飽きられたくない

わたしは自分語りが大好きだ。


まあ、エッセイとやらを書き綴り始めたのだから、そうだろうな。


でも。


わたしはきっと、君が思うよりも自分語りさせてもらう。



きっときっと、飽きるだろうから、



まずはわたしの怖い体験談をしよう。




この話、友達や知り合いにすると、意外と良い反応が返ってくる。


まあ、そんなに期待せずに読んでほしい。






その体験をしたのは、わたしが中学1年生の1月上旬。



午前1時ごろ。


雪国に居たわたしは、母と、ある湖へ車を走らせていた。



雪国の午前1時だ。


当然外は真っ暗で、わたしは木の壁を何時間と見続けていた。



この頃は誰かとすれちがう事が出来るゲーム機が流行ってたが、わたしの家は午後9時までのルールだったので、わたしは母が流す歌謡曲に飽き飽きしながら外を見つめていた。



朝の6時になれば、別の所からやって来る友達と、そのお母さんと、母とわたしで、ワカサギ釣りだ。



中学1年生の可愛らしい女の子だ。


2、3時間で飽きるのは目に見えている。


それでも、久しぶりに会う遠方の友達と、どんな話しをしようか。


どんな話がきけるのだろうか。


わたしはワクワクしていた。




母の大好きな歌謡曲トラックも3周目の頃。



全部で2車線しかない山の中の道路の奥に、何かが見えた。



それは、母の方。つまり運転手席側の道路に立っていた。



ちょうど、2車線を分ける白線の上に立っているのだ。



30メートル先の方で、わたし達の車のライトに照らされていた。



そのまま通り過ぎれば、跳ね飛ばしてしまうのは、確実だった。



だが、母は気にも留めていない素振りでいた。



「ママ、あそこ人いる」



わたしはただ一言だけ、母にそう言った。


母は、


「どこさ。こんな夜中にいる訳ねえべや」と、いつもの調子で言った。



母は普段から冗談こそ言うも、常識はある人だ。と思う。



さすがに、母も冗談を言っているのだろう。


わたしには知らないふりをして直前で停止して、あそこに立っているバカに注意するのだろう。



3秒ほどの時間の中で、わたしの頭はものすごい循環をした。



けれど、そのバカに近づいても車のスピードは落ちなかった。




だから、「何言ってんの、すぐそこにいるでしょ!」と、



半ば泣きながらわたしは叫んだ。



母が殺人者になってしまうのを恐れた。


ものすごい衝撃がわたし達に覆い被さってしまうのを恐れた。


バカとはいえど、目の前で生き物が死んでしまう様を見たくなかった。




突然だが、わたしは今まで、白線の上に立つものの言い方を少しずつ変えてきた。



中学生の国語の授業で使われそうな技法だ。


この技法に名前があるのかは分からない。



大好きな恋人と結婚すれば下の名前で優しく呼びかけ、


子供が産まれれば、「パパ」「ママ」に変わり、


子供が巣立てば「お前」「あんた」に変わる。



わたしは白線の上に立つ奴と恋人になる気は、さらさらなかったが



近づくごとに、わたしはそいつと離れたくなった。



そいつは車が近づいても、ピクリとも動かないのだ。


そして、そいつは人ではなかった。



人間の性別に例えるのであれば、そいつは女だろう。


そして、全身が濃い緑色なのだ。


髪の毛は白く、前髪は一切ないロングヘアだった。




人間で言う額のあたりは、幼稚園児が作った泥団子が貼られたように、でこぼこだった。顔は別に怖くもない。唇が紫色で、肌が緑色なこと以外、人間と変わらなかった。



身長は、当時乗っていたファミリーカーの窓と同じくらいなので、160〜170㎝くらい。


そいつは、紫色のノースリーブワンピースを着ていた。



こんなにつらつらと文字を並べているが、そいつを見つけてからこの時点まで、10秒くらいしか経っていないだろう。




この10秒間の衝撃は大きな太鼓を叩いたようにわたしの心臓を鳴らしたが、そいつが私たちとすれ違う時に、さらにわたしは苦しんだ。




わたしは、そいつの顔を見ることしかできなかった。


声も出なければ、行動もできない。体が動かないのだ。



そいつは、すれ違う瞬間、母の顔を、じっと見つめていた。



こう言う時は、わたしをじっと見つめるのが、怖い話の展開というものだ。



だが、わたしは存在していないようだった。




サイドミラーをスレスレで通過したくらい、わたしの母だけをじっと見つめていたのだ。




そいつは、すれ違っても追いかけては来なかった。


ただ、私たちの車をじっと見つめていた。



わたしは気を失ったのだろうか。



気がついたら、湖の近くのコンビニに着いていた。



母が、わたしの名前を何度も呼んでいた。


