第12話 夏実を泣かせるつもりは……なかったんだ……。
元上司からただの強姦魔(未遂)へと大幅にランクダウンした原力也というクズ男。
そんなクズ男の原が夏実の肩を掴もうと手を伸ばしたタイミングで。
夏実はそのクズ男の手から逃れようとして、机の隣のベッドへと身体を動かそうとした、まさにその瞬間。
オレはこれまで鍛錬を重ねてきたうどんトルネードジャンプで跳んだ! ここが今までの成果を出す時だ!
行くぜ! レッツファイティング!
――だが、うどんボディの高さはクズの顔面あたりまで上がったものの、その位置が悪かった。ズレていたのだ。クズ男の顔面からは距離があった。
……なんの! まだまだ! こんなところで終わらんぜよ⁉
オレはジャンプの頂点に到達する直前に、2本のうどんをクズ男の顔面……というか、その耳へと伸ばした。
イカの触腕をイメージしてこれまでやってきたことがここで活きた! まるで活イカだ!
クズ男の耳を掴んで、そのままうどんボディをクズ男の顔面へと引き寄せる!
「なん……」
何かを言おうとしたクズ男、原の言葉は途中で止まった。
刮目して見よ!
これまで史上最速のキータッチで積み重ねたこのうどんWEB作家の力を!
……とはいえ、パワーはほぼゼロだ。見せられるほどの力はそもそもなかったな、うん。
だから、狙いは目!
喰らえ! って……いや、食べられたくはないけどさ。ま、いい。
喰らえ! うどん、百裂触っ!
……解説しよう。『うどん百裂触』とは、とあるバイオレンスな作品をオマージュしたうどんの必殺技である。パワー不足を補うために、人体の急所となる可能性が高い部位に触れ、そこにうどん成分を付着させる。うどん成分を塗り付けるように付着させることで、敵の行動を阻害するデバフ効果のような何かを与えるのだ。今回の場合は眼球に付着させることで、視界を奪うことを目的としている。
あーたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたっ! ほわちゃあーっっっ!
オレはWEB小説を書く時と同じように、あの、高速キータッチと同じか、それ以上のペースでクズの眼球にうどん成分を付着させていく。さらに――。
ずぼっ、ずこっ、ぷつぷつっ!
「んがっ……ごほっ……」
――さらには眼球だけでなく、鼻の穴にもうどんの先を侵入させて、かなり奥の方でうどんの一部を切り離す。呼吸器の一部を奪われてエロいことなどできるとでも?
こんなクズ男、窒息とか、失明とかしたって知るもんか!
「ぐえっ……」
クズ男、原の口がぽっかりと開く。鼻呼吸を失ったらそうなるよな!
そこでうどん百裂触はクズ男の口の中へと侵入し、クズ男ののどちん〇に、左右からフックの連打をお見舞いした!
「がくぅふぁっ……ぶふっ……」
夏実に襲いかかろうとして前かがみになっていたクズ男は、苦しそうに目を閉じ、片手で鼻を押さえつつ、後ろへとのけぞった。
今だっ! ここが勝負の時っ!
オレは耳だけでなく頭の上の方、おでこのあたりにぐるぐると巻き付いて、さらには別のうどん触腕を伸ばし、キッチン側で掴むことができる部分をぐいっと掴んだ。
うおおおおおおおおおっっっっ! 夏実は、オレが! 守るんだっっ!!
うどんボディのどこかが、ぷつ、ぷつ、と千切れるような音がする。だが、オレは全力でクズ男の頭をキッチン側、つまり、クズの背中側へと引っ張った。
クズ男が自分でのけぞった分の勢いもあったので、そのままクズ男はキッチン側へと倒れていく。頭部は人体でもっとも重いのだ。そこのバランスを崩せばイケると思ってたぜ!
どっしーん! ごんっ……。
背中から倒れて、そこからさらに後頭部を床で強打したクズ男。てこの原理っぽい勢いで打った後頭部のダメージはかなりデカいはず! うどんボディそのもののパワーは足りないが、だからこそそれ以外で打撃を与えるのだ!
まだまだ! ここからだ!
びっくりした顔でこっちを見ている夏実。
その夏実にオレはうどんの全身でアピールする。
ぐるりと束にして何本もまとめたうどんを大きく振り上げて、大きく振り下ろす。まるでまき割りのような動きを数回繰り返して、クズ男の股間を夏実に指し示す!
はっとした顔になる夏実。よし、気づいたな! 行け! 夏実!
「わかった! 任せて!」
そうだ夏実! おまえにエロいことしようとしたんだ! このクズ男に思い知らせてやれ! 思いっきり踏みつけるんだ! 踏みつぶせ!
ベッドから飛び上がるようにしてキッチンへ出てきた夏実は、跳んだ……。
……え?
跳んだ? 跳んじゃった?
ということは、踏みつけるというよりも……。
夏実の全体重が乗った一撃が、クズのとある部分へ、ドンっっ、とさく裂した。
「ぐぅぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
それは。
まさに、断末魔と呼ぶにふさわしい……悲鳴だった……。
首がこてり、と傾いて、口からはよだれのようなものをたらしつつ、意識を失ったクズ男がキッチンの床に倒れている。
いくら夏実がかわいい女の子だとはいえ、その体重はおそらく50キロくらいはあるはずだ。秘密だからと教えてもらったことはないけどさ。
……いや、そこを狙えと指示をだしたのはオレなんだけどさ。まさか跳ぶとは、思わないよな? そうだよな? せいぜい踏みつけるイメージでしたよ?
うどんの身体となってすでにイチモツを失ったこの身ではあるが、これにはオレもさすがにヒュッとなってしまったのだった。
……ま、まあ、何にせよ、夏実を守れたんなら、クズ男がこの先どうなろうと知ったことではない。
「ケイちゃんっ! 大丈夫っ!」
夏実がオレに近づいて、オレのうどんボディを抱き上げる。その顔は泣きそうになっている。そんな顔をするな、夏実。
今の戦闘でオレはかなりの無理をした。
その結果として、うどんボディのおよそ4割くらいを失っていたのだ。
「ケイちゃん! ケイちゃん! ダメだよ! 死んじゃダメ!」
夏実がぎゅっと、オレのうどんボディを握る。
「ケイちゃんっ……お願いだから……死なないでよぅ……」
ついに夏実は泣き出してしまった。
ああ、オレは夏実を泣かせるつもりなんか、なかったのに、な……。
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