3

 宙はいつものように帰ってきた。だが、香奈枝はいない。だが、宙は寂しくない。いつもそうだからだ。こんな雰囲気には慣れている。


「はぁ・・・」


 宙はため息をついた。同級生にいじめられた。もう誰とも遊びたくない。孤独でいたい。


「寂しいな・・・」


 宙は2階の部屋に入った。宙は部屋の明かりをつけた。中には机とベッドと本棚、テレビがある。


 宙はすぐにハードのスイッチを入れ、テレビゲームを始めた。みんなで楽しむゲームをやりたいけど、誰もいないから、やる気にならない。


「遊ぼうか?」


 その声に気づいて、宙は振り向いた。そこには花子さんがいる。ここまで来るとは。よほど僕の事が好きなんだろうか?


「えっ!?」


 宙は戸惑っている。ここまで花子さんが来てしまった。どうしよう。


「来ちゃった!」

「そんな・・・」


 花子さんは戸惑った。宙は嫌がっているんだろうか? 嫌なら、また学校に戻ろうかな?


「嫌?」

「いいよ。寂しいから」


 宙は歓迎しているようだ。花子さんはほっとした。宙は私の事が嫌いではないようだ。


「そう。ありがとう」


 花子さんは笑みを浮かべた。また遊べて嬉しいようだ。


「まさか、遊べるなんて」

「いいじゃないの。友達だもん」

「そうだね」


 2人はテレビゲームを始めた。花子さんは、その様子を見た事はあるが、実際にやるのは初めてだ。なかなか面白い。だが、しすぎるとダメな理由もわかる。現実と架空の区別がなくなりそうだ。


「お父さんとお母さんは?」

「お父さんとお母さんは離婚して、今はお母さんと一緒に暮らしてるんだ」


 花子さんは納得した。だから宙はいじめられているのかな? そんないじめはいい加減にしてほしいな。普通の男の子なのに。


「それでいじめられてるの?」

「うん」


 花子さんは宙がかわいそうだと思った。私の力で何とかしてやりたいな。そのためには、何をした方がいいんだろう。


「かわいそうだね。何とかしてやりたいよ」

「本当?」


 宙は驚いた。あの時のように助けてくれるだけではなくて、ずっと助けてくれるとは。花子さんはこんなに優しいおばけだったとは。


「うん。私、怖いけれど、よい子の味方だから」

「本当?」

「うん」


 と、花子は昨日の事が気になった。昨日は普通に子供たちと遊んでいた。あの頃は母と2人暮らしってのがわからなかったんだろうか?


「昨日は普通に遊んでたのに」


 と、宙はつらい表情を見せた。母に会う時間が少なくて、寂しいようだ。


「つらいの?」

「うん」


 花子さんは宙の肩を叩いた。冷たいはずなのに、宙にはなぜか暖かく感じる。どうしてだろう。


「大丈夫。私がいるから」

「ありがとう」


 と、遊んでいるうちに午後5時だ。そろそろ勉強をしないと。


「そろそろ勉強をしないと」

「ふーん・・・」


 宙はハードの電源を切り、机に向かった。机の上には、教科書やノートがある。宙は机に座ると、すぐに勉強を始めた。


「宙くん、頭いいの?」

「普通」


 花子さんは気になった。宙は頭がいいんだろうか? 得意な教科は何だろう。


「そっか」


 だが、しばらくやっていると、宙の筆が止まった。わからない所があるようだ。その様子を、花子さんはじっと見ている。それを見て花子さんは、まるで家庭教師のように教えだした。まさか、花子さんが教えてくれるとは。


「わからない?」

「うん」


 優しい子を放っておけない花子さんは、宙を助けたいと思っていた。


「じゃあ、教えようか?」

「本当?」

「うん」


 花子さんは宙の横に立ち、勉強を教え始めた。宙はその様子を見ている。


「ここは、こうやるの」

「ふーん」


 宙は驚いた。花子さんは頭がいい。こんなに優秀だとは。


「花子さん、頭いいの?」

「うん」


 花子さんは笑みを浮かべた。頭がいいと言われると、とても嬉しいようだ。


「そっか。すごいなー」

「ありがとう」


 花子さんは思った。この子なら、ずっと好きになれるかもしれない。




 次の日、いつものように宙は帰ろうとしている。だが、宙の気分は晴れない。奴らにいじめられているからだ。もう誰とも帰りたくない。寂しいけれど、自分の身を守るためだ。


「はぁ・・・。さて帰ろう」


 宙が帰ろうとしたその時、どこからかチョークが飛んできて、宙の頭に当たった。


「いてっ・・・」

「やったー、やったー!」


 宙にはわかった。またあいつらだ。だけど、反撃できない。反撃したら、仕返しされる。痛い事をされたくない。


「あいたっ!」


 突然、チョークを投げた木島が頭を抱えた。チョークが飛んできたのだ。まさかの出来事に、木島は驚いた。誰が投げたんだろう。木島は後ろを振り向いた。だが、誰もいない。


「なんでチョークが・・・」

「宙、お前投げただろう」


 隣にいた上田は宙を疑った。だが、宙は首を振る。


「投げてない!」

「嘘つけ! 水をかけたり、チョーク投げたり、生意気だぞ!」


 木島と上田は宙に殴りかかろうとした。宙はおびえている。何もやっていないのに。


「何もやってない!」

「こいつ!」


 だがその時、今度は黒板消しが飛んできた。だが、3人は気づいていない。黒板消しは木島と上田の頭に当たった。


「痛い! やめて!」

「いったー! 今度は黒板消しが!」


 2人は頭を抱えた。宙は呆然としている。何が起こっているんだろう。まさか、花子さんだろうか?


「どうして?」

「宙がやったんじゃないのに」


 明らかに宙がやった事じゃない。じゃあ、誰がやったんだろう。


 2人は黒板を見た。すると、白いチョークが勝手に動き出した。今度は何だろう。まさか、黒板消しが飛んでくるのも含めて、これらは超常現象だろうか?


「ん?」


 3人は黒板を見ている。黒板には『うらめしや』と書かれている。


「う・ら・め・し・や?」

「うわぁぁぁぁぁ!」


 それを見て、2人は大声を出して、教室を出ていった。そして、2人はそのまま下校していった。黒板を見て、宙は呆然としている。


「えっ!? 花子さん?」


 すると、目の前に花子さんが現れた。まさか、これらは花子さんがやったんだろうか?


「うん。大丈夫だった?」

「何とか大丈夫」


 どうやらそれらは花子さんがやったようだ。僕のために、こんなにしてくれるとは、嬉しいな。


「よかった。懲らしめてやったからね」

「ありがとう」


 宙は安心した。そろそろ帰ろう。まだ香奈枝は帰ってきていない。だけど、帰らなければ。


 帰り道、宙は1人で帰っているように見えるが、横には花子さんがいる。宙は楽しそうだ。誰かと帰れるだけで、こんなに楽しいとは。


「宙くん、家族は?」

「お母さんと暮らしてる。お父さんとは別れたんだって」


 宙は寂しそうだ。離婚してほしくなかった。だけど、父は浮気をして、別れてしまった。


「そうなんだ」

「僕にはわかるんだ。だからいじめられるんだって」


 宙はわかっている。自分には父がいないから、いじめられるんだ。行けない事だとわかっている。だけど、自分で止められない。


「ひどいよね。普通の子供なのにね」

「うん」


 花子さんは宙の気持ちがわかった。普通の子供なのに、宙をいじめる奴らが許せない。私はよい子の味方だ。逆に、悪い子の敵だ。


「でも私は、よいこの味方だから、宙くんが好きだよ」


 宙は少し照れた。まさか、花子さんから好きだと言われるとは。


「本当?」

「うん」


 花子さんは笑みを浮かべた。とても妖怪とは思えない。だけど、目の前にいるのは妖怪だ。


「ありがとう。だんだん君の事が好きになってきちゃった」

「ありがとう」


 だが、宙は残念そうだ。花子さんは妖怪だ。一緒になれない。いつまでも友達のままだ。だけど、それはしょうがない。


「だけど、一緒になれないんだよね」

「うん。こんな姿で、ごめんね」


 花子さんは、妖怪である事を謝った。本当は一緒になりたいのに、なれないのをつらいと思っている。


「いいよ。優しく接してくれる花子さん、好きだから」

「本当?」

「うん」


 その頃、後ろでは木島と上田が歩いていた。宙の様子がおかしいのに気が付いている。1人で歩いているのに、誰かと歩いているようなしぐさだ。明らかに怪しい。


「あいつ、誰と話してんだろう」

「わからないけど、放っておこうよ」


 だが、2人は何もやらないようにしようと思った。これ以上やったら、ひどい目に遭いそうだ。今さっき、チョークや黒板消しが飛んできて、『うらめしや』と書かれたからだ。


「そうだね。これ以上からかうと、ひどい目に遭いそうだよ」

「確かに。あの黒板の事みたいにね」

「うん」


 2人が別れる交差点にやって来た。ここからは別れて帰らないと。


「じゃあね、バイバイ」

「バイバーイ」


 2人は別れた。また明日、学校で会おう。

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