【11/08】師匠と弟子
「うぉおおおお!? 死ぬかと思った!!」
間一髪。爆発した邸宅から俺たちは飛び出してきた。
【バスカヴィル】で俺たちをボール状に包むことで事なきを得たのだ。
邸宅は爆発の影響で半壊状態のようだ。
術師狩りはいったいどこにいる……!?
「出てきなよ、ルヴァン。まさか隠れて僕を倒せると思ってないだろうね?」
エリィが集まってきた野次馬たちの方を向いてそう叫ぶ。
そうか、他人に変身出来る術式を持っているなら、野次馬の中に隠れるのが一番良い。
だがこんな安い挑発で出てくるか……!?
しかし絶対の自信があるのか、フードを被った男が一人野次馬から出てきた。
フードを外すと、黒髪の美少年のようだ。やつがルヴァンか……。
「おやおや、師匠。なんとも情けない姿ですね」
「ああ、情けない弟子を止めるためにこんな姿になって戻ってきたよ」
「ふん、もう貴方の存在など必要ありません」
「……と言いつつ、わざわざマギーを殺したのは僕をおびき寄せるためだろ?」
「ええ、片付けはきっちりしておきたいタチでね!」
ルヴァンの足元から【バスカヴィル】とよく似た影の触腕が伸びる。
それはエリィの操る触腕と互いに弾き合い始めた。
ラッシュの比べ合いだ。
「ぐぅっ……!」
「ははは、どうしたおいぼれ! 若くなっても私には勝てないようだ!」
……エリィが押されてきているようだ。
しかし、わざわざその攻防を見守り続けるつもりはない。
俺は拳銃を構え、ルヴァンを撃った。
「ふん、いまさら銃でなんとかなるとでも!?」
当然のごとくルヴァンの【バスカヴィル】で弾かれたが──。
俺の術式はその程度では止まらない。
当たった箇所から侵食を引き起こし、コントロールを一部奪ってみせた。
さらに二発、三発と連続で撃ち出す。
弾かれるたび、侵食の箇所が増える。
侵食された分ルヴァンの動きが鈍り、エリィの方が優勢になり始めた。
「っ!? こいつ……! 私の邪魔を──するなぁああああああああ!!」
ルヴァンが右手をこちらに向け、炎弾を放ってきた。
エリィに防御するリソースはない。
俺は弾丸を地面に放った。
地面が俺の霊力に侵食され、土が凄まじい勢いで盛り上がる。
土塊によって作られた腕によって、炎弾を防いだのだ。
「なっ──!?」
「ふふ、なかなかやるだろう彼。僕の自慢の弟子さ。君と違ってね!」
エリィの【バスカヴィル】がルヴァンの腹部を貫いた。
とっさに腹を抑えるルヴァン。もはや【バスカヴィル】はコントロールできてない。
その肩に向けて、俺は銃弾を打ち込んだ。
「ガッ!?」
「これでおまえの霊力は俺の支配下だ。錬金術はつかえねーぞ」
「クソッ! このおっさんが……!」
周りに隠れていた捜査官たちが集まってきた。
ルヴァンを取り押さえ、手錠をかける。これで一件落着のようだ。
エリィがルヴァンへと近づいていく。
「ルヴァン……なぜこんなことを?」
「貴方は……私を認めなかった! 私の才能を! これほどまでの才能があるというのに貴方は飼い殺しにしようとしたんだ! 世界を手に入れられる力だと言うのに……!」
「才能に溺れたわけか。いかにもガキくせぇ動機だな。連れて行け」
ルヴァンがパトカーに入れられる。
これで術師狩りの件は一件落着……と思いたいが。
確認するようにエリィを見ると、なんだか悲しいような、虚しいような表情をしていた。
「僕のようなおいぼれが人を導こうなどというのはおこがましいことだったのかもしれないね」
「ハッ、何を今更」
頭を掴み、撫でる。
被害は出たが、あそこまで躊躇のない犯人を野放しにし続けていれば、もっととんでもない事になっていたかもしれない。犯人を捕まえられたのは、エリィが囮を務めたおかげだ。
……まぁ、俺も勝手に囮にしていたのはどうかと思うが。
「またバーでストロベリーサンデーでも食おうぜ」
「……スミス、ちょっとは自省しないと糖尿になっちゃうよ。もう若くないんだしさ」
「うるせぇな、ロリジジイが」
戻れば多くの事務処理と仕事が待っていることだろう。
俺は今日の仕事をほっぽりだし、いつものバーに向かうことにした。
エリィと一緒に。
──完──
【悲報】死んだはずの師匠が銀髪美少女になって戻ってきたけど、なんか”女”に目覚めている件【どうして】 薄塩もなか @Noumiso_Coneco
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