4

 その日の夜、上田はバラエティ番組を見ていた。勉強を終わった。宿題はすべて終わった。あとは寝るだけだ。だけど、寝る前に少しバラエティ番組を見ておこう。


 上田は時計を見た。もう10時が近い。そろそろ寝る時間だ。上田は部屋の明かりを非常灯にして、テレビを消した。


「もう寝よう」


 上田はベッドに横になり、寝入った。明日も学校だ。きっと明日もいい事があるだろう。明日も学校を楽しもう。


 上田は夢を見た。それは、翌朝の夢だ。もう朝を迎えたのか。ずいぶん早いな。まだあんまり寝ていないのに。


 上田は教室にやって来た。いつもの光景だ。だが、みんないない。どこに行ったんだろう。とても静かだ。


「おはよう、って、あれっ!?」


 上田は戸惑った。来た時には誰かがいるはずなのに。どうしたんだろう。休んでいるんだろうか?


「みんな、どうしたの?」


 上田は尿意を感じた。とりあえずトイレに行って落ち着こう。


「ちょっとトイレに行こう」


 上田はトイレに向かった。だが、廊下も静かだし、トイレへ向かう途中にある教室にも誰もいない。


「はぁ・・・」


 上田はトイレにやって来た。だが、ここにも誰もいない。明らかにおかしい。何が起こっているんだろう。こんなの夢だ。早く夢から覚めろ!


 突然、上田は誰かがいるのを感じた。上田は振り向いた。だが、誰もいない。上田は首をかしげた。この気配は何だったんだろう。


「えっ、えっ・・・」

「フフフ・・・」


 今度は誰かの声が聞こえた。女の声だ。ここは男子トイレなのに、女子がいるんだろうか?


「だ、誰?」


 上田は前を向いた。だが、そこにも誰もいない。上田はほっとした。きっと錯覚だ。


「誰もいないのか・・・」

「ウフフフ・・・」


 だが、再び不気味な笑い声がした。そして、トイレの電気が消えた。


「うわっ・・・」


 上田は戸惑った。今度は何が起こるんだろう。全くわからない。だが、何か恐ろしい事が起こるに違いない。


「あれっ、誰もいないな・・・」


 上田は振り向いた。そこには白い服に赤いスカートを着たおかっぱの女がいる。イメージ的にトイレの花子さんだろうか?


「うわぁぁぁぁぁ!」


 上田はおののいている。トイレの花子さんは包丁を持っている。今にも襲い掛かってきそうだ。


「悪い子にはお仕置きしないとね」


 花子さんは明らかに上田を狙っている。上田は願った。早く夢から覚めてくれ。


「悪い子?」


 上田は首をかしげた。俺はいい子だ。絶対に悪い事はしない。そう思い込んでいた。本当は宙をいじめているにもかかわらず。


 だが、花子さんは見抜いていた。この子は宙をいじめていた。だから、懲らしめないといけない。


「そう。あなた、悪い子でしょ? だから、地獄に連れてってあげる!」


 そういって、花子さんは上田に襲い掛かってきた。上田は呆然としたまま、何もできなかった。


「や、やめろーーーーー!」


 上田は目を覚ました。いつも通りの現実の朝だ。やはり夢だったようだ。でも、あの夢は何だったんだろう。自分がいい子じゃないことを花子さんが見抜いていた。


「はっ、夢か・・・」


 上田は汗をぬぐった。まだ夏じゃないのに、汗をかいてしまった。夢があまりにも怖かったからだ。


「何だったんだろう」


 上田はカーテンを開け、朝日を見ていた。まだ夢の衝撃から覚めない。


 上田はいつものように1階のダイニングにやって来た。ダイニングには母がいる。父はすでに出勤している。


「おはよう」

「おはよう、って汗だくじゃないの? 何があったの?」


 母は気にしていた。夏じゃないのに、どうしてこんなに汗をかいているんだろう。何か具合が悪いんだろうか?


「何でもないよ・・・」


 と、母は上田の手に赤いのが付いているのが気になった。世見ると、血のようだ。だが、出血した跡はない。では、この地は一体何だろう。


「ちょっと将太、手に赤いのが付いてるよ!」

「えっ・・・」


 上田は手を見た。すると、血が付いている。上田はゾッとなった。まさか、包丁で切りつけられたのかな・ いや、あれは夢だったはずだ。なのに、どうして手に付いているんだろう。


「ど、どうしたの?」


 母は上田の表情が気になった。何があったんだろう。


「な、何でもないよ」

「そう・・・」


 だが、母は疑わしかった。きっと昨日の夜、何かがあったに違いない。




 学校にやって来た上田は、落ち込んでいた。昨日の夜の影響で、トイレに行くのが怖い。花子さんが出るかもしれない。夢だとわかっていても、怖くて近づけない。


「はぁ・・・」

「どうしたの?」


 突然、誰かが話しかけてきた。木島だ。木島も汗をかいていた。


「昨日の夜、ものすごく悪い夢を見たんだ」

「えっ!?」


 木島は驚いた。というのは、木島も花子さんに襲われる夢を見たからだ。だが、上田には全く話していない。


「トイレに行ったら、花子さんに襲われる夢?」


 それを聞いて、上田は驚いた。自分が見た夢と全く一緒だ。まさか、木島も全く同じ夢を見ていたなんて。自分の夢も、木島の夢も、花子さんが見せているんだろうか?


