庭の墓
春海水亭
たかお
二十年ぐらい前に子供の頃に良い成績を取ったご褒美ということで、リスをペットとして買ってもらった。値段は千円ぐらいだったと思う。リスの命は今に比べればだいぶ安い時代だったから。まあ、自分で面倒を見るって言っておきながら最終的に親がメインで俺が親に言われてしぶしぶやるっていう形になったけど。
で、そのリスは四年ぐらい生きていたけど、何の前触れもなく急に死んじゃった。もしかしたら前触れはあったのかもしれなかったけれど、少なくとも子どもの俺に気付けるようなものではなかった。悲しかったというよりは現実味が無くて、冬眠か何かしてるだけで、学校に行っている間に生き返るんじゃないかなんてことも思った。
まあ、学校から帰ってきても相変わらず死にっぱなしだったから、ああ、やっぱり死んだんだなって思って、庭の隅に墓を作ってやることにした。大きい犬とかだったら流石にペット霊園とかを使っただろうけど、まあリス一匹埋めるぐらいのスペースはあったし、小動物の死体ぐらいじゃ庭だって大して汚染もされないだろうから。
リスの死体を埋めた後、あたりもなにも書かれていないアイスの棒に名前を書いてやって、お墓代わりに立ててやった。まあ、別にリスは何も思わないだろうけど、俺としては墓が無いとどこにリスを埋めたかわからなくなるからね。
三日ぐらいは毎日リスの墓の前で手を合わせてたけど、子供なんて生きた命にも飽きるような生き物なんだから、死んだ命に対してはなおさらだよね。
今日はいいかななんて思っているうちに、次にリスの墓参りに行ったのは一ヶ月ぐらい後だった。
放課後、留守番を言いつけられて時間を持て余してた。それで、ああ、そうだ。やることもないし、久しぶりに墓参りに行こうかなと思って行ってみたら、リスの墓の隣に何か書かれたアイスの棒が立っていた。
ペットはリス以外には飼っていなかったし、別に花壇でもなんでもないただの地面だから何か目印にする必要なものがあるわけでもない。
アイスの棒には知らない人間の筆跡で『たかお』って書かれていた。誰か友達のイタズラかな、家族はこんなことしないだろうしな……って思った瞬間、家の電話が鳴った。家には誰もいないから、俺が出るしか無い。当時は一応そういう責任感みたいなものがあったから。
『もしもし、▓▓さんのお宅でしょうか?』
知らないおばさんの声だったけど、俺の名字を言っていたので、「はい、そうです」と答えた。
『すいません、ちょっと……どうしてもお墓が無かったので、お借りしました。申し訳ないんですけどね、いつか取りに行きますからね、待っていてくださいね』
おばさんは一方的にそう言って、電話を切った。
お墓がなかったので、お借りしました――まだまだ春だって言うのに、急に身体が寒くなった。
リスの隣に埋められた『たかお』は一体誰の墓なんだろう。
結局、アレ以来リスの墓参りはしていない、『たかお』の墓の下には何が埋まっていたのか、結局おばさんは取りに来たのか、それも確認していない。
ただ、あの電話からしばらく、夜中に誰かの呻くような声が聞こえて、目を覚ます時があった。
墓ですらなかったのかもしれない。
庭の墓 春海水亭 @teasugar3g
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます