第2話 私は強くなるんだ
それから私と幹也は家の中にある使えそうなものを集めた後に集落を見て回ることにした。
私から見て要らないものでも、幹也が見ればいる物が有るかもしれないからだ。
歩いてる最中に周りを気にしながらお互いにスキルについて話すことに。
これから一緒に行動するのに、お互いのスキルがわからないのはマイナス要素でしかないからだ。
勿論他人にスキルをホイホイ教える気はない、幹也だからだ。
「私のスキルは 狂い咲き、備蓄、召喚だ。狂い咲きと召喚についてはまだよく分かっていないが、備蓄は一度でもそこへ食べ物を入れると同じものが無限に出てくる便利な物だったぞ。食べ物だけだがな。
狂い咲きについては広範囲でMPとHPを吸い取る技らしいから使う場面は考えないと良くなさそうだ。吸い取ったものは譲渡もできるらしいから、良いといえば良いかもしれない。
召喚については魔石が必要としか今はわからないな。」
「ええー?それ最高すぎないか?ずるく無いか?…俺なんて 魔法使い だったぞ。」
「魔法使い?」
「そうだ、魔法が使えるようになった」
そう言いながら幹也は指先から『ボッ』と、小さな炎を出した。
「ライターと考えれば便利だな」
「いやいや、威力最小だからこれ!」
「最大にした事が?」
「いや、まだないよ?だって怖いじゃん?」
私はその言葉を聞いてつい笑ってしまった。こいつは少しビビリなとこがある男だったなと。
炎しか出せないのか聞くと、水と炎と氷は使えたらしい。
MPはどの位必要になるのか聞いたが、MPは今の所減った試しがないらしい。
(代償もなく魔法を使える時点で素晴らしいのだがな、これはスキルだからなのか?いや、私のスキルの狂い咲きと召喚にはMPが必要だった…備蓄はMPが必要無かったな。この差はなんだ?)
そしてお互いに話し合った結果、この村は古い建物も多く周りは木が多いので、幹也は水と氷で戦おうとなった。
私は近距離系なので関係無い、ただしあまり無闇に突っ込むなと言われた。
(それにしても魔法か…良いな。
私は刀で幹也は魔法、近距離と遠距離か…これはどう言ったスキルの配り方なんだろうか?
適正が…とか言ってた気がするが、私は刀なんて触ったことは無いのだが…。
勿論剣道部だったわけでも無いしな、わからない事だらけだな。)
そんなことを考えつつ、次の事を幹也へ話してゆく。
「では、次に何か魔物がいたら魔法を使って倒してみてくれないか?」
「オーケーオーケー」
そんな事を話しながら別れ道を右へとまがる。ちなみにここを左へ曲がると街へ続いてゆく。
「お、そいつは魔物じゃないか?」
私がそう言うと、幹也も自動販売機の横でゴソゴソと何かしているゴブリンを見た。
幹也に目線をやると、幹也はとても嫌そうな顔をしながらコクリと頷いた。
幹也はため息を一つ吐いた後、深呼吸をしてから行動を始めた。
「んじゃぁ、だんだん威力上げてく感じで…」
そう言いながら幹也はソレに向かって指先を向ける。
ヒュン
「ギギ!」
氷の粒が頭に当たった。ゴブリンは私達に気付き、ちょっと怒っているようなそぶりを見せる。
「小石が当たったぐらいだな」
「うへぇ」
私がそう言うと、幹也は『あいつ怒ってるんだけど…』と言いながら次の魔法を撃つ。
ヒュン
「ギ!」
先ほどよりも強めに当たった氷の粒にゴブリンは少しだけ後方へよろけた。
「軽く殴ったぐらいかな」
「えぇー」
幹也は眉毛をハノ字にしながら次の魔法を撃つ。
ビュン
「グガッツ!」
ゴブリンの頭が凹んだ。
「あれは…鉄の棒で全力で打ったぐらいか?」
「いやぁああ」
あまり見ていたく無い風貌になってしまったゴブリンに、幹也は情けない声を上げながら次の魔法を撃つ。
バンッツ
ソレの頭が無くなった。
「あぁ、ソレが一番いいな」
「ヒェええ」
頭部が綺麗さっぱり無くなったゴブリンを見て、幹也は両手で顔を覆い、ヤダヤダと顔を左右に振っていた。
「…そういえばお前は気持ち悪いことが嫌いだったな」
「最低な日だ。」
急にピタリと動きを止め、真顔でそう言いだした幹也。
そういえば幹也は昔から気持ち悪い事が嫌いだったなと今更思う私だった。
私も幹也も同じ19歳なのだが、どうしてこうもテンションが違うのか…私が年寄りなのか?
私は妹によく言われていた『おねえちゃん、テンション低すぎ!ばばくさい!』と言う言葉を思い出し、少し悲しくなった。
落ち着いていると言って欲しい、大人の魅力に溢れているんだと思いたい。
「一先ず、魔法の威力は知れたのでいいとしよう。」
「俺の心は全く良くないけどね…」
「まぁ、最後のやつでやれば見なくて済むだろう?」
「ないのも嫌なのっ!」
半泣きになりながらそう言う幹也だが、これは猫をかぶっている事を私は知っている。だからこの話は軽く流す。
まぁ、本気で嫌がっていたとしても、ついて来ると言ったのは幹也なので気にしないが。
少し歩いていると、先ほどのゴブリンの頭だけが転がっていて、幹也がそれに気づいた瞬間ものすごい勢いでそれを森の方へと魔法を使って弾き飛ばしていて、不覚にも笑ってしまった。
「これからの事だが、この村の中を全部回ろうと思うのだが…まず最初に行くのはスーパーでいいか?
この先どうなるかわからないから、中にある食べ物全種類を備蓄に入れときたい」
「あいよあいよ。俺も欲しいものあるし、そういえばその備蓄で出したものは俺の食料ボックスに入るのか?」
そう聞かれた私は確かに気にもなるので備蓄から水の入ったペットボトルを出し軽く投げる。
幹也は運動神経が良いので、適当に投げてもきっと取ってくれるだろうと思ってのことだ。
「おっと…うん。入るね。それなら時間ある時でいいから俺のために食料何個か出してくれない?もしはぐれた時に持ってるのと無いのとじゃ生存率が違ってくるし」
そう言われた私は『確かにそうだな』と言って歩き出した。
(食料事情は私のスキルがあるから良いとしても、どうしたものかな…)
私は歩きながらこの後の計画を脳内であーでも無いこーでも無いと考えるのだった。
15分ほど歩いている間にゴブリンらしき魔物に8回遭遇したし、小さいウサギのようなものにも3回出会った。
一見普通のウサギかと思ったが、目が宝石だったのだ。
そのウサギを倒したらドロップアイテムとして『ルビーウサギの宝石』を二つ手に入れた。…多分目のとこの宝石だな。
何に使うのかはわからないが、この先使うのだろう。
その頃には私のレベルは3になっていた。聞けば、幹也も3レベルになったと言っていた。
(レベルが上がっていくが、レベルが上がるとどんな恩恵が受けられるんだ?後で幹也と調べてみないとな)
そんなこんなでこの村唯一のスーパーに到着した。
このスーパーは一階部分がスーパーで二階がおばちゃんの家になっている。
建物は古いが、おばちゃんの几帳面な性格が出ていてとても良い状態である。
店の周りに咲いている花もおばちゃんが趣味で咲かせているのだ。
『おねぇちゃん、私都会のスーパー行ってみたい』
『ここは一軒家ほどの大きさのスーパーだが、品揃えは侮れない。おばちゃんの手作り料理も並んでるし…他のスーパーでは味わうことのできない家庭の味だぞ?』
ふと、テレビで見た都会にある大きなスーパーに憧れていた妹が、私に言った言葉を思い出し、隣に妹が居なくて切なくなった。
(こんな事になるのを知っていたら、何回でも連れて行ってやったのにな…妹が戻ってきたとして、行きたがっていたスーパーは果たして機能しているのか…?していないんだろうな…。)
この先の事を悲観するつもりは無いが、今まで通りとはいかないだろうと思い、更に気持ちは沈む。
スーパーの扉に近づいてみると、いつもの様に商い中の札がドアの横に掛かっていた。
カラカラと軽い音を鳴らしながら扉をスライドし、中へと入ったのだが、いつもならレジ前に座って声を掛けてくるおばちゃんがそこに居なかった。
いつも出かける時は入口のドアを施錠しているので、二階にいるとは思うのだが…。
「幸いと言っていいのかわからないが、一先ず備蓄に出し入れしていくからな。誰か来たら教えてくれ」
「あいよー」
そう言いながら私は備蓄品を充実させるために出し入れを繰り返す。
物を取りたいわけじゃないので、これで十分なのだ。
おばちゃんが居ないことで、言い訳などをしなくて良い。それは私にとっては良いことなのだが、何となく嫌な予感が頭をよぎる。
「なぁ、私の妹は無事だと思うか?」
私は幹也に話しかける。
頭の中によぎった嫌な予感を忘れてしまいたかったからだ。玄関の扉は閉まっていた、割れても無いし商品棚も荒れていない。
「わかんねーけどさ、保護してるって言うんだから今は信じるしかねーんじゃねーの?俺の弟も多分同じとこにいるんだし…きっと大丈夫だろ」
そう言った幹也も私と同様に10歳の弟がいる。私の妹は6歳で、歳は少し離れているのだが幹也の弟にはとても懐いていた。
きっとお互い見つけたら一緒に行動するだろう、そう思うと少し気持ちが楽になった気がした。
そうだ、妹はきっと今の私と同じで…一人では無いはずだ。
そんなに時間をかけることもなく食品を備蓄に出し入れすることが出来た。
これでいつでもおばちゃんの栄養満点の手料理が食べれるようになったのだ。
(この備蓄スキルは良いな。食品のコピー能力だから次からはコピーと言うか)
そんな事を考えながら、店の中にある大きなスコップやクワなどを見る。
こういったものは、今の私に必要な気がするので購入したいと思う。
「あとは、おばちゃんを探して売り物を何個か売ってもらえないか聞こう。」
私は幹也へそう言い、おばちゃんの自宅部分にあたる二階へと向かった。
…この先何が待ち受けているのかも知らずに。
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