対応
付き合いのある組のトップ(八十近い爺)が私的な困り事を相談してきた。
幽霊を所有する物件から排除してくれというときも邪魔な奴殺してくれというときも若頭(こっちも七十近い爺)が俺に依頼してきたんだが、そいつが全身を少しずつ千切られて死んだらしい。部下も百人くらい同じように死んでいたとさ。だいたいこういうときって組で囲っている術師じゃあどうにもならないときなので索敵込みの仕事は正直俺頼りにならないと思うんだよな。
こういう高度な呪殺対応なら直接キョージに頼んだらと思うが、無理なんだよな。アイツが土御門家から追放されたとき、親父が関西の方々に仕事回さないように頼み込んでいたもんな。キョージに直接頼むと死後も駆動し続ける術式が起動して死ぬからな。組の偉い人間が今の若い連中と入れ替わるまで無理だろうな。
俺がキョージ頼るのは問題ないが。
アポなしで言ってもいいだろ。期限未定の仕事だしということでキョージの家に突撃した。前に見たときは雑草が伸びていた庭が全部砂利に代わっていた。庭先に車を止める。縁側にキョージが居た。お互いに縁側に座る。
「戦後の闇社会を生きた爺どもがだいぶ呪殺されたんだが、犯人調べてくれないか?」
キョージが冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して渡してくる。俺はジョージア派なんだがキョージはBOSS派なんだよな。
「例の件ですか。大事になってましたね」
キョージがBOSSの微糖を一気に飲み干す。
「
平然と言うなあ。
「そうかお前が実行犯か。じゃあ殺すしかねえな」
キョージが自分がやったと真顔で言うものだから、俺も
俺の依頼人の爺どもは絶対に仕留めろというつもりで俺を送り出しているし、まあ俺もそのつもりだった。だが長年の付き合いある相手なら相当甘い態度を取る。
死んだ若頭も、奴がどうってことない三下だった頃の付き合いで一緒に色々遊んだりもした。海外でナンパとか三日くらい不眠不休で賭け麻雀連チャンとか。けっこうくだらないことやって遊んだ相手が殺された怒りがないわけでもない。だが、アイツも殺されて当然のクズだし、死んだ人間に生きている俺がしてやれることなんて無い。
とりあえず片腕切断でケジメつけたということにして、見つからなかったので別の奴に頼めと爺に言う。それで納得するか知らねえが、納得させる。身内を好んで切ったりはしない。
キョージは両手の掌で俺の刃を挟み、額に切っ先が当たるかという絶妙なラインで止めてきた。完全に見切られたな。俺は剣の求道者じゃあねえが並み程度じゃあ避けられない剣を振るう自信がある。それをこうも絶妙に止められるとなると自信を無くすな。
「
キョージ曰く、東日本を縄張りとしている反社会的勢力『終末時計』(表向きは芸能事務所やっている)の依頼で西の爺どもを呪殺したらしい。
それで『終末時計』のCEOが裏社会に影響力のある某大物政治家(与党の偉い人)に取り成しを頼んで、既に示談交渉をする予定らしい。『終末時計』側では。
「じゃあ示談交渉までのらりくらりしていたら、お前の件はうやむやになるわけか?」
本当にそんなすんなり行くのか?西側の爺どももあれで恐怖の時代(斬島家が裏社会で圧政していた時代)を生き延びた狸どもだし。『終末時計』のCEOって内部の争いでマリアナ海溝に沈められたんじゃなかったか?上がってきたのか?半万年くらい海の底だと思ったが。
「ええ。
まあコイツは客観的に戦力として貴重、助かる、有り難いだからむざむざ死なせるわけにはいかないか。俺もガキの頃から成長を見てきた人間が死ぬのは気分悪いし都合が良いな。
「……じゃあいいか。しばらく大人しくしていろよ」
「ええ。もちろん。そして示談交渉が上手く運んだ暁には、御身も覚悟を決めて頂ければと」
「嵐が吹くのか?」
治安が悪いとはいえ、俺が力を取り戻せるような隙のある時代には思えないんだよな。だいたいボヤの段階で
「御身が全盛期の力を取り戻す用意は
覚悟。俺はこの国に嵐が吹き荒れてそれを知らんふりして自分だけ力を蓄え、冥界を往くことができるのか。名残惜しいな。手ずから子供を育てるというのも初めての経験だし、面白くなってきたんだが。年々手足やタッパが伸びて綺麗になる亜沙を見るのは悪くなかった。家族ごっこもやってみたら悪くはなかった。手のかからんところから預かったというのもあるが。
だが、俺はあのとき見た鋼の輝きや刃の熱さが忘れられない。思えばあれが初恋だった。スサノオと
真の姿は蛇だが、この人間態はお前の愛する者を模倣した。この顔で刻まれ食われればお前はどんな顔を見せてくれるか。
しのぶれどなんちゃら 遲?幕邏咎哩 @zx3dxxx
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