その恋、リベンジいいですか?

茜あゆむ

第1話

――大丈夫?


――おーい?


――フラれたってほんと?


 …………………………………。


――生きてるよね?


――返事、して?


――心配なだけ。


――返事もらえたら、しつこくしない。


――ね?


――これ、ブロックされてる?


――おーい、ブロ解しろー。


――本当に、声聴くだけでいいんだけど。


――彼女の代わりになる、とか思ってないから。


――君の声が聴きたい。


――それだけ。


――駄目? 駄目なの?


――やばい。めっちゃ焦ってきた。


――どうしよ、本気で返事くれない感じ?


――ねえ。


――ちゃんと理解してるよ。


――私と君の関係は、ただの幼なじみ。


――ね、いいでしょ? 大丈夫でしょ?


――あの話、蒸し返したりしないって約束する。


 ……………………………………………。


――もしかして寝てる?


――君、この時間、家にいるよね。


――いま、そっち行く。


――すぐ着く。ほら、私たち家近いじゃん。


――友達なら普通のことでしょ。お見舞い。


――何か食べたいものある?


――コンビニ、寄ってくから。


――あ、あれ好きだって言ってたよね。


――コンビニスイーツ。名前出てこないけど。


――フラれて辛いの分かるけど、無視するなー。


――気遣って言ってるんだぞー?


――私は大丈夫だけど、ほかの人にはしちゃダメだよ。


――私は、大丈夫だけどね?


 …………………………………。


――いま、コンビニついた。


――ほかに欲しいものある?


――おい。


――あ、いつもの売り切れてる。


――私のおすすめ、持ってくね。


――何だと思う?


――ねえ。


――もうすぐ家つくよ。無視、つづけるの?


――返事。


――返事、まだ?


――おーい。


――そっか、そっか。了解。


――会えるの楽しみだね。


――君さ。


――ほんとーに、私のこと焦らすの上手いよね。


――彼女と付き合ってたのも、そういうこと?


――私のこと、どんだけ好きなの。


――本気?


――ねえ、これ本気にしていいやつ?


――君。


――君って、私のこと好きだったよね。


――君のプロポーズの言葉、やっと叶うね。


――指輪も取ってあるよ。おもちゃのキーリング。


――おっきくなったら、けっこんしよーね。


――こんなこと、君が軽々しく言っちゃダメでしょ。


――こんなの女の子はみんな本気になっちゃうから。


――ほんとむかつく。


――あの人にも、同じようなこと言ったの?


――結局、別れたじゃん。


――あのとき、君はさ。


 …………………………………………………………………………。


――やっぱいいや。会って確かめるから。


――約束。


――ちゃんと守ってくれるよね。


――今日は一晩中話し合お?


――お義父さんたち、今日は帰らないんでしょ。


――ちゃんと用意したから。


――コンビニで買ったから。


――まだ、学生だもんね。ずっと大切にしてくれるよね?


――ついた。


――玄関。


――ねえ。


――開けて。


 …………………。


――合鍵の場所、十年前から変わってないんだ。


――不用心すぎ。


――おーい。


――ん?


――いないの?


――あ。


――あ。


――あ。


――通知、切ってる?


――おーい。


――どこ?


――ねえ、どこ?


――いないじゃん。


――何処。


――どこにいんの。


――おい。


――逃げるな。


――何で、私から逃げるの?


――ねえ、会おうよ。


――会って、話すだけ。


――声聴いたら、すぐ帰るから。


――私のこと、安心させて?


――君のことが心配なんだよ。


――一言だけ、大丈夫って聞きたいだけなんだ。


――ね?


――帰ってこないの?


――晩御飯、つくってあげようか?


――君の好きなもの、何でも作れるよ。


――何が食べたい?


――今日のお弁当、昨日の残り物だったでしょ。


――ハンバーグ。


――ハンバーグ、作るよ。


――好きだよね。君の大好物でしょ。


――冷蔵庫の中、食材ないね。


――買ってこないと。


――いつ頃、帰ってくる?


――買い物、行ってくるね。


――あ。


――帰る。


――私やっぱり帰る。


――私、もう帰るから。戻ってきていいよ。


――会うの、また今度にする。


――だから、もう今日は帰ってこれるよ。


――帰ってきて大丈夫だよ。


――ごめんね、急におしかけて。


――私、もう帰るね。


――何時ごろ、戻る?


――すぐなら、鍵かけないでおくけど?


――合鍵、ちゃんと別のところに隠しておかないと駄目だよ。


――鍵、かけておくね。


――じゃあね。


――またね。


――明日、学校で会おうね。


 …………………………………………………………………………。


 …………………………………………………………………………。


 …………………………………………………………………………。


――ねえ。


――待ってるから。


+++


『え、やっ……何で?』


『なに……? えっ……?』


『……私のこと、騙そうとしてる?』


『違うの? 何で』


『な、何で? 私たち、両思いだったでしょ』


『だって、あの人と付き合う時さ、約束してくれたじゃん』


って』


『それでいいって言ったじゃん』


『君も私のことが好きなんだと思ってた……』


『……そう、なんだ』


『うん……そっか、そうだね』


『分かった』


『…………………』


『…………………』


『…………………』


『でもさ、約束は約束でしょ?』


『付き合う内に、好きになるかもしれないでしょ』


『私たち幼なじみだけど、恋人としてはまだまだ知らないことばかりなんだしさ』


『……や、ちが……そうじゃなくて』


『え』


『な、何で怒鳴るの……?』


『私はただ、君のことが好きなだけだよ……』


『うん……そう、そうだよ』


『それでね?』


『聞いて……?』


『ねえ、聞いて』


『だから……! 約束……!』


『やだ。いや』


『守って』


『約束は守って!』


『君から言ったことだよっ!』


『約束したんだから』


『……怒鳴るのやめてよ!』


『別れなきゃよかったじゃん……!』


『あの人と別れなきゃ、私と付き合わなくてよかったんじゃないの!?』


『そんなに私のこと嫌いならさ! 別れちゃダメじゃん』


『でも』


『別れたなら、君は私のものでしょ』


『私の恋人でしょ』


『君は私に逆らえないんだよ……』


+++


『よしよし、君は賢いね』


『いいこ、いいこ』


『君が私の恋人でいてくれる間は、だからね?』


『大丈夫だよ』


『君は私のこと、好きになるから』


『私がいない生活なんて、考えられなくなるから』


『ふふっ』


『「こんなことして楽しいか」って?』


『口だけで抵抗するんだ、ふふふ、かわいいね』


『君とあの人が付き合っている間、私がどんな気持ちだったか想像したことある?』


『これはね、私なりの復讐リベンジなんだよ』


『君は、大っ嫌いな私のこと、すこーしずつ好きになっていってね?』


『たっくさん


『楽しもーね、だーりん♥』

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