MS.13 平凡魔法使いは、重要なことに気が付いた
今の時刻は、12時50分
試験開始までには、ちょっとだけ時間がある
さっき通った扉には『資料閲覧室』という看板が掛かっているらしく、その次、右隣と言える位置にある扉には『魔物資料室』という看板が掛かっているらしい
そして、その二つの扉の間には、確実に一室あることがこの廊下からでも分かる
分かるんだけど・・・やっぱり、入り口が見つからない
「まさか
この様な試練がここで待ち受けているとは・・・
思いもしませんでした」
「入り口、探す?」
「そう、ですね・・・」
んー・・・
ハッ!!
もしかして、この試験って、そういうことなのかな?
だとしたら・・・・・
「僕、受付の人に聞いてきます!」
「!
成程
分かりました
では、そちらはお願いします」
受付まで、走らない程度に急いで歩く
受付に着くと、ロッサさんの姿が見えた
朝は疲れていそうだったけど、今は元気そうでホッとする
「すみませーん
『学習室』の扉を開けることに必要な物を借りに来ました」
「ん?
ウルバス・・・ということは、筆記試験か?
そうか・・・そうだな
よくアレの仕組みに気がついたな
流石、魔法使いだ」
ニヤりと笑ったロッサさんに褒められて、少し嬉しくなる
「ほい
これで全部だ
試験もあと少しだな
頑張れよ」
そう言ってロッサさんが渡してきたのは、3枚の魔法陣が刻まれた木札だった
その木札に刻まれた魔法陣を確認して、『学習室』の探し方が予想通りだったことを確信した
「ありがとうございます!
頑張ってきます」
急いで、2人が待つ場所まで戻ると、その場には、リルシアさんの姿がなかった
「ウルバス殿
リルが、魔法陣の位置の解析が終わった、と申していました
今は、学習室の扉の『鍵穴』があると思われる位置を探すため『魔物資料室』に入っています」
「あっ、はい
分かりました
既に探し始めてくれていたんですね
助かります」
今は、13時10分
試験開始までの時間が少なくなってきていたから、この木札が反応する位置を探してくれてるのは有難い
「戻った」
「うわぁッ!?」
突然、背後から声を掛けられて驚いた
急いで振り返ると、リルシアさんが不思議そうな表情で首を傾げていた
「?
ウルバス、驚いてる
何かあった?」
「あんたが急に、背後から声を掛けるからよ
背後を取っていること自体、相手に危機感を抱かせる行為だって、何回も説明したはずよね
なんでその癖を直せないの」
「生命体には、魔力が宿る
誰かが動けば、魔力の塊が動く
その規模の魔力体を認識出来ないなら、魔法を扱って戦うことは止めた方がいい
自分が放つ魔法の威力を見誤るから」
うぐっ!
確かに、ユリーカさんにも同じような内容の言葉を言われたことがある
うぅぅ
普段からもっと周囲の魔力に意識を向ける習慣を身に付けないとなぁ
「相変わらず、魔法は小難しいですね
何一つとして理解できません」
「それは、テトがおバカさんなだけ
ほんと
あの無駄に覚えてる生活文字の記憶領域を使えば、基礎魔法学くらい、簡単に覚えられる
トゥオカヌも、生活文字も、同じトゥオリフィカノ語を表記する文字
わざわざ、生活文字を作った意味が分からない」
リルシアさん・・・まだ引きずってるんだ、生活文字のこと
あれが未来の僕の姿にならないように、気を付けないと
「ここは、ウルバスに任せる
テトは、『魔物資料室』
私は、『資料閲覧室』
『魔物資料室』の鍵穴は、黒いファイルが並んでる本棚の右隣
ランドロックドラゴンのミニチュア模型の上に掛けられたネームプレート
その左上側に空いているスペースに、この札を当てればいい
ここを開けるのは難しい
魔法陣が複雑
だから、任せる
この中で一番、魔法陣の知識に優れているウルバスに」
そう言いながら、リルシアさんは、僕の持っていた札を二枚取り、片方はテトラさんに渡し、もう片方は自分で持ったまま、資料閲覧室へ歩いて行った
その背中を見ていると、自分に足りないものをひしひしと感じる
強くなる、強くなる
ただそれだけを考えていた
だけど、戦うことに必要な強さには、常に周囲に気を配る能力や咄嗟の判断能力だって含まれる
僕に足りない部分でありながら、鍛えようと考えもしなかった部分であり、鍛えようと思えばいくらでも鍛えられる機会があった部分
なるほど
バルトさんに言われた通り、僕は自分から強くなろうとしていなかったんだ
悔しい
勇者のパーティに同行させてもらえるようになったとき、カレンの力になりたくて、魔法使いの人達に頼み込んで、魔法についてたくさん習った
だけど、そうして得た知識や技術は、所詮付け焼き刃に過ぎず、[賢者]であるユリーカさんだけで事足りるなものばかりだった
スキルが発現していない僕は、才能の方向性がはっきりしていない
だから、スキル【魔導士】の片鱗以外は何も見つからなかった僕が、魔法以外で自分にできることを考えても仕方がないって、ずっと思ってた
でもそれは、考えることをしなかっただけ
強くなる方法は、もっとたくさんあって、僕にできたかもしれないことだって、きっとあったはず
料理だってそう
いつも、ユリーカさんとマイケルさんに任せて、ロクに練習していなかった
アーツを磨けば、基礎能力が上がることは知っていたのに・・・
今になって、そのことに気が付いても、遅いのかな?
ううん、そんなことはないよね
僕の目標は、まだこれからなんだ
だから、カレンと再会した時にカレンの役に立てるように、もっとたくさん頑張らないと
そのためにも、先ずは、この魔法陣を早く解析しなきゃいけないんだけど・・・この陣形、何だか嫌な予感がするんだよね
真・魔道覇伝〜幼馴染勇者のパーティを追放された魔法使いは、魔導王だった前世の記憶を取り戻す〜 鹿島恒星 @stellardeer
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