思う条件/分解作業
―
どこまでも。
草が広がる
そこに建つ、木造のあばら屋。
あるいは
宵の口は、とうに過ぎ。
夜は更けゆく。
草むらに潜む虫たちは。
一切の音を出さず、沈黙しているかのようだ。
家のなかも。
静けさに、つつまれ。
あかりが弱く浮かんでいる。
そこに。
それまで彼女は右のほおに右のこぶしを当てていたのだが。
そのまま右のひじをゆかに下ろし。
ほおづえをついた体勢で。
寝る。
布団を敷く気は、ないようで。
毛布だけをかぶる。
「感謝するよ」
まだ起きている、
礼を伝える。
彼女たち
さきほど、話した。
しかし
眠ろうとしている
少し待ってほしいと頼む。
どうも、言い忘れていたことがあるらしい。
「
わたしは
ちょっと会話したんですけど。
そのときあの人、気になることを漏らしたんです。
確か『これで
うちの三女さんに関することで、なんか筆頭とあったんでしょうかね。
これ、
「……察しはつくよ。
それも含めて、あした
じゃあ、もう眠いから。
そう言って
まぶたを閉じた。
眠ったようだが、彼女のほおづえは。
そのあとも崩れなかった。
しかし。
一方の
ゆかに座った状態を続ける。
現状を整理するための話し合いは終わり。
もう眠っても、いいはずだが。
なぜ静止しているのか。
それは。
この夜。
そのあいだ
ほとんど喋っていなかった。
せいぜい、あいづちをうつ程度だった。
そもそも現状を正確に把握したいと言ったのは、
彼女こそが、
さきほどの話し合いにおいては。
だからか、これまで
ただ。
なにかを凝視することだ。
現在、その視線が。
その凝視は、
途切れることなく。
かすかな、しかし確実な威圧を。
相手に送り続ける。
だから
いまの状況に、不安定さを覚えてしまったから……。
「ぶくほ。
なぜ
―
それから
もう眠ってしまった者たちのほうに目を向ける。
ほおづえをついたまま毛布にくるまっている
布団の上で寝息を立てている、
手持ちの画板にしがみつく、
いつ眠ったのかも分からない、
そそがれた。
この家にあがる前、
(全滅するのは……
そして。
確信する。
「わたくしが
対して
「だとしても。
こういうのに一番詳しいのは、ぶくほでしょう。
強大な
でもそれって。
わたしたち
思う者……
たとえば。
わたしも、ぶくほも。
だから
わたしには、まだ理解できないんです」
改めて
「筆頭は、あすにでも追加の手紙を書くはずです」
「はい、それをわたくしが届けると言いましたね」
「ぶくほが手紙を届けに外出すれば、質問の機会をのがしてしまいます。
だから、今夜のうちに聞いておこうかなと思うんです」
「
そして
両目を閉じる。
「……短めでよろしければ。
わたくしも眠いのです」
(それならわたしを凝視せんで、すぐに眠ればよかったんやないの。
もしかして、わたしがこの話題を振るのをぶくほは待っててくれたんかいな)
―
「結論を述べますと……。
その流れを理解するにあたり。
前提を確認しましょう。
言うまでもなく。
……これが、わたくしたち
では問いましょう。
口に出す必要はないので、脳裏にて答えてください。
成立の順番に関する問いです。
ここで、改めて『
わたくしたちは……ふ・こ。
その熟語は。
このことから。
錯覚するでしょう。
たとえば『
しかし実際は。
簡単な理屈です。
その思いの受け皿となる『思われる』という受動が
どこにも、とどまれないのですから。
それは。
絶対の真実をも示しています。
すなわち。
―
その余波を受けて
そんな真実を聞いてなお、
嗚咽のひとつも漏らさなかった。
一方の
まだ、まぶたをひらくことなく。
説明に補足をおこなう。
「
三匹の虫が皿に載っています。
それは、虫にあふれた皿なのです。
この皿がなくなれば、虫たちはちりぢりになるでしょう。
ここで言う『虫』とは、思いの具象です。
小さな思いがまとまって、人の思いが生まれます。
そのような多量の虫をつなぎとめる受け皿が、
皿にそそがれた虫の凝集……それが
つまり。
わたくしたち
寄生しているのです」
―
説明を終え、
すると。
今度は
「なるほど?」
「つまり思うから思われるのではなくて。
思われる存在があるからこそ思うことができるんですね。
だから思われる
ちゃんと理由があったんですね」
そして
「お話、ありがとうございました」
対して
「いまの話を聞いて、不安にならないのですか」
「みんなの不安をわたしも持てたことが、嬉しいんです」
その返答に
「おやすみなさい」
そう言って。
部屋に残っていた、わずかな光を。
彼女は消した。
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