中を押されながら、スタジオに入った。目のまえには事務所のスカウトが複数人据わっていて、その両脇に一般客の人が大勢いた。そして、ステージの後ろには演奏隊の人がいた。


 ステージ横には大きな点数掲示板があった。きっと、ここでポイントを表示するのだろう。


 「では、本番まで。3、2、1!」


 番組ディレクターの一声で収録が始まる。


 「さぁ、今回もやって参りました。第16回『アイドル誕生!』」

 「一体、どんな参加者が待っているのでしょうか!?」


 「私もワクワクが止まらないです」


 男女の司会者が楽しそうに話している。


 「500点満点でポイントを競っていただきます」


 「では、エントリーナンバー1番!お願いします!」


 遂に選考が始まった。今回私の番号は20番。全部で100番まであるので、割と早めの方だった。


 遅ければ遅いほどずっと緊張が続くし、早すぎるのもなんか嫌だから、この番号は嬉しい。



 (てか、みんな歌上手すぎ...)


 もう11番まで来たけど、誰一人として歌が下手な子が居なかった。この歌唱力がゾロゾロいる昭和時代すごいな。


 つまり、歌唱力は持っているのは前提として、その中身のスター性を見られているってことか。やっぱ、アイドル全盛期で激動の時代の1980年代は違うな。


 そんな事を考えているうちに私の番があっという間に来ていた。


 「エントリーナンバー20番。宮野雫です。」


 ピンク髪での登場でスタジオが驚きの声で包まれた。だが、その声は歌い始めてからも止まることはなかった。


 私は厳しいレッスンを乗り越えたおかげで、観客やスカウトを魅了する歌唱力を身に着けることができたのだ。


 

 「宮野雫さんでした、ありがとうございました」

 「それにしても、お歌も上手ですねぇ~」


 「ありがとうございます」

 

 (やった、初めて歌で褒められちゃった)


 「それにピンク髪が凄く綺麗だ~」


 「では、点数をお願いします!」


 ドゥルルルルルルルルルルルルルルルル、 、 、 ドゥン!!


 「489点!なんと番組史上最高得点になります!」


 「え~~!!??」


 歌が上手くなったのは分かってはいたけれど、まさかここまでとは。嬉しすぎる!驚きすぎて、感情が追い付かない。


 みんなの評価として、歌が上手く、更にピンク髪でスター性やアイドルの魅力が備わっている、とのことだった。


 その後も選考は続き、もちろん私が1位で予選は終了した。だけど、あの子がいた。前の番組で同率1位だった、あの子。


 なんと475点という高得点で2位という順位だったのだ。私よりも見た目のインパクトが少ないのに、この点数... 心から凄いと思った。


 「では、スカウトよりも先にトロフィーの授与を行います」


 「5位までの方、スタジオに来てください」


 司会者に呼ばれ、スタジオへと入る。隣には2位の子がいた。スタッフの方が準備に少し戸惑っていたので、チャンスだと思い話しかけた。


 「こんにちは」


 2位の子はいきなり話しかけられ驚いていたが、すぐに挨拶を返してくれた。


 「宮野雫です、お互い頑張りましょうね!」


 「神崎明子です!頑張ります!」


 彼女は可愛い笑顔で返事をしてくれた。綺麗な黒髪で肩までの長さだった。いかにも純粋無垢って感じな子だった。本当に可愛らしかった。


 トロフィー授与を無事に終え、スカウトへと移った。神崎さんは「日音芸能事務所」という業界トップの事務所にスカウトされていた。


 そして私の番が来た。


 「最後に宮野雫さんです。スカウトしたい方はお札をお上げ下さい!」


 すると、大勢いるスカウトの札が一斉に上がった。ほぼ全員が札を上げて、私をスカウトしたいと思っている。


 (嬉しい...ようやく認められた気がした)


 本当に嬉しかった。そして、心の底から安心した。自分がしてきた努力が報われたんだ。嬉しすぎて涙がこぼれ落ちていた。


 令和時代の地下アイドルの最後列でダラダラと過ごしていた私が、ソロアイドル全盛期の時代で結果を残すことができるなんて。


 (けど、こっからだ。私の物語は始まったばっか)


 こっからどんどん有名になって、人気をつけて、昭和アイドルの頂点に立ってみせる。


 そう決心しながら前を見ると、何故かスカウト陣の中に、涙目になりながら札をあげている三上さんの姿があった。


 「なんでいるんだよ...笑」


 と、小声で呟いた。




------------------------------------

「面白かった!!」


「続きが気になる」


「今後どうなるの!?」


 と思ったら、下にある『♡応援する』を押して頂けると嬉しいです。


 また作品ページから☆レビューをして頂けたら、作品をモチベに繋がります。面白かったら星3つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで勿論大丈夫です。


 何卒よろしくお願いします。


  


 


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地下アイドルグループ最後列の私が1980年代にタイムスリップしたら、何故か昭和アイドルとして頂点に立ってしまった オカモト歩惰 @okamoto_san_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