第16話 そして選択の時を迎えた!
国を挙げての祭になった。それはそうだ、魔王が討伐されたのだ。
国王陛下から功績を讃えられ、パレードでお披露目され、舞踏会では一目彼を見ようと踊ろうとご縁を繋ごうとするものであふれかえって大変だった。供される飲食物にはそれはもう多種多様な薬物が仕込まれ、中和するのに手間がかかった。
アレンだけじゃなく、オルガも聖女も大変だった。オルガはどうやら先代魔王の娘と旅する中で懇ろとなったようだった。顔を真っ赤に染めた彼女がオルガに共に生きて欲しいと申し込む様は可愛らしかった。
第三王女は隣国への輿入れが決まっていた。平和な時代になるのならば、各国間の交流は大切だ。隣国は友好国でもあり、輿入れ先の王子は彼女とは幼い頃に交流があったとのことで、知らぬ仲でもないらしい。
そして聖女。
彼女は、なんと神官さんと結ばれた。
えっ、ちょっ、ま、まって!? 待って!?!? なんでどうしてそうなった!? 急転直下すぎない!? 小さい頃からずっと世話してくれていた大事な人!? 辛かった時一番近くで慰めてくれた人!? それは確かに大事な人だね!!!
「でも、アレンは!?!?」
「アレンは? じゃないんだよな」
「………………うん? えっと? …………あの、あ、わぁぁぁ、ゆうしゃさまじゃあありませんかぁ! こ、こうえいだなぁ!? ああああの、ぼく――お、おれ、みたいなモブになにかごごごごようでしょうか!?」
「モブ? それが今使ってる偽名? っていうか、声はちゃんと変えてるのになんで顔は何も変えてないの? それでオレが誤魔化されるとでも思った?」
「は? え、えええ? ご、ごまかす……? ええと、なにをおっしゃってるのが、ちょっと、わわわかりかねるともももうしましょうか……!」
今の僕は、メガネを掛けていない。素の顔だ。あのメガネは呪いのメガネで、だから僕はアレンの前では1度だって外したことはなかった。メガネを掛けた顔は歪んで見えて、本当の顔は隠される。だから僕の素顔を知っている人は、誰1人としていないはずなんだ。だって僕だって彼らから離れる際の証拠作りの為にメガネの呪いを解除して肉人形に装着させるまで、自分の素顔を知らなかったくらいなんだ。
ちなみに、素顔はめちゃくちゃ儚げ美少年だった。詐欺だろこれ。いやそりゃあの一族、何だかんだいってみんな美形だったけどさ!
今はとある先勝祝いのパーティ……これもう第何弾なのかわっかんねーよ、ってくらい回数を重ねた祝いの席の1つだった。僕はそこにこっそり使用人として紛れ込んでいたってワケ。こういう大がかりなパーティは余所から人手を借りてくることも多いから、割と雑に潜り込める。
「ザジ」
「………………だって、僕は」
「言っとくけど、あの後すぐ君の死体が偽物だってことには気付いたから」
「は?」
どうやって? え? 匂い? 匂いってなに? 血? 血の臭いに種類なんてあるの!? なんでそんなの分かるの!? 怖いよ!?!? なに、肉質も違った? いや、半分消化された後の肉だよな!?
「最速で最良の結果を得るために聖女は仲間にした。君の言動からもそれを望んで誘導してたっぽかったから」
「それは――そう、だけど」
「って言うかさ、あれだけ途中の戦い、支援魔法かけまくっておいて、オレが気付かないとでも思ったの?」
「え。気付いて、た……の?」
「当たり前だろ。ずーっと後付けてきてたのもそうだし、時々先回りして野営地整えたりもしてただろ? そんなの気がつかない方がおかしい」
いやだって! 疲れて休もうってのに荒れ果てた野営地とかあり得ないし! ちょ、ちょこーっとだけ整地したり整備したりしただけだし!
支援魔法だってずっと掛けてたから、今更切らしても身体の感覚変わっちゃうだろうし、そしたら戦闘に支障が出るって思ったから、ずっと掛けっぱなしにしてたのに……! 気付かれないように、結構苦労してたんだけど!?
「素顔も、ずっと知ってた」
「え?! ず、ずっとって、……どれくらい前――」
「母さんの鏡をなくしたあの日から」
……え? でも、あの時僕のメガネは、ちゃんと顔に付いたままで。アレンが僕の素顔を見るチャンスなんて――
「あの日、崖下で横たわる君の顔から、メガネが落ちてた。びっくりして拾い上げて顔に近づけたら吸い付くように顔にくっついて、それからすぐに君が目覚めたんだ」
――ひょっとして、ザジの魂が肉体から離れていたから、か。呪いは生者にしか効かない。だからほんの一時的なものであっても、仮死状態だったザジからメガネは離れたんだ。
「ザジ、オレはずっと君のことが――」
「待って。……ごめん、待って!」
アレンの言葉を留めるように、彼の唇に手のひらを押し当てた。僕の手なんてあっさり振り払えるだろうに、アレンは僕の意思を尊重するかのように、そのまま言葉を止めてくれた。
「……アレン、僕は君に内緒にしていたことがある」
「なに?」
「僕、……ザジークじゃないんだ」
「うん。それで?」
「君が僕の素顔を見たって言ったあの日、僕はザジの身体を奪ったんだ」
頼まれて、という経緯はある。でも実際の所、奪ったようなものだった。未来有る少年の身体を、乗っ取ったんだ。
「うん。それで?」
「それで、だから、あの日からザジは実はザジじゃなくて僕で」
「うん。あの日からザジが君になったのは分かってる」
「え? 分かって?」
「どこからどう見てもザジだし触ってみた限り肉体はそのままなのに、まるっきり違うんだから気がつくよ」
「ま、まるっきり?」
元のザジはと尋ねられて、あの世で両親と共にいることを説明したら、少しだけ寂しそうに嬉しそうに、アレンはそっと微笑んだ。それで良かったのかもしれない、と。
ザジはずっと、苦しそうだったらしい。親から疎まれアレンを妬んで。色々な気持ちにいつも押しつぶされそうになっていたと。
「オレはあの日、あの崖の下で、君に一目惚れしたんだ」
アレンの目が真っ直ぐに僕を射抜く。何もかもを暴いていく。
「あの日からずっと君が好きだ。共に生きるなら君がいい」
温かな手のひらが僕の手のひらを包み込んだ。まるで壊れ物に触れるように丁寧な、優しい仕草だった。
眼から温かなものが滴り、頬を濡らしていく。感情が振り切れて、嬉しいのか哀しいのかさえも分からない。ぐちゃぐちゃに乱れた情緒は、丸ごと彼に抱きしめられた。
ああ、どうしよう。どうしたらいいんだろう。
すべては彼の選択だから、どんな結末を選んだとしても、それが彼にとって後悔のないものならば、僕は全力で応援出来る自信があるんだ。ずっとずっと、最初から。
僕だって、アレンの気持ちに負けないくらい、アレンのことが大好きだから!
RPG世界でチートなモブになったので、勇者の手助けがんばるぞ! ふうこ @yukata0011
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