純文学ファンにも古書ファンにもおすすめ

 「太宰治」と「『斜陽』」のタグが付いておりますが、『斜陽』を知らなくても、太宰とか、芥川とか、森鴎外とか、しみじみとした純文学の世界がお好きなら、怖れることはないと思います。
 現代に生きる女の子が主人公の物語でありながら、後半から大正文学っぽさが炸裂し、太宰の描きそうな、わびしくて切なくて優しい雰囲気をたっぷり味わえます。
 そしてもちろん、『斜陽』をご存じの読者様にもうれしい小ネタがちりばめられていますよ。

 しかし本作の良さは、雰囲気のみに留まりません。

 キャッチコピーにもあるとおり、この作品の主な舞台は古書店です。
 古書店の愉しみといえば、ときたま見つかる物凄い激レア本でしょう。古書店に売られている以上、どんなお宝にも、その本を手放した人がいるはずですが、激レア本を売ってしまう人は、なぜ、そんなもったいないことをしてしまうのでしょうか?
 捨てるよりマシだから?お金目当て?
 いいえ。古書の数だけ人生があるのです。
 本の価値は、歴史的価値や希少性がすべてではないということ。その本に書かれた物語を愛する人がおり、その本の持ち主にまつわるエピソードがあり、その本を売り払うに至っても持ち主にしか分からない決意があったのかもしれないと、本作は言っているのです。

 新品であれ古書であれ、買った本は大切に扱ってほしいし、読んだ内容を愛してこそ本なのだから、レア度や相場ばかり見て売り買いしないでほしい、といったメッセージを感じる、文学ファンにも古書ファンにもおすすめの作品でした。