第一回さいかわ卯月賞 最終選考対象者の感想

 第一回さいかわ卯月賞にご参加いただき、誠にありがとうございました。

 入選はお渡しできませんでしたが、最終選考対象になりました作品につきまして感想を書かせていただきます。


「純情と桜」 諏訪野 滋さん

https://kakuyomu.jp/works/16818093074125658735


ひとこと:「いつまでも」の意味は?


 私と彼女の切ない関係を描いていてとても良かったです。また似ている女性を通して本当の気持ちに振り返ったシーンも秀逸だと思いました。

 本作、とても細かいのですが、わたしにとっては深刻な箇所がありまして、今もなおずっと考えております。それはラストの「いつまでも」という一言です。これがわたしの感覚ではどうしても話と繋がらないのです。いつまでもがつくと、わたしの解釈では心の中で恋心を留めて諦める、つまり、駆け出していくシーンと相反してしまうのです。

 わたしの貧しい解釈は横において、抜群の恋愛模様でした。

 ありがとうございました。


「桜菫抄 おうきんしょう」 上月祈 かみづきいのりさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093074822956300


ひとこと:漢字を読ませる勇気を。


 本作、美しい日本語を目指して書かれていると思います。実際に丁寧に言葉を繰り出しておりますし、美しくかつ妖艶な世界を描いております。

 内容についても素晴らしいと思います。若干夢であることを強調しすぎている気もしますが、そのあたりをもっと自然な振る舞いで描けるようになると一段上の品質になると思います。とはいえ、現状でも相当上手な作品だと思いました。わたしは本作の姿勢が好きです。

 わたし的に気になったのはルビです。こういう表現形態でいくぞと決めたのであれば、当て字以外は思いきってルビをなくしてもいいかなと思いました。見た目にも美しくなりますし。「徐(おもむろ)に」なども、わからなかったら辞書を引け!(今は「ググれ」かな?)くらいの気持ちで書き通して良いかなと。

 上月さんが意図的にルビを振られているのであれば、まったく余計な言いがかりなので、すいません。忘れてください。

 ありがとうございました。


「嫌いな春と、ランドセル」 クロノヒョウさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093074958957905


ひとこと:ごめんなさい……。


 素晴らしいと思いました。参加者の作品の中でも上位にくる、「全体としての完成度」があり、お話も綺麗にまとまっていました。どうして賞をお渡しできなかったのか、わからないくらいの良作でした。

>さあ、これからやらなければならないことがたくさんある

 このあたりもすっきりラストへ向かっています。話に瑕疵が無く、とても魅力的でした。本当に良き、でした。

 ありがとうございました。


「桜の花びら、ひらり」 大田康湖さん

https://kakuyomu.jp/works/16818093075118264576


ひとこと:ずば抜け過ぎている!


 文章力という点においては、参加作品中、ずば抜けて一位でした。商業でもというか、プロの脚本家さんかシナリオ作家さんですか? と思わせるような文章でした。拝読しまして、「これはヤバいな……」と思わず天井を見上げてしまいました。新聞小説のような安定感と話の進み具合でした。

 惜しむらくは、短編であるのに登場人物が多く、話の主線がわかりずらいことでした。この「わかりずらい」とは下手ということではなくて、この短編の中でこれだけ人物を入れて書ける大田さんのレベルに、読者のわたしがついていけなかったという意味です。おそらくお話自体は何かの続編や番外編だと思いますが、文章の短さに対して固有名詞が多めなのだと思います。無論、上手に読める人には読み下せる十分な内容なのかもしれませんが、鈍くさいわたしは追いつきませんでした。

 ですが、内容はとんでもなく良かったです。もし次回以降に機会があれば、太田さんのお話を是非ともまた読んでみたいです。

 ありがとうございました。


「繋ぐ季節」 幸まるさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093075228673514 


ひとこと:大人へのドキッとする童話でした。


 本作、非常に好きです。一見すると優しいお話なのですが、話の根底に深いテーマが存在して、読者になにやら囁いているような感じがしました。冬の必要性だけではなく、差別や偏見への警鐘を鳴らしているような気がいたしました。

 文章全体をよく見渡していて、展開にも淀みがありません。童話でありファンタジーでありながら、違和感なくわたしを楽しませてくれました。

 これはわたしの個人的な好みなのですが、春、夏、秋、冬、が同じような人格に感じました。話や作風からエッジをつけない方が良かったのかもしれませんが、それぞれの個性を出しても面白かったのではないかなと想像してみました。

