幼馴染がくだらねえ死に方した

脳幹 まこと

幼馴染がくだらねえ死に方した


 目ぇ覚めたら、ガキの頃からずっと一緒にいたヤツが隣でくたばってやがった。


 一目見て「うわあ、これは無理だ」と思ったし、実際無理だった。


 寝る前のことを振り返ると、たしか、酒をたらふく飲んだヤツが、俺が噛んでたガムを無理やり口から引っ張り出して食ってた。

「にんにくくせー」とか「ヤニの味がする」とかゲラゲラ笑いながら味わってたか。

 その後何があったかしらねえけど、多分、そん時の俺のガムが殺したんだろうな。


 昔っからデリカシーがないヤツだった。

 俺のモン勝手に取って、何のためらいもなく自分のをよこすようなヤツだった。罵声も暴力も上等だった。「ごめん」と言うとグーパンが飛んできた。

 異性だと思ったことは一度もない。向こうもそうだったと思う。思春期なんて嫌でもそれっぽい雰囲気になるだろうに「くだらねえクセに一丁前を気取んな」とか言われた。


 喜怒哀楽が全部同じテンションだった。キレる時も、励ます時も、いっつも「くだらねえ」がついてきてた。

 ボキャ貧すぎねえかと思ったけど、今考えりゃ、ヤツなりに気を遣ったってことなんだろうな。

 学校じゃそれなりにカースト高かったし。


 好きとか嫌いとか分かんなかった。

 別に放っておいても良かった。どっか行っても「ま、アイツのことだから何とかやってんだろ」って思ってただろうし。

 でも、声かけたくなるし、声かけられた。ポテチのうすしお味みたいな気軽さがあった。会ったら会ったで「くだらねえ」「くだらねえ」と言い合うだけだったけど。


 そんなヤツが昨日突然家に押しかけてきた。顔をぐずぐずにしながら、持ってきた酒をたらふく飲んだ。

 予約もナシにどうした、とか言ったら、殺意マシマシのタックルもらって、そのままマウント取られた。

 その後はそのままギャン泣きされた。「コイツ、こんなにめんどくさかったかな」と思いながら、情けない体勢のまま必死になだめた。


 くだらねえクセに、意外といいとこあんじゃん。

 それが最後の言葉だった。



 くだらねえなあ。

 あーくだらねえ。

 くだらなさすぎて笑いも出やしねえ。


 人生って、くだらないことばっかりなんだよ。

 くだらなさすぎて犯罪するヤツもいんだよ。

 そのくだらなさを共有するヤツがいなくなっちまった。

 取られることも、もらうことも、出来なくなっちまった。


 全身だるいし、気持ち悪いし、これから何したらいいか分からん。


 だけど、後を追うのも多分許しちゃくれないんだろな。

 くだらねえクセに、ってよ。

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