第3話 喫茶店での会話

 さて、次の日、正確には、今から20年以上も前の、平成○○年7月22日の日曜日の午後2時、私と、ミッチャンは、郊外の喫茶店「マンゴー」で会っていました。

 この喫茶店は、郊外にある事から、平日、セールス業務の方によく利用されており、土日はむしろお客が少ないと言う不思議な特徴がありました。



 私らを含めて、お客は、たった3組しかいません。それに私らは一番奥の座席に座ったため、話し声が他人に聞かれる心配はありません。そこまで私は、妙に気を遣っていたのです。



 それは、一体、昨日のあの数分間の沈黙や、ため息ともとれるような感じを、どことなく不異議に思っていたからです。ミッチャンは、もしかしたら、何か私の知らない情報を知っているのかもしれない。



 それにしても、このX市で何代か続けて医者を開業してきている名家の十津川内科クリニックのお医者さんの奥さんにしては、何とも地味な服装です。明らかに人に見られたくないような一種の変装のような服装に、私は、不思議な違和感を感じたのでした。



 ……まるで、他人の目から逃れるような地味な服装。お金には全く不自由していない筈の彼女がですよ。それが、余りに地味過ぎる服装です。

 多少の違和感を、この時、感じました。



 そのミッチャンは、顔色が悪く、暗い瞳で、私を見上げていました。一体、彼女は、今日、何の相談で、幼なじみの私を呼び出したのでしょうか?



彼女の最初の一言は、次のような言葉でした。



「タッチャン、SNSとか、ツイッターとか詳しい?」



「いや、若い者に比較すれば全然詳しいほうじゃないと思う。



 特に最近のスマホには全く、ついていけないね。未だにガラケー携帯使っている程やからね。



 ただ、ミッチャンも知っていると思うがいけど、ウチの市長は、元、中学校の校長出だけあって、少子化問題や青少年の健全育成には、他の市町村より遙かに力が入っているんですよ。



 さいから、こうみえても、僕は、X市青少年健全育成連絡協議会の事務局長を担当しています。



 その中で、最近、出会い系サイト等のでの犯罪が話題となっている事から、青少年を守るためにも同年配の普通の人よりはいかがわしいサイトにはそれなりの知識があると、自分では思っているけど……それが、でもそれが、例の話とどういうふうに繋がるんやろう。僕には、分かりません。



 あの、セーラー服のみを狙っていると言う連続強姦事件の噂話と関係があるんかいや?」



 これに対して、ミッチャンはこくりと頷いた。



「で、こんな相談は、幼なじみのタッチャンしかできそうにもないんです」




「それは、一体、どういう相談なのですか?」




 少々の沈黙のあと、ミッチャンは、意を決したように、私に話し始めてきたのです。



「あの、私の長女の遥と、タッチャンの娘さんの友美ちゃんは小中高の同級生ですし、私達も幼なじみだから、この際、思い切って相談するのです。




 いいですか、これは、私のあくまで推測ですから、他人には絶対に言わないでください。まず最初にこれを誓ってくれないと、次なる話ができませんので……」




「うーん、絶対他人には言うなと言う事やね。しかし、話の内容によっては、僕の立場上言わざるをえないかも……」



「そこを何とか頼んでいるのです。もっと言うなら、単に私の思い過ごしかもしれないところがあるのです。でも、どこか、気になって気になってどうしようもないのです」



「分かった、では、話はここだけの事とし、誰にも言わない事を誓うよ」




 こうして、二人の話はまとまりました。あとは、ミッチャンがどんな話をするかです。



 しかし、ミッチャンの話の切り出し方は予想外のものでした。




「ねえ、タッチャン、よくテレビの推理ドラマでこういう筋書きの話があるじゃない。



 例えば、交通事故を起こして相手Bを車椅子生活に追いやった、加害者の人間Aが殺された。当然、警察は車椅子生活にまで追い込こまれた交通事故被害者のBを疑うのだけれど、殺されたAの住んでいたアパートにはエレベーターは無く、A自身も3階に住んでいる。つまり、車椅子ではAの部屋には絶対に行けない状況があるとします。



 よって、容疑者Bは車椅子生活だから絶対に実行犯にはマークされない。……でも、実際はB本人の「必死のリハビリ」によって車椅子は既に不要となっていた。当然Bにはアリバイは無いけれど、警察は先程の理由からBを疑う事は絶対無い、とね……」



「一体、何の話をするかと思えば、推理小説やサスペンスドラマの話かいや。でも、それは、全く違うね。



 確かに、Bは車椅子生活だから直接の実行犯とは疑われないかもしれないけれど、そんな強烈な殺意をBが持っている事を警察が感じ取れば、Bが容疑者リストから逃れる事はまずはないよ。



 何故なら、何もB自身が手を下さなくても、他人に頼んでもAを殺す事ができる。いわゆる殺人依頼と言う奴だよ。



 更に、Bが現実の実行犯と綿密な計画等を立てていれば、共謀共同正犯として捕まる場合もある。

 だから、そのような簡単な結末にはならないんだよ。残念ながら……」と私は答えたのですが、皆さんにはこの例え話を後々まで覚えておいてほしいのです。



「さすが、推理小説好きのタッチャンらしいわね。相談のしがいがあると言うものだわ」



「だからさ、何度も言っているように、一体、どんな話なんです?」



 私は、少しむっとして、ミッチャンをけしかけた。




「あの、全部、話すと長くなるので手短に話するわね。




 昨日、タッチャンが電話を掛けてきた、例のセーラー服の少女ばかりを狙った連続強盗犯の話は、どうも本当らしいのよ」




「どうして、それが断言できるのです」




「実は、長女の遥が、借りていたレンタルDVDを、長男の部屋に返しに行った時、長男の睦夫のパソコンが開いていたらしいのです」




「そこには何か写っていたのですか?」



 ここで、ミッチャンは急に黙り込んだ。やはりどうしても言いにくい事らしい。しかし、ここで、ミッチャンの長男の睦夫君の名前が出てきたのに、私は、彼女の苦悩の原因の一旦をかいま見たように感じたのだ。



 つまり、その訳の分からない事件に、長男の睦夫君が絡んでいる事をミッチャンは恐れていたに違いがない。……だからこそ、なかなか言い出せなかったに違いない。

 ちなみに睦夫君は、その時は、D中学校の1年生で、D中学校始まって以来の秀才の噂の高い少年なのです。



「見るも無惨な、強姦直後のセーラー服姿の被害者の写真の連続だったそうです。

 勿論、被害者の顔と大きく開かれた局部には、モザイクがかかっていたそうですが……。その数、合計8人だったと、長女の遥が言ってました」



「言葉は悪いけどそんなHなサイトや、俗に言うカルト系サイトなど、ネット上には山ほど流れていますよ。たまたま睦夫君が偶然それを見ていただけじゃないがですか?



 『ググってはいけない言葉』とか『検索してはいけない言葉』だとかを、このキーワードをパソコンで検索するだけで、超危険で超変態的なサイトは、探せば腐るほどあるんですよ。まあ、そのほとんどが写真や動画だけで構成されていますけどねぇ…」



「いえいえ、そんな普通の画面など、単なる面白可笑しいぐらいの、エロ写真や動画に過ぎません。それとは比較にならないほど非道い内容だったらしいんですよ」






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