 ありがとうございました。


「再び、芽吹く」 鈴ノ木 鈴ノ子さん

https://kakuyomu.jp/works/16818093075436663246


ひとこと:わたしにとってはもうすぐ来る春でした。


 本作、参加作品の中では一番「大人」な世界でした。わたしにとってももう数年先の話で、非常に考えさせられるものがありました。

 作品の魅力もさることながら、非常に説得力のある文章でした。リアルというよりも現実を抜き出したような話で、太田さんの作品同様、新聞小説や中年以降向けの現代ドラマを観ているような気分になりました。人生とは何かを改めて考えるような説得力があって大変良かったです。

 何よりも大人の春という感じが非常に魅力的でした。

 ありがとうございました。


「パレードが続くなら。」 月庭一花さん

https://kakuyomu.jp/works/16818093075536580188


ひとこと:上手なので語りたい事が満載。


 世界観といい話の内容といい、迫力においては凄まじいものを感じました。「血」というものを手を変え品を変え物語の柱として活用しています。多彩な表現もあって物語が儚いのに血生臭いリアルを導きだしています。わたしがカクヨムではあまり拝見したことのなかったテイストだったので、非常に感銘を受けました。

 これは重箱の隅を楊枝でほじくるような話になってしまいますが、「前に出したいと思っている表現」が多く、逆にエッジが効いていないように思いました。上質な文章であることは間違いないのですが、緩急を損なっていると思うのです。

 月庭さんはかなりの上級者とお見受けしましたので、敢えてそのレベルに合わせて話を続けさせていただくと、作者の表現するスピードが、読者の受け取るスピードを追い越しているように思えました。「強調するもの、引っこめるものを統一する」「文章にスピードをつけて、読者を引き寄せたり離したりする」「(上級者レベルとして)何を書いて、何を捨てるか」という、難度は非常に高いですが効果的な技術を駆使できれば、極上レベルに到達できるかと思います。

 生意気ばかり言って申し訳ございません。ですが、とんでもなくレベルの高い作品でしたので、わたしも全力で感想という名の意見具申を書かせていただきました。

 ありがとうございました。


「ラ・プリマヴェーラ」 ミナガワハルカさん

https://kakuyomu.jp/works/16818023213377998804


ひとこと:オチに向かって書いたのか。書いているうちにオチに向かったのか。


 本作、「ひとこと」で書いたように、どちらで書いたかによって全く違う感想になります。前者であれば、オチに向かって周到な説明がなされてきたと言えますし、後者であれば、なにか力尽きてこのオチに至った感があります。どちらにあるにせよ、話自体はとても面白かったです。特にオチ前までの終盤前まではわたしが大好きなテイストでした。キチンと語られていて、「私」の視線で読むことができたのは、とても偉大な事だと思います。

 春を運んでくれるはずだった彼に対しての失望と無念さを表現している部分も良かったです。大変素晴らしい作品であることは間違いありません。

 ありがとうございました。


「魔法使いの夜」 大和田よつあしさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093075761541768


ひとこと:ナイストライ!


 本賞は短歌がダメなので、「ならば小説で短歌を出そう」という意欲的な作品でした。その意気や良し! とわたしは膝を叩きました。

 しかも、本作の魅力はそんな意欲だけの話だけではなく、短歌を通して展開される人間ドラマが素晴らしいのです。参加作品中、一番キャラが生き生きと動いていたと思います。飲み会兼歌会という雰囲気もまた説得力があって、個性的な使たちの振る舞いにクスリときました。いいですね。わたしは好きです。「タイトル詐欺やーん」というのも、また味があって良いです。

 キャラに合わせて短歌を考えるのも大変だったと思います。よくできていると感心いたしました。

 個人的な好みとしては、歌会に参加したことないので、「嘘」になってしまうかもしれませんが、短歌の後にすぐツッコミではなく、(短歌の)作者のいいわけとか、ボケみたいなものがあるとツッコミがより冴えていいなーと思いました。(短歌自体がひとつのボケにはなってはいるのですが)。

 ありがとうございました。


「拝啓、花泥棒さんへ」 syu.さん

https://kakuyomu.jp/works/16818093076474463041


ひとこと:オリジナルではない?


 本作、めちゃくちゃ気になってました。snowdropさんの感想でインスパイアではないかと知るまでは、とんでもない感性をしている! と感動すらしていました。「偏平足で」という表現など、どちらのプロ作家さんですか? と思ったくらいです。

 オリジナル云々は横に置いて感想を書かせていただきますと、非常に魅力的でした。未熟というか背伸びしているような感じの文章が逆にみずみずしくて良かったです。話の内容も好きで、実は本作については早口で色々と語りたくらいに魅力を感じていました。

 ただ、わたしには本作が作者の素の感性なのか、ボカロのインスパイア(?)なのかがわかりませんでしたので、もし作品の解説を伺えるのであれば、拝聴したいと思いました。

 ありがとうございました。

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