「それ、俺も見た・・・」

「悪い子は地獄に行ってらっしゃいって言われて」

「全く同じ夢だよ」


 木島は呆然となった。俺が見た夢と全く同じだ。でも、悪い事をしていたっけ? ただ俺たちは、宙をいじめていただけなのに。


「そ、そんな・・・」


 と、そこに宙がやって来た。宙はいつも通りの夢を見ていたようで、何かにおびえている表情じゃない。


「おはよう、どうしたの?」

「いや、怖い夢を見てね」


 怖い夢? まさか、何かに襲われる夢だろうか?


「どんな?」

「花子さんに殺されそうになる夢なんだけど」

「えっ・・・」


 それを聞いて、宙は驚いた。まさか、花子さんがそんな夢を見せていたとは。僕のために、こんな事をしてくれるとは。嬉しいけど、ちょっとやりすぎじゃないかな? だけど、しつけのためならいいかもしれない。


「どうしたの?」


 木島は宙の表情が気になった。花子さんの事を知っているんだろうか? まさか、花子さんと付き合っているんだろうか? いや、そんな事はない。花子さんは妖怪だ。


「いや、何でもないよ」

「ふーん・・・」


 だが、2人は怪しいと思っていた。宙は花子さんと何らかの関係を持っているに違いない。


「そっか。昨日はいじめてて、ごめんね」


 宙はほっとした。謝ってくれた。これは本気だ。もういじめないだろう。


「いいよ。わかってくれたのなら」

「ありがとう」


 その時、チャイムが鳴った。そろそろ朝の会だ。


「あっ、そろそろ授業だ」


 チャイムを聞くと、生徒は席に座った。程なくして、小田がやって来た。生徒は先生をじっと見ている。




 放課後、相変わらず木島はおびえていた。この小学校には花子さんがいて、悪い子は殺そうとしている。そう思うと、小学校に行くのが怖いと感じる。


「まだおびえてる」


 木島は振り向いた。そこには宙がいる。


「どうしたの? 花子さん、怖くないの?」

「うん。花子さんは、よい子の味方だから」


 宙は知っている。花子さんは宙のようなよい子の味方だ。悪い子にはお仕置きをするだろう。だから、そんなに怖くないだろう。


「そうかな?」

「歌ってるじゃない。言う事聞かない悪い子は夜中迎えに来るんだよって」


 確か、そんな歌があるな。ひょっとして、その歌詞の通りの出来事だろうか? そう思うと、よい子でいれば花子さんは襲い掛かる夢を見ないんじゃないかな?


「あの夢はひょっとして、それだったのかな?」

「わからないけど、そうじゃない?」


 木島は昨日の夜の夢の事を思い出した。悪い子だから、あんな夢を見たんだ。


「そう思っておこう。いい子でいれば、怖い事が起こらないんだと」

「そうしておこうよ!」

「そうだね」


 木島は時間を見た。そろそろ帰らないと親が心配する。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ!」


 木島は教室を出ていった。宙は1人になった。そろそろ自分も帰らないと。


「ねぇ」


 誰かの声で、宙は振り向いた。そこには花子さんがいる。


「は、花子さん?」

「あの子、いい子になっていて、よかったね」


 花子さんは喜んでいる。木島も上田も仲直りしたようだ。これからいい子になってくれるだろうな。


「ほんとほんと」


 ふと、宙は思った。上田や木島に悪夢を見せたのは、花子さんだろうか?


「あの子に悪い夢を見させてあげたの」

「やっぱり花子さんの仕業だったんだね」


 やっぱりそうだったのか。花子さんは宙を守るために懲らしめていたんだな。宙を守るためにここまで頑張ってくれるとは。やっぱり花子さんは僕の味方なんだな。宙はもっと花子さんが好きになった。だけど、一緒になれない。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよ」

「とりあえず、私はよいこの味方だから。あの子たちが良い子になってくれるのなら、私は何もしないから」


 宙は思った。これからあの子たちは花子さんの悪夢を見なくなるんだろうか? そして、宙をいじめなくなるんだろうか?


「これからあの子たち、悪い夢を見ないって事だね」

「そう思って!」


 宙はほっとした。転校して早々、いろいろあったけど、やっと平凡な日々が戻りそうだ。それに、いい友達に巡り合えた。だけど、これからもっと友達を作らないと。

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花子さんと恋に落ちた 口羽龍 @ryo_kuchiba

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