わたしは起きると同時に、ものすごい汗をかいていることに気づいた。



「トイレ行ってくるけど、ほしい物ないの?」と母が言った。




いつもなら食べ切れないのを分かりきって、グミやジュースを買ってもらうのに、わたしは「いらない」と、一言だけ言った。




母がコンビニに入ると、さっきまでの出来事が全て夢だったんだと気づいた。



成人を迎えそうな年齢になれば、自分が見ているものは夢かどうか寝ながら判別できる様になったが、中学生のわたしには難しかった。



ただただ、母と、わたしと、コンビニのレンガが現実と夢の違いを認識させてくれたのだ。



わたしは、なぜあんな夢を見たのだろう。


何か精神的に困っているのだろうか。


気づいていないだけで、物凄いストレスを抱えているのかもしれない。



わたしは、月2ギガしかなかったスマホを取り出し、近くの旅館の無料Wi-Fiを使いながら検索欄に文字を打った。



「夢 化け物 見つめてくるだけ」



1番上に出て来た夢のまとめサイトは、なんだかわたしの見た夢にピンポイントで当てはまる内容だった。



このサイトは、今調べても出てこない。


だから次の文は、わたしの記憶から引っ張ったニュアンスで書いてある。



・化け物は悪いアクシデントを連想させる

・追いかけてこないのは、そのアクシデントが一瞬のことだからだ

・動かない、襲おうとしないのは、アクシデントの後に幸福があるからだ

・夢を見た者には直接的な被害はなく、被害を受けた者の巻き添えになる



特に最後の文章は、10年近く経った今でも一語一句覚えて居るほど印象的だった。



無料Wi-Fiのせいでアクセスが悪い事にイライラしながらも、わたしは「どうせ夢だ」「今日帰るまでに事故に遭わなかったら、迷信だろう」と謎な条件を立てまくって、この件は忘れる事にした。



ワカサギを100匹以上釣り、何事もなく、ほくほく気分で地元に帰った。


あれから友達とのLINEも進みまくり、冬休みは明け、いつもの日常を過ごしていた。

好きな男の子が髪を切っていてキュンキュンしていたものだ。



でも、夢は夢では終わらなかった。



1月下旬



父と母が、離婚することを知らされた。


やっとワカサギを食べ終えた頃だった。



わたしの父と母は、仲が悪いわけでもなく、普通だった。


喧嘩を見たこともあるが、仲良く笑い合っている方が印象に残っている。




だから、離婚するなんて気づきもしなかった。



離婚すると聞いた時は悲しかったし、「離婚しないでほしい」と口にも出した。


わたしのエッセイに両親の事情を書きはしないが、それぞれに理由があったのだろう。



両親を口を揃えて、夫婦ではなくなるけれど、死ぬまでわたしの父と母だと言ってくれた。

わたしの反対する理由は、その言葉でなくなった。


当時、母子家庭やひとり親に抵抗はあったが、父と母のそれぞれの人生はそれぞれのものなので、わたしは次の日には母方の祖父母と暮らせることにウキウキしていた。



当時、父の職の転勤で田舎に住んでいたが、わたしの出身は雪国1番の都会だ。



都会に戻ったら、好きな男子を眺めることは出来ないし、学年30人の学校から120人の学校へ転校するのだ。目立ちたがり屋のわたしには、ストレスでしかない。


父と暮らせないことに悲しみもしたが、好きな男子の中で「儚い女」になれたり、新しい学校では「転校生」という美味しいポジションが手に入るのだ。



わたしは自分の人生の波乱を楽しんでいたが、ふと気づいた。


先日の夢は、夢という言葉で片付けられないほど、わたしの中で大きくなっていた。




悪いアクシデント、一瞬のこと、その先にある幸福、巻き添え



親の離婚に「巻き添え」という言葉は生意気に聞こえるが、よく考えると全てが当てはまっている。


化け物が母を見つめていたのにも納得してしまった。




わたしはこの事件を機に、夢の中の出来事が現実と結びつく体験を3年に一度のペースでするようになった。



別にびっくり人間なわけでも、霊感があるわけでもない(と思う)。





ただ、英雄になってくれたきみに、少しでも「面白い」と感じいてほしい。



本当にノンフィクションの話だが、どうだろうか?




わたしは国語の成績が良かったわけでもない、ただのパンピーだ。


社会に出て、暇な夜を大好きな自分語りをして過ごせて、君に読んでもらえてとても嬉しい。



また頭の中で文章がまとまった頃に、書かせてもらうよ。

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“わたし”という人間 白玉春花 @siratama-0409

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