天使の化石

大隅 スミヲ

第1話

「そんなものあるわけないだろ」

「あるよ、見たもん」

「じゃあ、明日持って来いよ」

「……」

「ほら、やっぱり無いんだろ。嘘ばっかつくなよな」

「いいよ。明日、持ってくるよ」

「言ったな。じゃあ、絶対に持って来いよ。約束だからな!」


 小学校四年生の夏。ガキ大将だった俺は、ちょっと生意気な転校生のヒカルと言い合いになり、ある約束を交わした。

 それはヒカルが学校の裏山で見つけたという『天使の化石』を持って来るというものだった。

 絶対に嘘だと思っていた。だから、嘘をついたことを謝ってくれれば許してやろうと考えていた。

 しかし、ヒカルは引かなかった。それで明日、その化石を明日学校へ持ってくるということになったのだ。


 そんな約束など、俺は忘れてしまっていた。

 その日は他の友だちたちとグランドで夕方までサッカーをして、家に帰った。

 いつもであれば、そこにヒカルも参加しているのだが、その日はヒカルは来なかった。ヒカルは塾がある日は遊びに参加しないので、きっと今日は来ない日なのだろうと勝手に思い込んでいた。


 その日の夜、家の電話が鳴った。

 電話に出た母親の声色で、何かがおかしいと俺は気づいていた。

 そして電話が終わった母親が俺にたずねてきた。


「ショウタ、あんたヒカルくんと今日は一緒じゃなかったの?」

「えっ? 知らんけど」

「そうなの……。ヒカルくん、まだ帰ってきていないらしいんだけれど」

「え?」


 反射的に時計を見ると、時刻は午後10時を過ぎていた。小学校四年生が出歩く時間ではなかった。ヒカル、きょうは塾へ行ったんじゃないのか。心の中でそう思ったが、口には出さなかった。


 翌日、学校で臨時の朝礼が行われた。

 ヒカルが昨日から行方不明だという話だという話を校長先生が言った。

 現在、警察が手分けしてヒカルの捜索を続けている。何か知っていることがある人がいたら、担任の先生に伝えるように。校長先生はそう続けた。


 女子の何人かは、泣いていた。

 なんで、お前らが泣くんだよ。俺はそう思いながら、泣いている女子たちのことを睨みつけた。


※ ※ ※ ※


 あれから20年の月日が流れた。

 三十路になったから集まろう。そんな呼びかけで、同窓会が行われたのだ。

 同窓会の会場は、同級生のやっている寿司屋の奥座敷を貸し切って行われた。


 集まった人数は全同級生の四分の一程度だったが、それでも集まった方だと思う。大半は地元を離れてしまっているし、結婚して子どものいる人はまだ子どもが小さいからという理由で欠席だった。


 そんな時、ふとヒカルのことを思い出した。酒が入っていたという事もあり、俺はヒカルの話題を口にした。


「そういえばさ、ヒカルっていたじゃん」


 俺がそう言うと、同級生たちは顔を見合わせた。


「え?」

「だれ?」

「ヒカリちゃんのこと?」

「いやいや、ヒカルだよ。転校生でさ、小4の時に行方不明になっちゃった奴」


 俺の言葉にみんなが顔をしかめた。なに言ってんだ、こいつ。そう顔に書かれている。

 どういうことだ。俺は困惑した。


「いやあの……学校の裏山で『天使の化石』を見つけたって言って……」

「は?」


 みんな、俺が酔っぱらっているんだと思ってゲラゲラと笑った。


「いやいや、覚えているだろ。俺が『じゃあ、明日その化石を持ってこい』って言ったら、あいつ行方不明になっちゃったんだよ」


 俺は必死にあの時のことを語った。

 すると、先ほどまで笑っていた連中がピタリと笑うのをやめた。


「じゃあ、なんでお前はあの時にそのことを先生に言わなかったんだよ」


 全員が俺の方を見て、口を揃えて言った。

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