春の雨はその花の名を知らない

朔の夜の迷い人。それは、誰の記憶にも刻まれない者、理から外れた者の名。
とある村に、ひとりの少年が突然現れた。月の化身のように美しいその少年は誰にも知られることのない、彷徨える旅人であった。
そんな人間なのかすら定かでない少年に手を差し伸べる者はいない。だがその少年に声を掛ける変わり者があった。精霊石という特殊な石を用いて薬を作る、精霊師のイルヴァという女だ。少年は渋々、そのイルヴァのそばへ身を寄せることにしたが、次第に別れが恐ろしくなっていく……。
花野井の処女作「朔の夜は春を待つ（https://kakuyomu.jp/works/16817330655329465411）」の前日譚。