【11/08】新たな事件
新たな犠牲者は俺の姉弟子マギー・マクライア氏だ。
つまり──師匠の元弟子だった人物。彼女がどういう人物かは正直知らない。
俺よりも重要参考人としてついてきているエリィの方が詳しかろう。
事件が発生したというオルレイ市の郊外に向けてパトカーを走らせている中、助手席で辛気臭そうに風景を眺めているエリィに話を聞いてみることにした。
「マギーさんについて知ってることはあるのか?」
「ああ、もちろん彼女についての記憶は僕の中に残っている。当時はとても美人で……僕も恋に落ちたものだよ。まぁまぁそういう関係になったこともある。と言っても元の身体の話だけどね」
「ふん、おまえは師匠の記憶を持ってるタダのホムンクルスだろ」
「酷いこと言うなぁ。君への気持ちは本物なのに!」
けっこう憤慨したようで眉を潜ませて、こちらを睨むエリィ。
だが俺にデリカシーがないのは昔からだ。こんなことで憤慨されても困る。
それに俺だって、騙されたという気持ちが少しもないと言うと嘘になるのだから。
「そういえば、なんで師匠はおまえを女に作ったんだ? どうせ自分のコピーを作るんなら同性の方がいいはずだろ? それとも師匠には女体化願望があったのか?」
「いや、単純に地盤にした研究の問題さ。男と女を作る工程は錬金術だとまったく異なっていてね。コルゴー氏は男性のホムンクルスを作る研究はしてなかったんだ。あくまで自分のコピーを作る目的でやっていたからね」
エリィが指をくるくると動かしてみせる。
何やらわかりやすいように図式を描いて見せているようだが、全然わからない。
空に絵を描くインクでも持ってこいという話だ。
「つまり女のホムンクルスしか作れなかったってことか……」
「技術的にも、男のホムンクルスは難しいんだ。特に金玉の箇所がね」
「金玉とか言うな」
「恥ずかしがるなよ、僕と君の仲だろう?」
「おまえとは数日の関係性だよ」
「もう! つれないねぇ!」
ジタバタと手足を動かして駄々をこねるエリィ。
しかし俺はそんなエリィを無視して運転に勤しむことにした。
やがて──事件現場であるマクライア邸へとたどり着いた。
既にいくつものパトカーが停まっている。捜査官が集まっているようだ。
「よし、入らせてもらうとするか」
「入れるのかい?」
「一応、一級捜査官だからな。おまえも特例で入れる」
「話が早いね。それじゃあ入らせてもらおう」
中に入ると、無数の捜査官が忙しなく動いている。
エリィを見て止めようとする者もいたが、俺が事情を説明するとすんなり引き下がってくれた。
一階リビングに入ると、すぐさま死体を見つけることが出来た。
ビニールシートで覆われているのでそれを取ってみると……うへぇ、今までの術師狩りのように頭が弾けてやがるな。これは同一人物の犯行と見ていいだろう。
「ふむ、どう見る?」
エリィがビニールシートの中を覗き込む。
うへぇ、と可愛らしい声を出すがすぐにいつもの調子に戻った。
「間違いなく君の弟弟子──ルヴァンの犯行だろうね。彼は敵の体内に侵入し、脳を食らう寄生虫を操る術式を持っていた」
初耳だよ、クソッタレ。
そういうのは事前に共有しておくべきじゃないのかな。
このアマ、ジジイの頃から秘密主義で困る。
「属性は──木と火ってところか? 珍しい属性でもないだろう。なんで弟子にしたんだ?」
「君と同じ三重属性だったからだよ。彼の場合は火と木と水だった」
なるほど、二重属性ならそこそこいるだろうが、三重属性は稀だ。
しかし三重属性なら寄生虫を操るだけの術式で済まないはずだが……。
「脳を食らった寄生虫を取り込むことで、相手の記憶を読み取り、一時的に属性や術式を取り込むことが出来たんだよ。彼は」
「…………ジジイ、それもしかして悪用した?」
「商売敵や貴重な情報を持った錬金術師にけしかけるのに最適だよね」
ガシリ、とエリィの頭を掴み、そのまま力を入れる。
エリィは逃れようと俺の手を掴むが、脆弱な少女の手では逃れることが出来ない。
「あだっ!? あだだだだっ!? やめなよ! 僕の貴重な脳髄が壊れちゃうだろ!」
「これぐらいでは壊れないわ。で、やったのかやってないのか」
「僕は命令してない! けれど錬金術を扱えるようになって彼が暴走していったのはたしかだ! 僕もまさかとは思ってたさ! 自分自身が死ぬまでね!」
「聞きたいんだが、脳を食われると
「おっ、いい質問だね。おそらくこの肉体は僕が万が一に備えて用意していたスペアだから……最新の情報まではダウンロードできないと思うんだよね」
エリィから手を離してやった。
だがまだ聞いておきたいことはいくつかある。
「その弟子について知ってることを洗いざらい吐け。外見もだ」
「無駄だと思うな。犠牲者のリストを見るに彼は姿形を変える術式を取り込んでいる。だから僕も君に情報を明かそうと思わなかったんだ」
「なんでだよ」
「君が必要以上に警戒してたら僕たちが囮にならないだろ?」
「じゃあなんで今明かしてる」
「今、明かす必要があるからだよ。ほら来た」
周りにいた捜査官が突如として拳銃を構えて、こちらを射撃してきた。
エリィの【バスカヴィル】がドーム状に展開し、それらを防ぐ。
次の瞬間、【バスカヴィル】の触腕が捜査官たちを拘束した。
だが、捜査官たちの腹がみるみる内に膨らんでいき──。
「おっと、まずい」
俺たちは爆発に巻き込まれた。
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