2

 次の日、宙はいつものように学校にやって来た。今日も楽しい日々が始まるだろうと思っている。クラスメイトと遊んで、帰ってからもゲームをする。これが一番だ。


「おはよう」


 宙は話しかけたが、まるで無視するかのように他の人の元に向かう。


「ねぇねぇ、昨日のアニメ見た?」

「うんうん。面白かったよね」

「ああ」


 2人は仲がよさそうに話している。僕に興味はないんだろうか? どうして挨拶をしないんだろうか? 僕の事が嫌いなんだろうか?


 宙はトイレに向かった。少しトイレで落ち着こう。男子トイレには誰もいない。とても静かだ。朝の騒然教室の騒然さとは非対称だ。


 宙は個室に入った。個室には和式トイレがある。このトイレには1か所だけ洋式があるが、宙はここを選択した。


「はぁ・・・」


 宙がため息をついたその時、上から水が降ってきた。明らかに誰かがかけたものだ。宙は目をふさいだ。汚い水が体中についてしまった。どうしよう。このままでは教室に行けない。


「うわっ!」

「へへへ・・・。やったーやったー!」


 やったのは、この隣にいた宙の同級生だ。父のいない宙にちょっかいを出そうと思ったのだ。隣で笑い声がする。それを聞いて、あいつらがやったんだと宙は確信した。だが、何もできない。どうしよう。


「えっ!?」


 何かに気づいて、同級生たちは上を向いた。そこにはバケツがある。だが、持っている手はない。宙に浮いているのだ。えっ、幽霊? 同級生たちはびくっとなった。


「うわっ!」


 上を向いて間もなく、バケツが傾いた。中には大量の水が入っていて、同級生たちは宙よりも大量の水を浴びた。同級生たちはパニックになった。まさかこんな事になるとは。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 同級生たちはびしょ濡れのまま、トイレから逃げていった。バケツがひとりでに動いて、水をかけられたからだ。


 それに気づいた宙は、個室から出てきた。宙は呆然としていた。何が起こったんだろう。


「あれ?」

「大丈夫?」


 宙は振り向いた。そこには白い服に赤いスカートの女の子がいる。男子トイレなのに、どうしてここにいるんだ? ここに来ちゃダメだろ?


「うん。大丈夫だけど、って、君、誰?」

「誰って? まぁ、みんなからはトイレの花子さんって言われてんだけどね」


 宙は驚いた。まさか、あの都市伝説のトイレの花子さん? 全然怖くない。可愛いじゃないか。


「そ、そんな・・・。あの?」

「うん。でも、全然怖くないよ」


 花子さんは笑みを浮かべた。まさか、僕の事が好きなんだろうか? いや、幽霊だから好きじゃないだろう。


「うーん。僕のイメージでは怖いイメージしか浮かばないんだけどな」


 宙は、花子さんは子供を殺そうとしている妖怪だと思っていた。だが、イメージとは全く違う。


「大丈夫大丈夫。それより、水かけられて大丈夫?」


 花子さんは心配していた。宙が同級生たちにちょっかいを受けていた所を見ていたようだ。同級生は花子さんが見えなかったんだろうか?


「うん。大丈夫だけど」

「よかった。私が懲らしめてやったからね」


 宙はハッとなった。あの時、同級生たちを懲らしめたのは、花子さんだったのか。僕を守ってくれるなんて、嬉しいな。これは友達になれそうだ。


「あ、ありがとう・・・」


 だが、花子さんは妖怪だ。話しかけるのが怖い。何をされるのか考えると、少し戸惑う。


「気楽に話しかけてもいいんだよ」

「う・うん・・・」


 花子さんは妖力で宙の服や体を乾かした。まさかこんな事もしてもらえるとは。


 その頃、同級生たちは教室に帰ってきた。乾かしてもらえなかった同級生たちはずぶぬれだ。同級生たちは恥ずかしそうな様子だ。ずぶぬれでトイレから戻ってきたからだ。


「ふぅ・・・」


 水をかけられたうちの1人、田中はため息をついた。このトイレには、宙しかいなかった。まさか、宙がそんな事をするとは。


「誰だよ、水をかけたの」

「わからない」


 田中は拳を握り締めていた。宙がしたに違いないと確信していた。


 と、そこに宙がやって来た。それを見つけた同級生たちは、一斉に宙に視線をやる。


「あっ、こいつに違いない!」

「違う! 違う!」


 だが、宙は否定する。僕はただトイレにいただけだ。信じてくれ!


「いや、お前しかいないだろう! トイレにいたの、俺たちの他にお前だけだろう」

「本当に違うんだよ!」


 それでも宙は否定する。だが、同級生たちは宙の言っている事に聞き耳を持っていないようだ。


「嘘つき!」

「やめて! やめて!」


 と、廊下を見ていた田中が何かに気づく。小田先生がやって来る。


「やべっ、先生が来る!」


 小田がやって来た。小田を見た生徒は、席に戻った。


「起立! 礼!」


 そしていつものように朝活が始まった。




 その日の帰り道、同級生たちは悩んでいた。水をかけたのは、誰だろう。バケツが宙に浮いているから、明らかに宙はやっていない。それとも、宙が念力でバケツを動かしたんだろうか? いや、魔法も超能力もあるはずがない。


「本当に誰だったんだろう」

「わからない」


 田中も悩んでいた。まさか、妖怪か幽霊だろうか? いや、この世界に妖怪も幽霊もいない。そんなの作り話だ。


「あいつがやり返すなんて、ありえないし」

「もしかして、おばけ?」


 一緒に歩いていた江藤はおばけじゃないかと思った。だが、田中は嫌な目で見る。おばけなんているわけない。


「そんな事ないってば」

「うーん、そうだよね」

「うん」


 同級生たちの足取りは重い。宙にちょっかいを出したから、呪われたんだと思った。そう思うと、これからどうなるんだろうと不安になる。

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