第19話 敵将を捕らえる

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。


=====


 雁門太守の候成は郭図の指示で州境に馬防柵を設置していたが完成したので張遼を呼び出した。


「張遼、これで良いのか?」

「軍師殿から送られてきた図面通りなので間違いないでしょう」

「確かにこの柵を騎馬で突破するのは難しいな」

「呂布殿も無理だと言っていました」

「呂布が言っているなら間違いない」


 軍議で郭図が説明した際、参加した者が突破は困難だと言った中で呂布は馬防柵に突っ込むのは自殺行為だと断じた。


「これで公孫瓚率いる白馬義従を防げる」

「白馬義従?」

「公孫瓚の騎馬軍団だ」

「軍師殿は本隊が到着するまで守りに徹しろと」

「あれを相手するのは呂布の役目だ」


 幷州で騎馬隊を率いているのは呂布だけである。他の者も率いているが歩兵や弓兵の補助的存在なので数は少ない。


「張遼、血気に逸るなよ」

「心得ています。貴重な戦力を無駄に失うわけにはいかないので」

「それで良い。己を弁えていれば大丈夫だ」


 それから数日後に幽州軍が現れたが、候成と張遼は専守防衛の指示を守ったので幽州軍は攻めあぐねて州境を越える事が出来ず膠着状態になった。


*****


「高順、ようやく現れたな」

「遅くなったか?」

「そうでもないぞ。馬防柵のお陰で敵が寄り付かなくて困っていたのだ」


 膠着状態になってからも攻撃を控えていたので被害は出ていないが、敵も同じでお互い手を出せず睨み合いに変わっていた。


「白馬義従とやらは?」

「全く姿を見せん。拍子抜けしている」

「それなら引っ張り出しましょう」

「軍師殿、どうやってやるのだ?」


 郭図は単純なやり方になるがと前置きした上で呂布率いる騎馬隊が前面に出して直接対決に持ち込むと説明した。


「騎馬を誘い出すには騎馬で煽るしか手は無さそうだな」

「焔陣営には今しばらく我慢して頂く事に」

「構わん。戦場では軍師殿の命令が絶対だからな」

「幽州との戦闘が本格的になれば焔陣営の見せ場は必ず有りますので」


 高順は命令違反をしてまで焔陣営を動かす気はないので郭図の指示に対して素直に従った。幷州軍は臨機応変に動く事もあるが、急を要する場合に限定されていて高順以下全ての将軍が規律を遵守しており、呂布も前世で痛い目に遭った経験があるので他の将兵に規律遵守の重要性を説いていた。


*****


 呂布は騎馬隊と副将に付けられた張遼を率いて幽州軍陣地に向かっていた。


「呂布殿、軍師殿から策を聞いているのですか?」

「敵を煽るような口上を言うようにとだけだな」

「後は?」

「誘いに乗れば俺とお前で適度に暴れてくれと指示された。匙加減は任せると」

「難しいですね」

「難しく考えれば余計に悩むだけだ。今回は敵を見て殲滅出来るなら徹底的にやるが、無理だと判断したら適当に戦ったら退却するぞ」

「適当に?」

「そうだ。まあ敵将に恐怖心を植え付ける程度に暴れてやれば良い」


 敵の戦力を見極めた上で戦う事を宣言した呂布は事前に動かしていた偵察役からの報告を待ちつつ敵陣を目指した。


*****


「俺は幷州軍の呂布。ご覧の通り騎馬隊を率いている。幽州軍が誇る白馬義従と一戦交えたい」


 敵陣を前にして呂布は口上を伝えて相手の出方を待ったが反応は無かった。


「出てきませんね」

「仕方ない。煽ってやるか」

「白馬義従は我々に怖気づいて出て来れないのか?」


 呂布は馬首を返して自陣へ戻ろうとした時、敵陣から一隊を率いて出てくる者が視界に入った。


「待たれよ」

「ん?」

「我は常山の趙雲。公孫瓚に成り代わりお相手致す」

「張遼、行けるか?」

「お任せを」

「油断するな。奴は出来るぞ」

「心得ました」


 話を終えた張遼は呂布の前に出て趙雲と対峙する形を取った。


「某は幽州の張遼。貴殿の相手は某がさせてもらう」


 張遼は鉤鎌刀を構えると馬を走らせて趙雲に近付いた。趙雲も涯角槍を構えて張遼を待ち構えた。


「相手にとって不足なし」

「その余裕がどこまで続くか」

「大口を叩くな!」


 趙雲は鋭い突きを繰り出し、張遼はそれを防ぎつつ反撃を加えるが守りに重点を置いているように見えた。


「張遼もよく考えている。趙雲はその意図に気付かなければ負けだな」


 二人の戦いを見て呂布は勝敗を予測していた。趙雲は勢いで押しているだけで張遼に焦った様子はなく、時間を掛けて趙雲を攻め疲れに追い込んでから仕留める意図があるように思えた。


「攻め手に欠けるのか?」

「何っ!」

「某はこの通り無傷だからな」

「ふざけるな!」


 張遼に煽られて趙雲は激昂した。突きの鋭さは増したものの張遼に上手くいなされて攻めあぐねていた。


「そろそろだな」


 呂布が呟いた直後、張遼が突如猛反撃に転じた。趙雲は一方的に攻め続けた影響で疲労が溜まり反応が鈍くなっていた。


「そこだ」

「ちっ!」


 一瞬の隙を突かれて趙雲は涯角槍を叩き落された。慌てて剣を抜こうとしたが、薙ぎ払われて落馬した。


「無念…」

「無駄に命を捨てるな」

「何だと?」

「貴殿に興味を持った。殺せば後悔すると某の勘が言っている」


 趙雲はいつの間にか現れた張遼配下によって拘束されて幷州軍陣地に連れて行かれた。趙雲が率いていた部隊は慌てるように自陣へ退却したので緒戦は幷州軍の勝利に終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る