第13話 うどん、フォーエバー……。



 あのあと。

 クズ男、原はタイーホとなった。まあ、当然だな。変態ヤローめ。


 オレが夏実のスマホから110番したというのもある。それと同時に、ご近所さんからも通報があったらしい。ダブルの通報が、警察のスピード感を増したとのこと。ありがとう、ご近所さん! いいね!


 まあ、いろいろとあったけど、警察での夏実の聞き取りは女性警官が担当してくれたらしい。オレはついていけなかったからな。うどんだし。あとで夏実に教えてもらった話だ。


 ……夏実も、全部が全部、話してくれたワケじゃないだろうけどさ。いろいろあったはずだから。


 あ? 死んでないのかって? いや、死んでませんけど? 何か問題でも?


 ……確かに、力尽きた、みたいな感じだったかもしれない。

 でも、まあ、6割はうどんボディが残ってたし。死ぬってことはない。カラカラに乾いてしまったら、どうなるかは分からんけど、それを試すつもりはない。

 後日、夏実がまたうどんを作ってくれたし、うどんボディも今は復活してる。


 あの時、夏実はめちゃくちゃ心配してくれた。本気で泣くほど、な。叔父として嬉しい限りだ。

 で、オレが無事だと分かると、また手を洗ってたよ……ベトベトするからって。警察が来る前に。冷静に。ぐすん。


 まあ、証拠としてWEBカメラの画像も持ってかれたんだけどさ。これ、マジでヤベぇと思った。


 ……珍獣扱いで研究施設か、サーカスか、みたいな恐怖。ドキドキだった。


 でも、実際のところ、夏実がとっさにクズ男にうどんを投げ付けた、みたいな話で落ち着いたワケだ。

 ま、誰もうどんが動くとは思わんし、そんなもんかもしれない。想像できないことは真実にならないものだ。うん。中身は高校生な小学生の正体がバレないのも、そういうことだろう?


 なんでそこにうどんがあったのか、という話は、たまたまってことで。いやあ、不思議だなぁ。なんでだろう?


 夏実も、突然のことでよく分からない、覚えてないけど夢中だった、とか。そういう感じで話はおしまい。うまいよな。


 うどんがクズ男の鼻穴に刺さったのも、目に刺さったのも、おでこに巻き付いたのも、耳に巻き付いたのも、全部、ぜーんぶ、偶然でした。はい。


 ……それ以外は不思議現象だから。ありえないことだとしてもどうしようもない。夏実は強運……いや、豪運だった、ということだろう。うん。そういうことでいいはずだ。


 ちなみに、あの時、夏実はオレのことを本気で心配していた。WEBカメラで撮影できた範囲にキッチンの方は映ってなかったが、音声はバッチリで……。


 それが結果として、「ケイちゃんっ! 大丈夫っ!」とか、「ケイちゃん! ケイちゃん! ダメだよ! 死んじゃダメ!」とか、「ケイちゃんっ……お願いだから……死なないでよぅ……」という、夏実の必死な声を記録していた。


 ……まあ、うどんを心配すると思われるはずがないので。


 明らかにオレの名前を叫んでいたにもかかわらず、客観的にはあのクズ男を心配しているようにしか見えないという状況が生まれた。だから、ケイちゃんと叫んだのは夏実が混乱していたからってことになったらしい。


 夏実の言葉はクズ男を心配しての発言だと受け取られたのだ。本当はオレの心配をしてたんだよ? あのクズ男とかどうでもいいからな?


 要するに、過剰防衛になりかねない急所攻撃があったんだが、それは夏実が身を守るための夢中の行動だと判断された訳だ。

 夏実は自分を襲おうとした強姦魔でさえ思いやる聖女みたいな扱いに……いや、全力で踏み潰しにいってただろ……。


 ま、いい方に勘違いされたんなら別にいいか。


 今回の動機は、というと……元上司の強姦魔(未遂)のクズ男は、出向でオレを逆恨みしていたらしい。逆恨みでいいよな? たぶん?

