ハンサムスタイル

@ramia294

 

 繰り返す失恋と、巡る季節。


 僕は気付いた。

 失恋のだびに、髪が抜けている事に。


 髪が全て無くなる前には、恋人が出来るだろうと気楽に構えていた。


 しかし、あれからも僕の輝かしい?失恋記録の更新は止まらず、今に至る。


 桜の花は、春を迎え

 空いっぱいに花を咲かす。

 吹く春風、

 降る花びら。


 ハラ、ハラと落ちる花びら

 パラ、パラと落ちる髪の毛


 春風に、怯える僕の頭部。

 押さえる手のひら。

 散る花びら。


 そもそもの始まりは、

 僕の家から歩く事、十五分、

 大きな神社があり。

 縁結びの神さまの住まわれる

 素敵な散歩道のゴール。


 今年の初詣、

 縁結びの神さまに、願った。


『神さま、失恋の涙はもう枯れました。今年こそ恋人が出来ます様に』


 毎年同じ願い。

 毎年同じ祈り。


 遅い、春の訪れ。


♪迷子の、迷子の、僕の春、

 あなたの居場所は、どこですか?♫


 独り身には、

 温もりの春一番も

 凍える木枯らしも

 同じく身にしみる。


 神さまに、願い届かず。

 いや、勘違い?


『神さま、失恋の涙はもう枯れました……』


 まさかの……

 勘違い。


 僕の失恋の痛みを癒やす涙をポロポロ。

 枯れた涙の代わりに、髪をパラパラ。


 神さま。

 それでは、失恋の痛みは癒えません。


 僕の失恋記録は、順調に積み重なり、

 やがて髪も枯れ果て、


 ツルツル!


 恋からは、ますます遠ざかり、

 巡る季節に、孤独の時間を刻み込む。


 再びの初詣。

 滑りの良い頭と冷たい風を通すニット帽。

 お賽銭と恨み言。


『おかげさまの、このルックス。

 おかげさまの、引かれる視線。

 僕の人生の恋の季節の訪れを諦める事が出来そうです』


 思った結果ではありませんでしたが、僕は恋を諦める事にしました。


 ところが、ところが……、


 眼の前に、絶世美女が降臨。

 心奪われる僕。


『私が神さまです。ごめんなさい、まさかここまで失恋記録を伸ばされるとは、予想外でした。こんなに御縁に恵まれないあなたの髪を今更戻してもこの世界では……』


 辛辣なお言葉。

 残酷な真実。

 心折れる僕。


 神さま、いや女神さまは、僕を異世界へと、誘いました。


「僕はトラックに撥ねられるのはゴメンです」


「それでは、その件は割愛しましょう。この鎧と剣であなたは勇者になりなさい。そして私のこの姿を記憶しておきなさい」


 というわけで、僕はトラックとは無縁で、異世界へ。


 その世界は、光の国。

 しかし、ウル○○戦士が活躍する理想郷には程遠く、魔獣が人間たちを襲う世界。


 ドラゴンやグリフォンが、火炎の代わりに光弾を吐き、その世界の人間を含む全ての命を蒸発させていく恐ろしい世界。


 人々は、中央の城と巨大な壁で砦の街とし、その身を守ろうとしていたが、空飛ぶ魔獣には無力。

 光の矢と魔法使いたちの使う光弾では、ドラゴンたちにとって、かすり傷程度にしか威力がなく、恐怖の象徴だった。


 それより、僕に問題なのは、

 この世界の住人のほとんどが、イケメンと美女だということだった。

 サラサラの髪は、金や銀、栗毛、漆黒など誰も彼もタップリとした毛量を持ち、ツルツルの僕は恥ずかしくて兜を外せなかった。


 この世界にも僕の恋人は、見つけられそうになかった。


 女神が僕に与えた鎧は、鏡の様に磨かれた煌めきの鎧。

 この世界の全ての魔獣の放つ光弾を弾き返す。

 剣は某有名SF、スペースオペラのライト○ーベルの様に輝きを放ち、ドラゴンの鱗すら切断した。


 この世界では、幾つかの砦の集まりを街と呼ぶ。

 街を統べる王。

 その娘の王女プリンセスを執拗に狙う魔獣ケルベロス。


 街を襲う3つの頭の3つの口から放たれる光弾を防ぐ煌めきの鎧。

 3つの頭のケルベロスを倒した僕の剣。

 その時から、僕はこの世界で最も偉大な勇者となった。


 全ての魔獣を滅ぼしたわけではないが、砦には束の間の安息の時が訪れた。

 砦の街を幾つも支配していた王は、僕に礼をしたいと、城に招待された。

 王と王妃の待つ、城内。

 そして、その傍らには娘の王女。

 少女のあどけなさを残し、光り輝く黄金の髪と世界中の愛を一身に受けたのかと思える美を持つ青い瞳の王女は、あの女神に似ていた。

 いや、あの女神がこの少女の姿を借りたのだろう。

 バラ色の頬で恥ずかしそうに俯くその少女にひと目で恋をした僕は、前の世界の失恋のトラウマに身体と心が硬直した。

 

 その時、砦の街全体が、影に覆われた。

 この世界で、最も怖れられている巨大ドラゴンだ。

 この世界に生を受け、千年。

 街の全てを覆うほど、巨大に成長した千年竜。

 そのドラゴンが、この街を襲いに来た。


 もちろん勇者の僕は、先頭に立ち迎え討つ。

 しかし、巨大なドラゴンの鱗は大きく厚い。

 僕の勇者の剣も少しずつしか、傷つけられない。

 ドラゴンの放つ巨大光弾を反射しきれない煌めきの鎧は傷つき、僕は押されていく。

 ついに、ドラゴンの光弾に兜を弾き跳ばされた僕。

 勢いに乗り、三連続の光弾を放つドラゴン。


 しかし、僕の頭部を見て驚愕する千年竜。


「お前は、伝説の勇者!ツルツル……」


 後の言葉は、僕の頭部で反射した自らが放った光弾で、蒸発していくドラゴンからは、聞くことが出来なかった。


 消失した、千年竜の姿を確認すると、王と王妃は、僕の前で跪いた。


「伝説の勇者よ」 


 王女は泣きながら僕に抱きついた。


「よくぞご無事で」


 千年前、この世界に現れた勇者も僕と同じ髪の毛の無い頭部をしていた。

 この世界の人々は、その頭部に憧れたが、残念ながら、おハゲの方は一人も現れず、その頭部は最も素敵な理想形として伝説となった。


 僕は、王家と全ての人々、そしてもちろん王女に望まれて、彼女と結婚した。

 僕の頭部は、この世界での憧れ。

 最も素敵な姿を持つ者として、みんなの羨望を一身に集める男となった。


 そして、世界を救った僕の頭部はハンサムスタイル名付けられ、救世主伝説となった。



『捨てる髪あれば、拾う女神あり』



         終わり

 


 



 

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