第10話 パワーーーーっ!!


「と、言う事がありまして。ドラゴンさん指導の下、まずは体を鍛えているのです」


 僕を助けに『手の山』の頂上までやってきた三人に今までの経緯を説明した。彼女たちはピンチに思われた僕が呑気に筋トレに励んでいることに大変驚いているのか、目を白黒させている。何故か隅っこで怯えているドラゴンさんにベリーさんは喋りかけた。「これ、貴方の仕業ですの……?」


「ち、ちち、違う! オレは知らない! オレは何もやってない!」

「な、何もやってないって事はねえだろ……だって、これは、その……」

「ゲロやばだニャ。アイツ人間じゃないニャ。バケモンニャ」

「バケモンとは心外ですな」

「ひっ!!」


 僕が会話をしている四人に近づくと、ドラゴンさんは怯えて逃げてしまった。アヨンさんも困惑の色を隠し切れずにいるし、ニィーさんは威嚇する猫みたいなポーズをとっている。もしかしたらトレーニングで汗をかいているので、それが不快だったのだろうか。鍛錬に夢中で他人に気を遣う事が疎かになっていた。


「ユウキさん。その、ご自分の身に何が起きているのか、わかっていないのですか?」


 体を拭くものがないかと周囲を見渡していると、ベリーさんが話しかけてきた。

 僕の身に起きた事? なんだろう? 何か側から見たらおかしな事が起きているのだろうか。僕はフロントダブルバイセップスをしながら、自分の身に起きた事について暫し考えたが思い当たる節は全く無かった。


「すみません。何か僕の身におかしな事がありますか」

「いや、お前、そのポーズは確信犯だぞ」

「ウケると思ってるニャ! 笑いを取ろうと企んでるニャ!」


 確信犯? ウケると思ってる? お二人の言っている事が僕にはさっぱりわからない。仕方があるまい。さらに深く考思する為にサイドチェスをするしかない。


「ヤッーーーー!!」

「あっ! ヤッーって言った! ヤッーって言ったぞ、こいつ!」

「もうダメだニャ! 言い逃れは出来ないニャ!」


 僕とアヨンさんニィーさんがギャーギャー騒いでいると、ベリーさんがどこからともなく持ってきた鏡で僕の姿を写した。「これが今の貴方の姿ですわ」

 鏡の中には筋骨隆々の男が写っていた。ポーズと相まってまるでボディービルダーのようだ。なるほど、このせいで僕がやる事なす事にウケ狙いだと騒いでいたのか。

 しかし鍛錬を始めてからまだ五時間ほどしか経過していないはず。人体の筋肉生成のメカニズム的にこんな急激に筋肉が付く事はあり得ない。みんなが困惑したり怖がったりするのも無理からぬ話しだろう。


「ベリーさん、これは一体……?」

「わかりませんわ。取り敢えずポーズ取るのやめてくださりません?」

「面白いと思ってちょーし乗るニャよ! そんなのすぐ飽きられるニャ!」


 なんでこんなにポーズが不評なのかは取り敢えず置いておこう。今は僕の体に起こった突然変異について究明せねば。

 今し方僕を助けに来た三人にこの奇妙な事態の謎について尋ねるのは不適切だ。もっと適当な人物がここにはいる。僕は隅っこで怯えているドラゴンさんに近づいた。接近する僕に彼女は腰を抜かしている。


「ドラゴンさん、僕の体について何か知っていますか?」

「し、知る訳ないだろ!」

「でもこいつに筋トレさせたのはお前なんだろ」

「そうだけど、筋トレし始めた途端にムクムクと体がデカくなって来て……うっ!」


 僕の急激な膨張は相当な精神的負荷を彼女に与えて、すっかりとトラウマになってしまっているようだ。これは暫くの間は、筋肉からは離れた場所で安静にした方が良いだろう。

「どうしましょうか」と僕は尋ねた。「マッチョ通しお似合いって事でいいじゃねえーの」とアヨンさんは言った。「ニィーもウケ狙いでポーズ取らなきゃ別に気にしないニャ」とニィーさんは言った。「原因についてはこれからゆっくり解き明かしましょう」ベリーさんは言った。「えー。私はマッチョな人好きですよ」と知らない人は言った。


「……どちら様ですか?」


 いつの間にか闖入していた金髪の美少女はニコニコと穏やかな笑みを浮かべている。小柄で華奢に見えるが、内蔵された胆っ玉はそれに似合わぬ大きさのようだ。胆っ玉美少女はニコニコしたまま言った。「あなた様の妻です!」

 まだマッチョの件も解決できていないのに、自称僕の妻の相手は流石に手に余る。

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神聖変態伝説 〜黒道祐樹はセックスしたすぎる〜 @ookam1

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