そして世界は反転する




私が『召喚した動物をどうしたものか…』『召喚獣と呼ぼうか』など召喚獣について頭を悩ませている間、幹也は一人公民館の中を物色してくると言いフラフラと奥の方へ行ってしまった。




そして、召喚獣と意思疎通がどこまで出来るのかなど一通りためし終わった後、ふと自分の後ろに大量のものが置いてある事に気づいた。


幹也が色々な場所から持ってきたのであろうが、私はそれに全く気付くことができなかった。


最初に出した蝶の召喚獣に『私の周りに幹也以外が近づこうとしたら教えてくれ』と命令しておいたので、特に周りに気を使わなかったからだろう。


結局動物たちには『魔物がいたら教えてくれ』『食べ物があったら教えてくれ』『誰か人がいたら教えてくれ』などの単純な命令はできることがわかった。


だが、『魔物がいた時に誰か近くに人がいた場合、その人が安全に逃げられるようにサポートしてくれ』などの具体的な命令は首をかしげるしかしなかった。




(ふむ、これは成長と共に良くなるのか、現状維持なのかによって対応が変わってくるな)



そんな事を考えながら置いてあるものを見てみると、食料品が数種類とロープやガムテープなどの備品が多数あった、私は備蓄スキルでそれら食料をコピーしつつ幹也のために何個か同じものをそこへと出してゆく。


ちなみに水とカロリーメイト類は少し多めに出して置いておいた。



(よし、あとは幹也が帰ってきたらこれをアイテムボックスに入れてもらうだけだな)



そんな事を考えながら幹也を待ったが、一向に帰ってくる様子はない。



(幹也は何をしてるんだ?何か見つけたか?…探すか。)




一向に帰ってこない幹也に対し、そう結論付けた私は召喚した動物たちに『自由にしとけ』と命令をして矢印が指している方へ向かう事にした。



(召喚した動物の消し方?還し方?がわからないから自由行動させておこう、それがいい。そばにいられても困るしな)


自分の周りに蝶の魔獣だけを残しフラフラと探し歩く。



(幹也のいる方向はわかるが、どのくらいの距離かわからんのが困るな)



そんな事を考えつつ幹也を探すが、公民館の建物のどこにも見当たらない。…目の端にある矢印に向かって歩くが、幹也はどこにもいない。


ふと、公民館の裏に倉庫があった事を思い出し、私はそこへ向かう事にした。



公民館の裏にある倉庫が見えてくる、長い間使われているので外観はボロボロだ。周りには草や蔦がびっしりと生えている。


…かろうじて出入り口だけは草が駆られてる。



その倉庫の中に私が入ると矢印が消えた、けれど周辺を探してもそこには濁った水溜りしかない。…誰もいないただの薄暗い倉庫だった。





その時、私の肩に何かがぽたりと落ちてきた。私がそれを指で触ると、水の様だった。



(…いや、これは血だ。)



私がソレを血だと認識した瞬間、心臓の音が不意に大きくなる。




それは多分、私にとって絶対に見たくないもので。


それは多分、私が絶対に認めたくない事実で。


それは多分…私を容易く絶望に誘う様な事だろう。




いつまでも帰ってこない幹也、矢印の先にある水溜まり、そこに居ないのに消えた矢印…そして、私の上から垂れてくる血。



見たくない。見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない。


何がある、何がある、何がある、何がある、何が…あるんだ?



耳鳴りがし始める。周りの音がやけに大きく聞こえる。私の肩に…また血が落ちてきた。



そして 私の視線が ゆっくりと 上に移動する。





「…お前はなんでそんなところにいるんだ?」





私が見上げたそこには、なんでだろうな?…なぜか幹也がいたんだ。



「は、ははは…はははははははは…。」



私の乾いた笑い声が倉庫に響く中、幹也は天井に張り付き、濁った目で私を見ていた。



糸の様なもので全身を絡め取られている幹也の目は身開かれたままで、これから先二度とその瞼が閉じる事はないだろう事が分かる。



いつも私に沢山の言葉をくれていた幹也の口から ぽたりぽたり と血が落ちて私の肩に掛かる。




「お前は…なんで…そこに、いる、んだ?」



私の震える口から馬鹿みたいな言葉が吐き出される。…何度同じ問いをしたって意味のない事だと理解しているのにだ。




理解していても、頭がソレを拒む。


その事実を認めたくないから、認めなくてもいい理由を探す。


探しても探しても見つからないソレに、私の心はいとも容易く引き裂かれる。





「おろ、お、おろさなきゃ…。幹也、を。下ろす。」


止まらない涙と激しい動悸、うまく呼吸ができなくて手足の先が痺れてくる。そんな状態で喋る言葉はただの音として倉庫内に響いている。


私の周りを忙しなく飛ぶ蝶の召喚獣が視界の端に入るが、そんなことはどうでもいいとその蝶を手で追い払う。



私が幹也に向けてゆっくりと震える手を伸ばす。




その行動は、子供が母親に縋るかのように。


その行動は、人が神に祈るかのように。


その行動は、無くしてしまった何かを取り戻すかのように。




…だが、無情にも私の手は幹也には届かなかった。その理由は単純明快だ、幹也がこうなった原因がここにいるからだ。


カチカチ…後ろから何か音が聞こえた気がした。そして、




いつの間にか私の後ろにいた蜘蛛の大型魔物に。








『ガガ…エラー。retry。再接続します。ガガ…ガ…。era-。リ、リリ…ガ』







そして世界は反転する。

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