飛べない翼に価値はない? 違うね。飛べない翼には『勝ち』があるのさ。

 飛べない奴がいるといって馬鹿にして、高(鷹)見の見物を決め込むフランク。ないものねだりをしてもしょうがないというのは百も承知で、「ペンギン」という生を受けた以上、それはどうあってもひっくりかえせない必然で。なのに、対照的にツバサという名前を授ける意味には、当然困惑してしまうもので。
 しかし、そんな翼にも一筋の光明が……。飛べない鳥が、翼を持って大空へと飛び立つ夢のようなコンテスト。否、それで飛べたのならば、それは夢ではなく現実なのでしょうが。
 そして始まる飛行機づくり。紆余曲折を経て完成した「ジェットイワシ号」。飛べない鳥の夢を乗せて、あこがれたあの空を現実のものとするために。一年以上を費やした、その努力が揚力となって大空に羽ばたくことを祈りつつ、読み進めていました。
 そして迎えた本番。ゴローと6台の自走式ハンドアームロボットの助力を得て、それらも翼にして、期待と不安と、憧れを一身に背負って。ついに、発進台から足が離れ蹴り出した足は空を捉える。何物にも代えがたい奇跡の瞬間を目の当たりにして、そのシーンが鮮明にイメージされて、思わずガッツポーズをしてしまいました。
 そんな時間もつかの間。フランク……また茶々を入れに来るとは……。だけどもフランクの入れた茶など(茶々だけに)興味はない。今、飛んでいる。その事実だけが強固な自信となって、翼となってツバサを支えてくれているのですから。
 それでもなおちょっかいをかけてくるフランクに……天罰……いや、地罰とでも言いましょうか。お高く留まっている という表現はあまり使いたくありませんが、だからこそフランクはその高さから一発の銃弾で地に落ちることに。その地罰はきっと、鉛玉よりも重いはずです。
 フランクは、鳥でありながら飛べずツバサという名前を付けられた彼をからかうようになったものの、その実ゴローと楽しく過ごす彼が羨ましかった……。学生時代はこういうことありますよね……。
 それまで優越感に浸っていたフランクの翼は湖の水に浸り、さらに沈んでいく。意識ごと深い深い湖のそこへ沈みそうなとき、助けに来てくれたツバサ。「優越感」に浸っていたフランクですが、ツバサは「優しさ」を「越えた」「感情」→『優越感』に浸っていたのかもしれません。それが、湖の中でいかんなく発揮されたからこそ、フランクの救出に間に合ったのです。過去や現在のしがらみをかなぐり捨て、必死に手を伸ばしたツバサに惜しみない拍手を送ります。
 ふと空を見上げてフランクの姿を探すツバサ。思いがけぬフランクの登場からの、プレゼントに、大きな翼を羽ばたかせて答えるツバサ。
 イワシは落ちても、二人の『友情』という翼は永遠に落ちることはないのだなと深く考えさせられました。