第三章「蠱女の島」
孤島に近づいた影/狩人
―
さて。
そんな真実を確認したのち。
夢のなかに。
落ちた。
そこは
真っ暗な一室で、混ざる寝息は。
以上、六名のものである。
彼女たち
しかし、ほかの四分の三のほうも別の場所で健在であり。
ある者は眠り。
ある者は起きていた。
たとえば。
その
とある
飛んでいた。
彼女たちのなかで「飛べる」者といえば。
きのうの午前中、
その直後、
一緒に屋敷に住んでいる姉の
飛び立った。
しかし
海のなかの、とある孤島。
それが、彼女たち
適度に休みをはさみながら飛んでいた
ほぼ二日かけて。
目指していた島の影を、その目に捉える。
周辺の海面には頭上の光が映し出され。
波と共に、その輪郭を揺らしていた。
空を仰ぐまでもなく。
彼女は月と星を見た。
(遅い時間に到着しちゃったな。
この
それとは別に
―
どことも陸地を接することなく海に浮かぶ孤島、
歩くだけでは決して到達できない地である。
そこを目指そうとすれば。
飛ぶことのできる
だが普通、人は空を飛ぶことができない。
よって通常、
一度近づいてしまえば、簡単に見つけられるだろう。
その島はまるで。
一個のちょっとした山を切り取って。
海に投げ落としたかのようなかたちをしている。
砂浜はどこにもみえず、いびつな岩が海岸線を引いている。
平地は、ほぼなく。
ひとたび上陸すれば、斜面をのぼることになる。
ほどよく木々が生えている、そんな山道を進むのだ。
植物たちは極端に太ったり湿ったりしていない。
山頂に近づくにつれ。
周りの海からの潮風が、山のにおいにすりかわる。
もちろん島のなかにも生態系があり。
流れる川には魚などが泳ぎ。
木の枝には鳥がとまり。
落ちた葉っぱをめくれば虫が逃げ出す。
とはいえ、
いのしし。
通常のいのししよりも。
屈強でしなやかな筋肉を持ち、皮が分厚く、賢い。
そんな
船を使う場合でも、不用意に上陸しようとするのはやめたほうがいい。
撃ち落とされるから。
島には狩人がいる。
近づけば、矢が飛んでくる。
上空から接近した
―
そして山道に入る。
ある程度のぼって、潮のかおりが薄くなってきたところで。
木々に隠れた小川を見つける。
彼女はしゃがんで、その上澄みの水を両手ですくう。
水をたたえた手の平をそのまま顔に持っていき。
ぱしゃりと、はたく。
それから右の中指の腹に余ったしずくを、軽くなめる。
「うん、ある」
完全には恐怖を払拭できていない。
だから
生き物として本能的に水を求める自身を確かめることにより。
自分が生きていること、そして生きようとしていることを。
信じたかったのである。
彼女の吐息は山の空気に吸われていく。
そよ風が耳を揺らす。
生き物たちの夜鳴きが互いに混ざり合い。
鼓膜を静かに震わせる。
だが。
気のせいだろうか。
ときどき、なにかが吠えているような音も聞こえてくる……。
―
この地を管轄する
ことわりもなく土地に入り、そのなかで眠っても、とがめられることはない。
しかし、どこか寝付けない
環境が悪いのではない。
柔らかな葉っぱに身をうずめ。
小川のせせらぎに耳を傾ける。
その環境は
自然に対する彼女の憧れは、人一倍強かった。
おそらくその憧れも、
ともかく。
眠れない時間の過ごし方を考える。
しばらくは天上の星を数えていたが。
次第に飽きてしまい。
そばの小川に目を向ける。
すると、その川べりに遊んでいるカニを見つけた。
それは小さく、指の腹ほどの全長しかない。
優しくカニをつんつんする。
はさみではなく、甲羅の部分を。
ただし。
月光が差し込み。
暗闇に目も慣れているとはいえ。
カニのかたちも色も、ぼんやりしている。
だから自分の指がその甲羅に当たるたび。
不確定な存在が、確定した存在になっていくような。
そんな感覚を覚えるのだった。
……と。
そのとき、突然。
片方の耳に入り込んでくる、音があった。
首を傾けるひまもなく。
それはカニ……の手前の地面に突き刺さった。
ふれずとも、分かった。
矢だ。
一本の矢が山の斜面の上のほうから射られたのだ。
その瞬間において
左耳を下流側に、右耳を川の上流側に向けるように上体をひねっていたので。
矢の音が右耳に真っ先に侵入した。
しかし矢の速度が尋常でなかったため、音は左耳に到達する前にかき消えた。
だから彼女の片方の耳にのみ、その音が響いたと考えられる。
こんな芸当ができるのは。
「師匠!」
音のしたほうに、彼女は体を向けるのだった。
―
そこにいるのが、
島に近づく者を射落とす狩人。
彼女の姿に月の光が落ちる。
だが月明かりは、あたりの木の影に切り取られていた。
よって光にむらがある。
弓を構えた狩人を、まだらに照らし出している。
向かってやや右斜め下を狙う体勢をとる。
矢は、つがえられていない。
ここで。
数匹のいのししが、とおりすぎた。
いのししたちは、そばの小川に足を濡らしたあと。
地面に散らばっている葉っぱの上を歩いた。
その際、濡れた足に。
葉っぱが数枚くっついた。
その光景が終わるまで
最後のいのししが自分の前から去るのを目で追ってから。
構えをといた。
―
「夜更けに来るとは珍しい」
まぎれもなく
距離があるのに、よくとおる。
そして
「
確かに
互いが互いに師事する関係になっているのだ。
ともあれ。
「師匠」
弓ひと張りが、おりてくる。
対する
手持ちの「筒」を一本ずつ、両手に持った。
巫蠱(ふこ)―巫女と蠱女― 小憶良肝油(おおくらかんゆ) @Kannyu_Ookura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。巫蠱(ふこ)―巫女と蠱女―の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます