第20話 厄介な連中(一)

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。


=====


「張遼、流石だな」

「ありがとうございます」


 呂布は自陣に戻ると趙雲を捕らえた張遼を労った。縛られている趙雲を見て呂布は少し考えた。


「趙雲の縄を解いてやれ」

「良いのですか?」

「逃げたければ逃げれば良い。不自由な格好では話がしにくいだろう」

「分かりました」


 趙雲がどういう事だと目を白黒させているうちに縄が解かれて自由の身になった。


「まあ座れ」

「ありがとうございます」

「俺は呂布。幷州軍で後将軍の地位にある。この通り騎馬隊を率いている」

「某は趙雲と申します。幽州軍の校尉で白馬義従の一隊を任されております」

「公孫瓚はなぜ出て来なかった?」

「幷州の騎馬は程度が知れているから相手にするまでもないと」


 呂布と張遼は思わず目を合わせると大笑いした。ろくに調べもせず戦う前から相手を見下す態度を取っていた事を聞いて怒りを通り越して馬鹿らしくなった。


「某も相手を侮るのは良くないのではと諌めましたが聞き入れてもらえず」

「実力を見極めてこいと命じられたか」

「その通りです」

「大将がその程度なら白馬義従の実力も知れているかもしれんな」

「念入りに策を巡らせれば難なく打ち破れるでしょう」


 呂布と張遼は入念に準備すれば白馬義従だけでなく幽州軍そのものを撃破出来ると考えた。


「お待ち下さい。白馬義従には公孫瓚の知己が助勢しています。その者の実力は計り知れないものがあります」

「それは良い事を聞いた。郭図に伝えて策を練り直してもらおう」

「趙雲殿、そのような事を話しても良いのか?」

「何と言えばよいのか分かりませんが、幽州軍に属したままでは己の本分を果たせないと己の勘が言っているような気が致します」

「某の勘も捨てたものではなかった」

「張遼、どういう事だ?」

「趙雲殿と戦っている最中、この者を味方に付ける事が出来れば幷州軍にとって有益になると思いまして」

「なるほど。で、趙雲はどうする?」

「幽州軍に戻ったところで居場所も無くなっているでしょう。幷州軍に加えて頂ければ幸いです」

「分かった。偏将軍として一軍を率いてもらうように手配する。同朋と戦うのは気が引けると思うから今回は後方で控えていれば良い」

「ありがとうございます」

「張遼、一旦本陣まで下がるぞ」

「承知致しました」


 趙雲を配下に加えた呂布は幽州軍への対応を練り直す為に州境に設けられている本陣まで退却した。


*****


 呂布と張遼は本陣に戻ると郭図を訪ねて趙雲を引き合わせた。呂布から話を聞いた郭図は情報を共有する為に将軍全員を集めた。


「知己は三人。その中の一人が公孫瓚殿と同門だと聞いております」

「名前は?」

「劉備・関羽・張飛。三人は義兄弟だと言っていました」

「聞いたことが無いな」

「劉備は公孫瓚殿と盧植門下だったと」


 呂布は三人の名前を聞いて顔を顰めた。前世で辛酸を舐めさせられた挙げ句にとどめを刺された三人である。忘れろと言われても忘れられるものでは無かった。


「どうした呂布?」

「劉を名乗っているから皇家と縁があれば厄介だなと思っただけだ」

「それなら良いが、顔色が良くないように見えたからな」


 付き合いの長い高順から普段と様子が異なると指摘されたので呂布は咄嗟に思い付いた事を言って話題を逸らした。気を付けていたつもりが表情に出るのは鍛錬が足りない証拠だと自分に言い聞かせた。



「確か中山靖王劉勝の子孫だと言っていました」

「それが本当なら厄介だな」

「洛陽に話を通しておく必要があるのでは?」

「しておくべきだが時間が無い」

「皆さんお待ち下さい。劉備が皇家と縁者であっても気にする必要はないでしょう。皇家に連なる者なら今回の争いを調停する役割があります。それを行わず一方に味方するのは本人にその自覚が無い証拠。賊として斬り捨てても何ら影響はありません」


 劉備の素性を聞いて積極策を取れない雰囲気になったが郭図の発言で一変した。皇家の本分を尽くせない者に皇家を名乗る資格はなく、一介の将と何ら変わりはないと。


「軍師殿の言う通りだ。幽州軍の一将軍として考えて対峙すれば良い」

「相手がその口上を言っても相手にしない事です」

「話を戻すが、三人の実力はどうなのだ?」

「関羽と張飛は相当な手練です。劉備は二人に比べると若干劣ります」

「公孫瓚と劉備を比べるとどうだ?」

「二人は同等と見ても良いと思います」


 郭図は趙雲の話を聞くと木簡に色々書いて組み合わせを思案した。


「次の戦いで三人が出て来る事を想定しています。高順殿は関羽を、呂布殿は張飛を、候成殿は劉備をそれぞれ相手してもらいます。張遼殿は公孫瓚が出て来た場合に動いてもらいます」

「李雛殿と曹性殿は本陣を守ってもらいますが、状況に応じて動く遊軍として扱います」

「趙雲殿は私と共に本陣の守りを」

「三人が現れない場合は呂布殿が騎馬隊で対応、高順殿が焔陣営で援護する形を取ります」


 その日は夜襲を警戒したが敵に動きはなく朝を迎えた。全員郭図の指示通りに準備を行い、呂布率いる騎馬隊を先頭に敵陣に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月23日 12:00
2024年12月30日 12:00

呂布が行く あひるさん @GE-AHIRU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