【企画書】夫婦でドラゴン・ハンティング!〜結婚式を台無しにされたので、倒してジビエ料理を作ります〜

灰色セム

猟師と料理人と一粒万倍日

 人やコロニーに被害をもたらす特定外来生物を狩り、ジビエ料理にする。食べられない毛皮や骨などは、魔法の素材として売りさばく。それが猟師である女性・千秋と料理人オリバーの仕事だった。彼女たちは九州コロニーの市長から依頼を受けて、茂みの中に身をひそめていた。


 オリバーの吐息すら聞こえなくなるほど集中した千秋は、野菜を荒らす巨大な宇宙イノシシをユニークスキル『百発百中』を付与したスラッグ弾で撃ち抜いた。


 魔導銃――最新式のボルトアクションライフル――でしとめた宇宙イノシシは、家一軒ほどの大きさだった。彼女の背後で影のようにたたずんでいたオリバーが陽の光の元へ歩きだす。宇宙イノシシは彼のユニークスキル『キッチンルーム』に搬入され、解体されていく。彼の適切な処理により宇宙イノシシは調理され、九州コロニーの市長たちにジビエ料理として振る舞われた。


 市長から報酬を受け取った千秋たちは新居へ帰る。千秋はガレージで念入りに魔導銃を整備してから、魔法のポーチに収納した。


 西暦二五〇〇年、一粒万倍日。宇宙イノシシの狩猟から一夜明けた早朝。千秋たちは九州コロニーの結婚式会場に向かっていた。今日はふたりが式を挙げる日だ。


 会場に着き、千秋の親族や招待客に挨拶していると警報が鳴り響いた。 特定外来生物の中でも凶悪な飛行型ドラゴンの出現により、式場が壊されていった。山のような巨体のドラゴンを見た招待客や近隣住民が、慌てて地下シェルターに避難していく。千秋はその場を動かなかった。


 オリバーの顔からは、血の気が引いていた。千秋は青ざめてうずくまったオリバーに優しく声をかけ続ける。幼なじみでもあり夫であるオリバーは、幼少期にドラゴンの襲撃にあい、両親を亡くしていた。そのときの恐怖が、まだ彼の中に残っているのだろうと千秋は胸を痛めた。


 ドラゴンは好き勝手に暴れまわっている。人気のなくなった地上にたたずむ千秋たちに気づくのも、時間の問題だった。千秋は『百発百中』を付与したガレキをドラゴンに投げつけた。


 ガレキがドラゴンの左目に命中する。痛そうな咆哮がとどろいた。思わぬ反撃に驚いたのか、ドラゴンは慌てたように去っていく。人的被害はなかったものの、式場は修復が必要なほど壊されている。ふたりの結婚式は延期ではなく中止になった。


 一部始終を目撃した写真家・アルベルトが写真を撮り始める。仕事のためだと主張するアルベルトに、シェルターから出てきたひとたちは顔をしかめた。千秋はやってきた市長に、自衛隊派遣要請の依頼をする。その場面すら写真に収められ、苦々しい顔になる千秋を市長が穏やかになだめた。


 ドラゴンは執着心が強い。一度現れた場所に来るはずだと考えた千秋は、ドラゴン狩猟免許の取得を宣言する。集まってきた人々に心配されるが、千秋の怒りと決意はゆらがなかった。千秋はまだ震えているオリバーを休ませてほしいと、市長に頼みこみ、空いている会議室で彼を休ませた。


 取材と称してついてきたアルベルトに色々なことを話しかけられつつ、三時間かけて猛勉強する。すべては愛するオリバーを安心させるため、なによりドラゴンを魔導銃で合法的に倒すためだった。ドラゴンを追い払った一撃はガレキをぶつけただけなので、狩猟免許の有無は関係なかった。


 もともと第一種狩猟免許を所持していることと、努力のかいあって、千秋は実技と筆記を一番で突破した。交付されたドラゴン専門猟師免許を掲げる。一発で百万円もするドラゴン用の高価なスラッグ弾は、在庫が五つしか残っていなかったが、すべて買い求めた。


 近くのコンビニエンスストアで軽食を買ってくれていたアルベルトに礼を言う。千秋は車を走らせながらサンドイッチをつまんだ。千秋とアルベルトは改めて市長のもとを訪れ、正式にドラゴンの狩猟依頼を受ける。


 市長は自衛隊がもうすぐ到着すると教えてくれた。落ち着きを取り戻していたオリバーが、千秋の元へとやってくる。少しだけ疲れた顔で笑うオリバーは、自分も同行すると宣言した。地元の新聞社と連携しながら現場の写真を撮っていたアルベルトが、オリバーを気遣う。


