第四章 勢力拡大
第18話 幽州の使者
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「幽州から使者が来たそうだ」
「何の用で?」
「楽浪郡から薬草を買い過ぎたか」
「そんな事で文句を言われると思いませんが」
「買い過ぎなら止められるか抑制されるだろう」
「使者に会ってみないと何とも言えませんな」
幽州牧の公孫度が使者を送り込んで来た。突然の来訪で目的が分からず、その場に居た者は首を傾げていた。
「薛蘭、お前が州牧代理として会え」
「高順殿は?」
「儂は武官の長だぞ。それと口下手の儂に何が出来るというのだ?」
「分かりました。但し高順殿には監視役で同席してもらいますよ」
「任せろ」
丁原は未だ静養中である事から尚書令の薛蘭が代理として会う事になったが、使者が高飛車な態度に出るようなら睨みを効かせる者が必要になる事から逃げようとした高順も同席する事になった。
*****
幽州の使者は文官と武官の二人組だった。丁原が病気を理由に対面出来ない事を聞くと文官は仕方ないという態度だったが、武官の方は舌打ちをするなど無礼な態度を取った。
「州境で略奪を行っていた賊軍を捕縛したという話を耳にしまして」
「その通りです」
本当の事を伝えると問題になるので賊軍が州内に入り込んだので討伐したと出鱈目な内容を伝えた。
「賊軍は居なくなったと報告して宜しいでしょうか?」
「そう伝えて頂いて構いません」
「分かりました。州牧にはその内容で報告」
「賊軍は全て始末したのか?」
武官が話を遮るように割って入ってきた。
「その通りです」
「証拠を見せてもらおう」
「討伐してから半年近く経っています。既に処分しており残っておりません」
「証拠が無ければ信用出来ん」
「何が言いたい?」
武官の態度に腹を立てた高順が口を挟んだ。
「討伐したのではなく匿ったのではないか?」
「理由は?」
「賊軍が強奪した物資が拠点から無くなっていた」
「こちらの知った事ではない」
「白を切るなら幷州は賊軍を取り込み物資を強奪したと判断するぞ」
「勝手にすれば良かろう」
高順の顔を見た文官の顔は青ざめており深刻な事態になっている事を自覚している様子だった。
「それなら実力行使に出るぞ」
「実力行使?」
「一軍を送り込み真実を明らかにするという事だ」
「軍を動かす?それでは幽州牧が幷州牧に喧嘩を売ったと判断して良いのだな?」
「好きに判断すれば良いだろう」
「…」
高順は返事代わりに不気味な笑みを浮かべた。
「幽州牧に伝えよ。幷州軍の精鋭が州境で歓迎会を開くと」
「朝廷の権威を利用して名を上げただけの連中に何が出来る?」
「幷州軍が軟弱だと言うのか」
「異民族相手に修羅場を潜り抜けた幽州軍が負けるなどあり得んな」
文官は平身低頭で謝罪していたが、武官の方は一最後まで尊大な態度を崩さず幷州に対して事実上の宣戦布告をして立ち去った。
*****
「俺たちのせいで幽州に喧嘩を」
「馬鹿な事を言うな。幽州を手に入れる正当な理由が手に入った事を喜べ」
華雄と張燕が頭を下げようとしたが、高順に窘められた。
「武官の言う通り幽州は常に異民族の脅威に晒されていますが、それは我らも同じなので気にする必要はありません」
「自信に満ち溢れていたのが気になるぞ」
「確かに。雁門の候成殿に州境を固めてもらい、増援も送りましょう」
郭図は雁門に使者を送り出すと張遼を増援として派遣する指示を出した。
「張燕殿と華雄殿には晋陽を守って頂きます」
「留守番か…」
「気を落とさないで下さい。州境を越えれば活躍の場は幾らでもあります」
郭図は二人が賊軍の大将として州境付近では顔を知られている可能性が高いので敢えて外した。落ち込む二人に対して東に進めば活躍出来る機会は幾らでもあると説明して納得させた。
「高順殿、呂布殿、李鄒殿、曹性殿は出撃する準備を」
「焔陣営も喜ぶ」
「喜んでいるのは爺さんだろ?」
「訓練に明け暮れていたからな。ようやく戦が出来る」
高順と焔陣営は晋陽の守りに就いていたので異民族との小競り合いなどが起きても参戦出来ない為、実戦に近い訓練を行って勘を鈍らせないようにしていた。今回は指名されての出撃なので意気盛んになっていた。
「それでは高順殿に先鋒をお任せしましょう」
「軍師殿は話が分かる」
「某の指示に従って頂かないと」
「心得ている。軍の基本が守れないようなら将軍は務まらんからな」
上官の指示に従わない者は指揮官として失格だと高順は断言しつつ自らにも言い聞かせた。
*****
郭図が自宅に戻り幽州の地図を見ていると郭嘉が現れて近くに座った。郭嘉は療養の甲斐があって体調が劇的に回復して町中を歩き回れるまでになっていた。
「伯父上、戦ですか?」
「その通りだ。幽州から喧嘩を売られてな」
「幽州ですか。油断しなければ勝てますよ」
「聞いた話では一族の公孫瓚が騎馬隊を率いて向かうところ敵なしらしい」
「その騎馬隊が来るようなら厄介ですね。州境に馬防柵を設置しておく事をお薦めします」
「馬防柵?」
郭嘉は絵に描いて郭図に説明した。一般の柵より頑強な仕組みで作られており、騎馬突撃を防ぐものである。
「さすがは奉孝だな」
「お役に立てたなら幸いです」
「奉孝様、薬湯の時間ですよ」
部屋の外から女性の声が聞こえた。郭嘉の介護役と監視役を兼ねている蔡琰である。薬湯を飲まなければ恐ろしい説教が待っているので郭図は早く行けと促そうとした。
「蔡琰が呼んでいるので失礼します。伯父上、お気を付けて行って下さい」
「困った事があれば妻に聞けば良いから」
「分かりました」
郭嘉は一礼すると軽い足取りで部屋から出ていった。以前の郭嘉なら蔡琰の声が聞こえるとこの世の終わりだという表情になっていたが、最近はそのような事もなくなり、笑みを浮かべる時もあった。
「互いの呼び方が親しげに感じたが…。まあ時が経てば親しくなるだろうし、呼び方も変わるのだろう」
郭嘉が根負けして蔡琰の指示に従うようになったのだろうと郭図は思った。
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