第11話 緊急事態発生!?
うどん転生56日目。
ついに、うどんになってからの作品群によるライリーでのインセンティブが確定した。この前のインセンティブはうどんになる前に書いた小説だからノーカウントだ。
月間総PVが58万で、インセンティブは1万7千400円だ。銀行振り込みにすれば手数料で少し減るから1万7千円ぐらいになるだろう。
今はまだ、貯金がたくさんあるので、数カ月まとめての振り込みにすることで手数料の負担も軽くしたいところではある。
『すまん、夏実。まだお小遣いはあげられないみたいだ』
予想はしていた。3作品並行連載を始めて、まだひとつしかバズっていない。来月はもう少しマシになるかもしれないけどさ。
一応、このくらい稼いでいけば、貯金の切り崩しも抑えられる。決して最悪な状況ではない。そう考えるしかない。
「大丈夫だよ。夏実、お小遣いはママからもらってるし。あと、バイト代も出るから、心配しないで。ここの家賃も大丈夫」
『いや、それはさすがに叔父として情けないというか……』
「ケイちゃんは、今、うどんなんだよ? お金、稼げなくても当たり前じゃん」
……それは確かにそうなんだ。だが、ぐさりと刺さる言葉でもある。それでも認めたくないのだ。うどんゆえの過ちというものを。
「……夏実に任せて。ケイちゃんは夏実が守るから」
その、強い意思を感じさせる夏実の言葉に。
オレはほんの少しだけ、戸惑いを覚えたのだった。
だが、すでに新しい月の戦いは始まっている。オレはそこに没頭することで、その戸惑いを忘れていった。
ピンポーン、ピンポンピンポン、ピンポーン!
激しくドアベルが鳴ったのは、うどんに転生して52日目のことだった。
夏実はすでにこの部屋のベッドの上でまったりと過ごしているので、訪問者は夏実ではない。
宅配便だとすると、このドアベルの鳴らし方はありえない……と思う。たぶん。
「なんだろう?」
夏実がベッドから身体を起こして、玄関の方を見つめた。
「おらぁーっ! 香川ぁーっっ! てめぇがここにいるのは分かってんだーっ! 今すぐ出てこいおらぁーっ!」
……おおう。輩が来とる。残念すぎる。上司……いや、元上司の原力也だ。
「……ケイちゃんの知り合い?」
そう言いながらベッドを下りた夏実がノパソに近づいて椅子に座ると、ノパソをのぞき込む。オレはパソ談で答える。
『あれは、この前辞めた職場の上司だな。前にも来た。たぶん姉さんのところにも行ったはずだ』
「あー、そういえば、そんなこともあったっけ」
ドンドンドン、と玄関の扉が激しく叩かれている。近所の誰かが通報するのを待つか、それとも夏実に通報してもらうべきか……。
「出てこいやおらぁーっ! てめぇのせいでなんで俺様が出向しなきゃなんねーんだよっ! ふっざけんなゴラぁっ! 出てこいおらぁーっ! 香川ぁーっっ!」
……これで社会人として働いてたとか、マジかよ。って、え? バカ上司のヤツ、出向になったのか? おー、あの会社、なかなかやるなぁ。出向先があるなんて意外すぎる。
まあ、出てこいと言われても、うどんだからなぁ。無理だ。
「……ケイちゃん、しゅっこうって何? この人、会社のヒトなんでしょ? 学校に行ってるの?」
『ああ、高校生には分かんないよな。出校じゃなくて、今いる会社とつながりのある別の会社に異動することを出向っていうんだ』
「……移動、の間違い?」
『いや、この場合、異動で合ってる。意味もだいたい移動と同じだな』
「ふーん。なんか、大人って変だねー。同じなら使い分ける必要、なくない?」
輩が玄関先で騒いでいるというのにオレと夏実は意外とのんびりパソ談をしていた。
……オレを恨んでるみたいなんだけど、出向がオレのせいってことか? だとすると、ハラスメント関係で、飛ばされた感じの出向なんだろうか?
まあ、元の会社からその子会社や関連会社への出向だとすると、元の会社の企業の規模からいえば、とてもじゃないけど出世ルートとは思えない。いわゆる左遷、というヤツだろう。
正直、ざまあみろ、としか思わない。そういう上司だったのだ。むしろ、よく今まで左遷されずにいたよな、というイメージすら、ある。
『とりあえず、夏実は警察への通報をしてほしい』
「あ、そうだね……」
『まあ、カギがかかってるから、中には……』
夏実がスマホに手を伸ばして、パスワードを入力した瞬間――。
くいっ。ぎぃーっ。
「あ、なんだ? 開いてんじゃねぇか。香川ぁーっ! てめぇ! ぶっ殺すっ!」
なんでカギが開いてんだ⁉ どうなってんの!
――原力也が堂々と不法侵入してきたのだ。
「あ、夏実、カギ、かけ忘れてたかも……」
ちょっと夏実ぃーっっ! おい! どーすんの、これ!
どしどしどし、と、おそらく土足のまま、パワハラ上司の原力也が中へと入ってきて、がらっと引き戸を開けた。
「あん? なんで香川じゃなくてJKがいんだよ? 香川はどこだ?」
「ケイちゃ……叔父さんは今、いません」
「おじさん? てめぇ……香川の親戚か何かだな? ふん、あいつがいねぇなら、てめぇでお楽しみってのも、アリだな……」
にちゃあ、という音がしそうな、気持ちの悪い笑みを原力也は浮かべた。
夏実がおびえてスマホを落とした。かつん、と床にスマホが落ちた。
夏実を守らないと!
オレはノパソのWEBカメラを起動しつつ、うどんを1本伸ばして、床に落ちた夏実にスマホに触れた。そのまま110番をタッチする。
WEBカメラで動画を残すと、動くうどんとしてはマズいことになる可能性はある、というか高い。実験体みたいな感じで。
だが、夏実を守るための証拠の確保が優先だ! オレはそのためならどうなったっていい! そもそもすでにうどんじゃねぇか!
ノパソのある机の上から、オレは、飛んだ――。
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