 太陽が一番高い位置にのぼったとき、千秋の読み通りにドラゴンがやってきた。彼女は高台の狙撃ポイントに体をふせ、ドラゴンの急所である逆鱗を狙う。


 アルベルトは本物のドラゴンを見て興奮したのか、浮遊型携帯情報端末で配信しながらカメラのフラッシュをたいた。ひどく青ざめたオリバーの静止もむなしく、三人はドラゴンに見つかってしまう。


 千秋を見て警戒したのか、ドラゴンは強力な防御魔法を展開した。防御魔法はそう簡単に破れない。千秋とオリバーは視線をかわし、うなづきあった。オリバーが魔法で自身の姿を消し、千秋から少しだけ離れた物陰に身を隠す。


 ドラゴンは千秋を注視している。千秋はドラゴンの防御魔法を魔導銃で狙い撃つ。小さくヒビが入った部分をめがけて、二度三度と狙撃し四発目で防御魔法を完全に壊した。ふたたび結界を張ろうとするドラゴンのななめ下から、巨大化した骨切り包丁がいくつも放たれる。


 オリバーの特殊な骨切り包丁で飛行魔法を阻害されたドラゴンが着地した。ドラゴンは自身の魔力を練り上げていく。周辺の建物が膨大な魔力にさらされ、吹き飛ばされていく。


 オリバーは対ドラゴン用の防御魔法を展開し、自分たちに施した。転倒したアルベルトをかばったオリバーが、大きなガレキをその身に受ける。立ち上がったアルベルトは、オリバーをガレキの下から救い出した。


 千秋は、オリバーを連れて自分の後ろに隠れるようアルベルトに指示する。素直に、でもしっかりとカメラを構えるアルベルトに千秋はプロの覚悟をかいま見た。


 ようやく到着した自衛隊に、市長がテレパシーで状況を知らせる。膨大な魔力を練り終えたドラゴンが、ブレスを吐く予備動作に移った。自衛隊が各種様々な魔法をドラゴンにぶつけ、時間を稼ぐ。少しだけのけぞったドラゴンの急所――逆鱗――を、千秋が『百発百中』を付与した最後のスラッグ弾で撃ち砕いた。


 ドラゴンが溜め込んでいた魔力が拡散し、空中に大きな虹となってあらわれた。山ほどもある巨体がアスファルトに倒れこむ。アルベルトはすかさず写真を撮り、インターネットに投稿した。


 ドラゴン討伐完遂の吉報を知らせる市長の声がコロニーに響きわたる。地下シェルターに避難していた人々が戻ってきて、歓声を上げた。自衛隊の回復魔法使いがやってきて、千空たちのケガを治していく。九州コロニーを救うために奮闘した千秋とオリバーに、惜しみない拍手がおくられた。


 ふたりはドラゴン狩猟に大きく貢献したとして、市長から直々に表彰された。市長をはじめとした人々に謝ったアルベルトは、考えを改めると表明した。千秋たちは応援するようにアルベルトの背中をたたき、はげます。


 アルベルトはせめてもの償いにと、ユニークスキル『写真現像』で写真を加工してふたりに手渡した。襲い来るドラゴンと対峙する千秋のワンシーンは、新聞の一面記事を飾れそうだった。千秋は「いい写真が撮れている」と、ほほ笑む。ふたりから「写真を新聞社に持っていくといい」と言われたアルベルトは、嬉しそうに目を輝かせた。


 千秋はドラゴンを魔法のポーチに収納して、荒れ果てた地区を後にする。害獣の討伐が自分たちの仕事なら、復興は市長や自衛隊の領分だからだ。オリバーはトラウマを少しだけ克服したのか、顔色が良くなっていた。自宅に戻ると、さっそく『キッチンルーム』に引きこもり、ドラゴンを調理し始める。千秋はガレージで時間をかけて魔導銃の整備をしたあと、魔法のポーチに収納した。


 リビングへ行き、電子新聞の号外を読む。ドラゴン討伐を称える記事には、アルベルトの撮った写真が使われている。彼はインタビューも受けていて、千秋たちに迷惑をかけてしまったが、貴重な経験をしたと締めくくっていた。


 太陽が沈み始めるころにやって『キッチンルーム』から出てきたオリバーが完成した料理を並べ始める。できたてのジビエ料理を仲良く食べる。食後のお茶を飲みながら、ふたりは結婚指輪を交換した。ふたりぼっちの結婚式だ。


 千秋が「これからもよろしくね」と目を細める。ふたりはしばらく見つめ合ったあと、誓い合うようにキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【企画書】夫婦でドラゴン・ハンティング!〜結婚式を台無しにされたので、倒してジビエ料理を作ります〜 灰色セム @haiiro_semu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