 原因はハラスメント……ま、いわゆるパワハラで評価を下げて、年度末の人事異動で出向が決定した、と。しかも、子会社なのに、役員とかじゃなくて、ヒラで出ることになってたらしい。


 ……いや、全部、自業自得じゃねーか。


 懲罰人事だと思えば、クビになってないだけ、マシだろうに……。

 むしろ、オレが退職する時、事を荒立てなかったから、出向で許されたんじゃないのかな?


 ま、その温情についても、今回のタイーホでどうやら解雇になるらしい。ざまあ。夏実にエロいことをしようとしたんだ。死刑でもおかしくない。うん。


 あとは検察やら、警察やらのお仕事だ。二度とオレたちに関わってくるな、って感じ。


 ……股間? さあ? どうなったんだろうね? 興味ないけどさ。


 とりあえず、たくましく生き抜かなければならないオレとしては、小説にする新たなネタが手に入ったと思って、前を向くだけだ。






 ピーンポーン。


 穏やかなドアベルの音がしたのは、いろいろと事後処理が終わってから数日後のことだった。


 宅配便の可能性もあるので、ベッドでごろごろしていた夏実が起き上がって、玄関へと向かう。


 オレはウルトラスーパーキータッチで、小説を量産し続けるだけ。あーたたたたたたたたたたたーっっ! 必殺! うどん高速キータァァァッチッ!!


「はーい。ちょっと待ってくださーい」


 もうすっかり、夏実はここの住人だ。

 あんな事件があったので、姉さんは少し反対したらしいけどな。ここに来ることを。


 でも、オレが今、ここにいないって話になってて……そうならざるを得なかったんだけど。警察との関係で。


 ……仕事を辞めて自分探しの旅に出た、という設定が爆誕している。


 なんてドラマチックな男なんだ。オレは。

 だけどさ、ほぼほぼ勘違いヤローしか、そんなマネ、しないよな?


 どうしてこうなった?

 ま、警察をごまかすためなんだけどさ。


 オレの代わりにこの部屋を守るってことで、今は夏実がここに定住している。

 オレとしても引っ越して、二度とクズ男が近づけないようにしたいんだけど、オレが旅立ったという設定上、それも難しくて。


 とりあえず、WEB作家なんて、ネットにつながりさえすればどこでもできるってことで、いろいろとごまかしてる。


 パタパタパタっと、玄関に行っていた夏実が戻ってきた。

 ノパソから夏実の方を振り返ると、ほんの少し、夏実は不安そうな表情をしていた。


「ケイちゃん。なんか、すっごい美人の人が来てる……」


『美人……? ここを訪ねてくるような美人の知り合いは姉さんか、夏実くらいだぞ?』


「も、もう。ケイちゃんたら。相変わらず家族ラブなんだから……じゃなくて……ええと、そうじゃなくて……あのね……」


 そこで夏実はすごく真剣な顔になった。


「……なんかね。ケイちゃんがうどんになってるのは分かってる、とりあえず話がしたいから、中に入れてくれないか、だって。夏実、ちょっと、どうしたらいいか、分かんなくて……」


 ……え?


 どういうことだ?


 オレがうどんになってることは分かってる、だって?


 ……なんでバレた? バレる要素はなかったはず。


 その美人は、いったい……。






 こうして、オレと夏実の物語は、新たな局面を迎えようとしていたのだった。




















――――

 あとがき、失礼します。

 作者の相生蒼尉です。


 この『うどん転生』は、ドラノベ――「第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト」への応募作品です。

 中編部門(2万字から6万字)ですから、ここで一度、完結とします。



 読んで、少しでも面白い、と思ったなら、下(↓)に評価できるところがありますから、☆やフォローでの応援、よろしくお願いします。

 あくまでも、面白いと思ったら、ですよ?






 また、明日より『突然の クラス転移に 物申す 神様お願い ちょっと戻して ~準備のいい僕と、カンのいいあの子の、ちょいラブ異世界生活~』の連載を再開いたします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330659817029104


 ぜひともご一読、よろしくお願いします!


 相生でした。





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うどんに転生したオレは触手的な才能でこの世界を生き抜く ~うどん転生からの現代生活(ほぼ不可能)~ 相生蒼尉 @1411430

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