『人ん家の前でキスするなよ』

『人ん家の前でキスするなよ』

　昨日の事である。

　私は仕事で疲れ果てて家路を急いでいた。

　時は４月、新入生が街をウロウロし始める頃合いで。

　電車が嫌に混んでいて、疲れた体に妙に響いた。

　ガキ共が一杯の電車を降り、うんざりした顔で家の近くまで来た訳だが。

　私の家のマンションのすぐ近くで―

　学生カップルがキスをしてらっしゃった。

　キスしてる瞬間に私が行き合わせた。

　男の子が女の子に被さるような体勢でキスしてらっしゃった訳だが。

　被さられた女の子と眼があってしまったのだ。

　ううん。青春だねえ、とか私は思っちゃって。

　思わずガン見してしまった。

　いやあ。今思えば悪いことをした。

　だが。ウチの近所…つうか真ん前のマンションの非常階段でキスしなくても良いじゃない？

　まだ。夕方の浅い時間よ？人気（ひとけ）がないからって往来でキスするのもどうなのよ？

　とか思ったが。

　私も中学生の時分…不登校になる前に。当時の彼女と往来でキスしましたっけね。

　学生カップルってのはイチャイチャできる所が限られますからなあ。

　っても。私が往来でキスしたのは中学生の時分であって。高校生になってからは家に連れ込んでいましたわよ？

　いやあ。疲れたところで良い物？を見ましたなあ。

　コレはエッセイのネタになるなあ、って儲けた気分でありました。

　しかし。キス。

　懐かしい響きです。

　キスなんて。大人になってからは印象に残らないモノです。なにせ、セックスの一部でしかないですから。

　キスが神聖なモノだったのって。学生の時分くらいのモノではないでしょうか？

　セックスが出来ない中学生や高校生の精一杯の性行為、それがキス。

　恐らく、あのカップルも。

　精一杯の性行為をしていたのでしょう、恐らく。

　セックス出来るんなら家に連れ込むだろうし。

　でも。繰り返しになるけど。ウチの前でしなくたっていいじゃないか。

　３２のおっさんがああいうモノ見ると、大変切ない気持ちになるんだぞ？

　それに。キスのシチェーションとしてどうなのよ？

　そのキスまでに何があったかは知らん、だが。マンションの非常階段でキスに至るシチュエーションって微妙じゃないか？

　私が往来でキスした時は―どうだったっけ？

　確か、部活終わりに彼女と帰っていて。何かの話の拍子にキスをしたと思う。

　川原の道沿いでした。夜になっていたのであたりは真っ暗。だから私はキスに及んだ―んだと思う。当時の思考はトレース出来ないが。

　初めてのキスは―何かの味がするらしいが。

　私にとっては無味でしたな。緊張で何も覚えてねえ。

　下世話な話になりますが―記憶しているのは。私の股間が怒張していた事だけです。

　この頃からエロいガキだったんだな、私は。

　相手にもバレてただろうなあ…クソ恥ずかしい。

　んまあ。私のキスの思い出はこんな感じで。

　キス自体よりも、股間の状況しか覚えてねえ。

　ああ、最悪な男だなあ…私。

　人様のキスにどやかく言う権利なぞありはしない。

　んで。

　３２になった今。私は―キスとは無縁です。

　だってセックスなんてしてねえもん。風俗にも行かないし。

　これからもキスとは無縁だろうな、なにせ彼女を作ろうという意欲に欠けている。

　だが。

　久しぶりに学生さんの爽やかなキスを見ると羨ましいなー、って思わんこともない。

　私もキスが神聖な行為だった頃に戻りたいもの。

　セックスなんて下世話な行為はもう要らん。

　ただ、唇を重ねる行為が。

　何故、ここまで神聖に感じられるのか？

　不思議なもんです。

　ま、唇も一種の性感帯だから、ある種セックスめいた部分があるかも知れんが…

　それ以上に。神聖さというか、特別さが感じられる。

　コレって創作物の影響だろうなあ。

　規制のある中での精一杯の性行為、それがキスで。コイツをあれやこれや演出して魅せる。

　その影響が、未だに抜けきってない訳ですな。

　大体。

　キスなんて。よくよく考えてみると口内細菌の交換でしかないんだよなあ。

　キス病なんてモノもありますし。歯周病とかもキス経由で移りそうだし…

　…うん。

　キスが出来ない３０代デブうつおじさんの僻（ひが）みですな。

　良いよなあ、青春している少年少女達は。

　こんなモノを読んでいる人に若い人は居ないと思いますが（偏見）、もし居るのなら、キス、神聖な内に、しっかりやっておく事をオススメしますよ。

　特に男の子には注意しときたい。

　キスの時に股間を怒張させないように。

　キスの記憶が余計なモノで汚されます。私は未だにその記憶に苦しめられています。

　あ。でも。

　人が歩いてる往来でするのは勘弁してくれよな！

　行き合わせた人が微妙な思いするんだから。物陰でこっそりやって下さい。

　さて。この下世話なエッセイもここまでにしときましょう。